おやぢの部屋2
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HINDEMITH/Complete Viola Works Vol.1
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Tabea Zimmermann(Va)
Hans Graf/
Deutsches Symphonie-Orchester Berlin
MYRIOS/MYR010(hybrid SACD)




先日聴いたMYRIOSレーベルのSACDがあまりに素晴らしかったものですから、少し前のこんなアルバムもゲットしてしまいました。ステファン・カーエンがレーベルを創設する時に最初に録音を行っていたアーティストである、ヴィオラのツインマーマンによるヒンデミットです。これは、ヒンデミットのヴィオラが含まれる作品集の第1巻、オーケストラとヴィオラという編成のものが収録されています。さらに、無伴奏ソナタやピアノ伴奏によるソナタが入った2枚組のSACDも、すでにリリースされています(MYR011)。
ヒンデミットと言えば、個人的に「有名」なのは、もちろん「フルートソナタ」と、「ウェーバーの主題による交響的変容」、さらに「朝7時に湯治場で二流のオーケストラによって初見で演奏された『さまよえるオランダ人』序曲」あたりでしょうか。ウェーバーもオランダ人も、しっかりと「元ネタ」があって、それを「ほとんど崩していない」という作品ですから、オリジナルとは言えません。そうなると、やはり名前的になじみがあるのはこのSACDに収録されている「白鳥を焼く男」ということになるのでしょうか。
ヒンデミットと言えば「ヴィオラ」と言われるように、彼はこの地味~な楽器をソロにした多くの作品を残しています。そんな中で、バックのオーケストラからは、なんとメインの楽器であるヴァイオリンとヴィオラを取り払ってまで、ソロのヴィオラを目立たせたいと思ったこの曲は、そんな特異な編成よりも、なんと言ってもそのユニークなタイトルによって、ほんの少し「有名」になっているのではないでしょうか。しかし、ほとんどこれが定訳となっているこの不気味なタイトルは、その内容を正しく伝えるものではありません。原題の「Der Schwanendreher」は、この曲の第3楽章に用いられている「あなたはSchwanendreherではありませんね?」という古謡のタイトルからきているのですが、この言葉は直訳すれば「白鳥を回転させる人」なので、どこにも「焼く」とせる部分などはないのですよ。
しかし、この単語の後半「dreher」は、シューベルトの「冬の旅」の最後の最後のテキスト「Deine Leier drehn?」でおなじみではなかったでしょうか。ここで旅人は「辻音楽士」に対して「ハーディ・ガーディを弾いてはもらえないだろうか?」と懇願していたのでした。この楽器はハンドルを「回転」させて音を出しますから、「回転させる」と「弾く」とは同義語になるわけです。
そこでヒンデミットです。この作品の中で用いられている古謡は、中世のミンストレルたちが、それこそハーディ・ガーディ片手に歌っていたもの、「Schwanendreher」こそが、その「ハーディ・ガーディ弾き」なのですよ。この楽器が白鳥に似ていることも関係しているのでしょう。
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しかし、ヒンデミットがこんな本物の白鳥に串を通して「回して」いるという下手くそな絵を書いて、「これがタイトルの唯一正統的な説明なのだ」などと言ってしまったものですから(おそらく、これは彼ならではのジョークでしょう)これを真に受けた「白鳥を焼く男」という訳がまかり通るようになってしまったに違いありません。
ツィンマーマンの奏でるヴィオラの音は、この、まさに期待通りの素晴らしい録音によって、ヴァイオリンともチェロとも違う独特の魅力を持った楽器としての主張が伝わってくるものでした。そんなソリストのまわりで、ある時は控えめに、ある時はソリストと対等にふるまっているオーケストラの姿も、生々しく迫ってきます。
最後に収録されている「ヴィオラと大室内管弦楽のための協奏音楽」(これも、ツッコミどころの多い邦題ですね。「大室内管弦楽」って、なんなんでしょう)は、これが世界初録音となる「初稿」による演奏です。改訂された現行版は、これに比べると、なにか「軽さ」が強調されているような気がします。これもヒンデミットのサービス精神の賜物?

SACD Artwork © Myrios Classics
by jurassic_oyaji | 2014-07-31 20:09 | オーケストラ | Comments(0)