Roberta Invernizzi(Sop)
Salvo Vitale(Bas)
Giulio Prandi/
Ghislieri Choir & Consort
DHM/88843051022
ダヴィデ・ペレスなどという、三省堂の「クラシック音楽作品名辞典」という権威ある辞典(もちろん、これは皮肉です。これほどいい加減で情報量の乏しい辞典も稀です)にはもちろん載っていないようなレアな作曲家の作品などを聴こうと思ったのは、もちろんこれが世界初録音である「死者を悼むための曲」が収録されているからでした。
ペレスというのは、
1711年に生まれて
1778年に亡くなったイタリア人の作曲家です。若い頃はイタリア各地で数多くのオペラを作っていましたが、
1752年からはポルトガル王のジョゼ一世の宮廷音楽家として仕え、亡くなるまでリスボンで暮らしました。そのポルトガル宮廷時代に、ペレスは多岐にわたる宗教曲を残します。それは「詩篇」、「ミサ」、「モテット」、「レスポンソリウム」、「レクイエム」、「スターバト・マーテル」、「ミゼレーレ」、「マニフィカート」、「テ・デウム」など、まさにあらゆるジャンルの宗教曲を網羅した作品群です。
そんな中で、
1770年に作られたとされるこの「死者のための朝の祈り」は、
1774年にはロンドンの出版社から出版され、ポルトガル国内だけではなく、植民地のブラジルでも、
19世紀の末まで広く演奏されていたといいます。今回の演奏にあたっては、この出版譜のコピーをもとに、さらに自筆稿なども参照して指揮者のプランディなどが校訂を行った楽譜が用いられているそうです。
ソリストが数名(この録音では7人のソリストがクレジットされています)、それに、当時としてはかなり大規模な編成のオーケストラと合唱のために作られたこの曲は、おそらく「岬の聖母教会」への巡礼の際に初演されたのではないかと言われています。ジャケットに写っている建物が、その教会の宿坊です。リスボンの南に位置し、大西洋に面してむき出しの岩肌をみせるエスピシャル岬では、そこから眺める大西洋に沈む夕日がまるで聖母のように見えることから、中世からそこに巡礼するという伝統があったのだそうです。
そもそも「朝の祈り」というのがどういうものなのかは、このライナーノーツや、例によって間違いだらけの代理店のインフォ(今回の間違いは、あきれるほどのひどさです)などからは、皆目知ることはできません。一応、同じような構成の曲が3つあって、それぞれに「ノットゥルノ(夜想曲)」というタイトルが付いているのですから、どう
のっとぅるのかますます訳が分からなくなってしまいます。朝なのか夜なのか、はっきりしてもらいたいものです。
それぞれの「ノットゥルノ」は、さらに3つの「レスポンソリオ」から出来ています。それは、まずオーケストラが、とても「明るい」音楽を演奏することで始まります。フルートやオーボエの華やかなフレーズが、それに彩りを添え、ソロや合唱が盛り上げます。最後がフーガとなってちょっと毛色が変わったと思うと、「ヴェルセット」という部分に変わり、そこではソリストがまるで「オペラ・セリア」のような技巧的なアリアを歌います。そのあとにさっきのフーガが繰り返され、一つの「レスポンソリオ」が終わります。しかし、3度目の「レスポンソリオ」では、そのあとに「レクイエム」の冒頭の歌詞による音楽が演奏されます。さらに、曲全体の最後の最後、3番目の「ノットゥルノ」の最後の「レクイエム」の前には、「ディエス・イレ」が演奏されます。
そのように、テキストだけ見るとこれはまぎれもない「死者のための」音楽なのですが、その「明るさ」は、その時代の様式を過不足なく反映していることを差し引いても、かなりの違和感がもたらされます。これは、おそらく「礼拝」というよりは「祝典」の意味を持って作られたものなのではないか、という気がするのですが、どうでしょうか?実際、この
CDでの演奏家たちは、誰も深刻ぶってはおらず、楽しげに音楽を作っているように感じられます。
CD Artwork © Sony Music Entertainment Italy Spa