おやぢの部屋2
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MOSCHELES/Music for Flute and Piano
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瀬尾和紀(Fl)
上野真(Pf)
NAXOS/8.573175




モーツァルトが亡くなった3年後に生まれ、シェーンベルクが生まれる4年前に亡くなったイグナツ・モシェレスは、今ではピアノ関係者以外にはほとんどその名前は知られていないようですが、生前はピアニスト、作曲家、そして指揮者としてヨーロッパ中の音楽家から尊敬された存在でした。特にメンデルスゾーンとは、最初は音楽教師として出会い、生涯変わらぬ友情で結ばれていました。晩年は、メンデルスゾーンが作ったライプツィヒ音楽院の院長も務めています。グリーグの若いころのライプツィヒ留学の際の教師が、モシェレスです。
彼の作品は、彼の楽器であるピアノのためのものが圧倒的に多くなっていますが、フルートが加わった協奏曲や室内楽も少し残しています。そんな、フルートとピアノのための作品の大多数を収めたものが、このアルバムです。おそらく、これだけまとまってモシェレスのフルートのためのレパートリーを集めたCDは今までにはなかったのではないでしょうか。さすがはそういうものにかけてはお得意のNAXOSです。
ここでフルートを演奏しているのは、瀬尾和紀さん。瀬尾さんと言えば、デビュー・アルバムがやはりNAXOSからリリースされたホフマンのフルート協奏曲全集という、こちらもそれまでにはなかった珍しいレパートリーのアルバムでしたね。それは2000年ですから、ずいぶん昔のことになってしまいました。
このアルバムは、一昨年に三重県のホールで録音されたものです。ピアニストは上野真さんですし、エンジニアは日本人、そして瀬尾さんがプロデューサーも務めているので「純国産」なのですが、なぜか日本盤ではなく、いつものNaxosと同じアメリカ盤でした。もちろんライナーも英語のものしか読めません。まあ、世界の市場を目指したものなのでしょうから、それは仕方がありませんが、それを補う意味でつけられた「帯解説」ではまたまたこんな面白いことをやらかしているのですから、困ったものです。
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これは原題は「Die Schweizerfamilie」ですから「スイスの家族」が正解、何よりライナーには「The
Swiss Family」という英訳が載っているというのに。
その曲が入っている作品のタイトルが「ディヴェルティスマン」とあるように、ここにはただの「フルート・ソナタ」というシンプルなものは全くなく、「協奏的ソナタ」とか「協奏的変奏曲」といった大仰な名前が並んでいます。おそらく、モシェレスにとってはピアノがソロ楽器を「伴奏」するような形の「ソナタ」などは彼にとっては「その他」で、どんな曲でもピアノが堂々とソロ楽器と張りあうほどの存在感を主張しているものを作ってやろうという意気込みが常にあったのではないでしょうか。
それが単なる「憶測」ではないことは、ここで演奏されている全ての作品で、ピアノがどんな時にでも大活躍しているのを見れば明らかです。ほんと、このピアノは、隙あらばソロ楽器を食ってやろうという魂胆がミエミエ、常に最高の手技を繰り出して暴れまわっているのですからね。すごいのはOp.21の「6つの協奏的変奏曲」です。型どおりの変奏曲に違いはないのですが、終わり近くの変奏ではフルートの出番はなく、ピアノだけで華麗な演奏を聴かせるというのですからね。どこが「協奏的」なのでしょう。
そんな曲ばかりですから、つい耳はピアノの方に行ってしまいます。そうすると、ここでのピアニスト上野さんの、まさに水を得た魚のような生き生きとした演奏に心底ほれ込んでしまうことになります。それに比べると、フルートの瀬尾さんはなんとも精彩を欠いた演奏に終始しています。ここでは、かつての瀬尾さんには確かにあったはずの煌めくほどの輝きが全く感じられません。それが、常に低めで不安定なピッチと、振幅の大きなビブラートばかりが強調され、フルートの美しさが全く捕えられていない最悪の録音(小島幸雄)のせいだけであればいいのですが。

CD Artwork © Naxos Rights US, Inc.
by jurassic_oyaji | 2015-01-16 21:06 | フルート | Comments(0)