おやぢの部屋2
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Mozart (Re)inventions
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Paladino Music
Eric Lamb(Fl)
Martin Rummel(Vc)
PALADINO/PMR 0050




アルバムタイトルの「(リ)インヴェンションズ」という言葉につい惹かれて買ってしまいました。「再び発明する」という意味ですから、これはかなりのインパクト、しかもその対象が「モーツァルト」ですからね。モーツァルトのどの辺を「発明」してくれるのか、かなり楽しみです。ジャケットもなにやらシュールな演出が施されていますし。
しかし、聴きはじめると、それは別に何の目新しいものもない、単なる「モーツァルトの作品をフルートとチェロのために編曲」しただけのものだとわかりました。これにはがっかりですね。一応、その「編曲」は、ここで演奏しているフルートのエリック・ラムとチェロのマルティン・ルンメルが行っているということなのですが、最初に聴こえてきた「魔笛」からの二重奏は、すでに編曲者不詳として多くの楽譜が出回っているヴァイオリンまたはフルートのためのデュエットと全く同じものでしたし。辞書で調べてみたら、「インヴェンション」には「捏造」という意味もあるのだそうです。
そう言えば、このレーベルで以前、こんなとんでもないアルバムを聴いていました。ウィーンで音楽出版を手掛けている会社が作ったレーベルですが、何か肝心なものが抜けているような気がしませんか?
今回のアルバム、どうやらモーツァルトの「最初」と「最後」、さらに「真ん中あたり」の作品を並べて、彼の生涯を俯瞰しようというコンセプトのもとに作られているようです。その「最後」として、彼の最晩年の作品である「魔笛」を選んだのはなかなかのチョイスなのですが、それが、そのオペラからいくつかのナンバーを2つの楽器のために編曲した、いわば「ハルモニームジーク」あたりでお茶を濁そうとするやり方だったのには、なんとも言えない寂しさが募ります。
「最初」では、それこそ「k 1」から「k 33b」あたりまでの、5歳から10歳までの間に作られたクラヴィーアのための作品を、二重奏に直したものが演奏されています。そして「真ん中」としては、1783年に作られたヴァイオリンとヴィオラのための2曲の二重奏曲(k 423, 424)が選ばれています。これは、ザルツブルクのコロレド大司教がミヒャエル・ハイドンにこの編成による6曲のセットを委嘱した時に、彼が病気になって4曲しか作れなくなってしまったためにモーツァルトが手助けをして作ったものですね。
この2曲が、一応このアルバムの中ではメインと考えられている作品なのでしょう。それぞれ3つの楽章から出来ている20分程度のものですからね。当然ここは、この2人の演奏家は、他の曲のようなお手軽な対応ではなく、しっかりとした演奏を心掛けるところでしょう。ということで、もしかしたら過度のプレッシャーがこの2人、とりわけチェリストのルンメルにかかったのでしょうか、何かアンサンブルが成立していないもどかしさが感じられてしまいます。2人で音楽を進めていこうという気持ちが、彼にはほとんど見られないような気がするのですよ。フルートが作っている時間軸にまるで関係のないところで勝手に彼だけの時間の感覚で演奏を行っているとしか思えないような「合ってない」ところだらけなんですね。音程も、プロとは思えないようなひどさですし。
唯一の救いは、フルーティストのラムのすばらしい演奏です。彼はデトロイトに生まれたというアフリカ系のアメリカ人ですが、ドイツとイタリアでフルートを学んでいます。先生の中にはミシェル・デボストの名前なども見られますが、彼のとてもしなやかな音楽性と、伸びやかな音色は、そのあたりの経歴が反映されているのでしょう。目がくらむような派手さはないものの、低音から高音まで磨き抜かれた音は、とても魅力的です。彼の楽器は、日本のALTUSなのだそうです。

CD Artwork © Paladino Media GmbH
by jurassic_oyaji | 2015-04-22 20:14 | フルート | Comments(0)