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HATZIS/Flute Concertos
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Patrick Gallois(Fl)
Alexandre Myrat/
Thessaloniki State Symphony Orchestra
NAXOS/8.573091




カナダの作曲家、クリストス・ハツィスのフルート協奏曲が2曲収められたアルバムです。フルートを演奏しているのは、このレーベルでお馴染みのパトリック・ガロワ。この、1953年生まれのハツィスという作曲家の名前は全く聞いたことがありません。こんなフルートがメインのCDが出なければ一生聴くことのなかった作曲家だったのかもしれませんね。これこそまさに「出会い」というものです。
ガロワとハツィスも、やはり「出会い」があったからこそ、このCDが生まれることになったのでしょう。その様子がライナーノーツ(英文)で語られています。それは2000年のこと、当時トロントに住んでいたガロワが、トロント大学のハツィスのオフィスのドアをトロントンとノックして、「なにか、フルートのために作曲したものはありませんか?」と聞いたことから、その関係が始まったのだそうです。そこでハツィスは、1993年に作ったものの、誰にも演奏されずずっと無視されていた「Overscript」の初演を、翌年ガロワに行ってもらえることになったということです。
実は、このCDはもう一つの「出会い」にも支えられて出来上がりました。それは、ここでの指揮者アレクサンドル・ミラ。彼はガロワとはパリでの学生時代からのお友達、さらに、ハツィスの作品のよき理解者として、多くの作品を世界中で演奏しているのでした。ここにめでたく「愛の三角関係」?が成立、ミラが芸術監督を務めるギリシャのオーケストラとガロワによって、2つのフルート協奏曲が世界で初めて録音されることになったのです。
2011年に作られた「Departures」は、タイトルが示すように作曲家の個人的な知己との「別れ」がモティーフになっているとともに、その年に勃発した「フクシマのツナミ」にもインスパイアされているのだそうです。古典的な協奏曲のような動きの激しい両端の楽章と、穏やかな真ん中の楽章を持つ3楽章形式が取られています。第1楽章は「Blooming Fields」というタイトルが付けられていますが、これは、ジョージ・ブルームフィールドさんという亡くなった友人にちなんだもの。別に「花咲き乱れる丘」のような意味はないのでしょう。これはもろ中国風の5音階の世界。聴いていて恥ずかしくなるような音楽です。第2楽章は「Serenity」。105歳で亡くなった「霊感豊かな女性」にささげられているということですが、そのまんまの「癒される」曲調です。そして、第3楽章が「フクシマのツナミ」ということになります。「フクシマ」だけに限定したということで、これは容易に原発事故に結びつきますが、そのタイトルが「Progress Blues」という、何か深い意味が感じられるものです。作曲者によると、「Progress=進歩」とは、そのような事故を引き起こした「科学技術の進歩」のこと、それに対する「憂い」が「ブルース」なのでしょうか。とは言っても、音楽自体は日本の篠笛あたりを思い起こさせるようなフルートの特殊奏法が、もろ「ブルース」風のリズムの中で披露されるのが、ちょっと薄っぺらな感じです。最後の最後に、まさに「津波」を描写したかのようなドラマティックな音楽で恐怖を誘おうというのも、あまりに安直。
ガロワによって日の目を見ることになった「Overscript」は、「上書き」とでも言ったような意味合いでしょうか。ということはその前の「下書き」があるはずですが、それがバッハの、ヘ短調のチェンバロ協奏曲BWV1056の元の形と考えられているト短調のヴァイオリン協奏曲BWV1056/Iです。これは、早い話がこちらと全く同じコンセプトによる「リコンポーズ」の世界、バッハの元ネタを切り刻んで貼りあわせれば、それが新しい音楽になりうるという愚かな勘違いの産物以外の何物でもありません。
ここでのガロワは、全く報われないもののために、その名人芸を奉仕しているように思えてなりません。「出会い」は、必ずしも幸福な結果を招くものとは限らないのです。

CD Artwork © Naxos Rights US, Inc.
by jurassic_oyaji | 2014-06-21 20:18 | フルート | Comments(0)