おやぢの部屋2
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Lovely 恋音
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寺沢希美(Vn)
河地恵理子(Pf)
NAXOS/NYCC-10003




最近、というか、だいぶ前から「クラシック」の世界ではアーティストがやたら「きれい」になって来ています。なんたってピアノやヴァイオリンといった楽器には、美しい女性(まれに男性)が「絵的」によく似合います。音楽大学を卒業する人はもはや飽和状態、そんな中では「美しさ」という武器は欠かせません。演奏する能力がそこそこあるのなら、やはり「美人」の方を選びたくなるのは自然の成り行きなのでしょう。悲しいことです。
ですから、いつもチェックしているNAXOSのFacebookで、まるできゃりーぱみゅぱみゅのようなふわふわのドレスに身を包んだヴァイオリニストの姿が紹介されているのを見た時には、ついにここまで来たか、という思いに駆られてしまいました。彼女の名前は寺沢希美(のぞみ)さん、こうなると、単に「きれい」なだけではなく、ほとんど「アイドル」ではありませんか。その記事では、CDが出ただけではなく、24/192のハイレゾ・データまでリリースされているのだとか。あのNAXOSが本気になって売り出そうとしていることが、まざまざと伝わっては来ませんか?
そのCDはピンクを基調にしたアートワーク、ジャケットでヴァイオリンを抱えて微笑んでいる寺沢さんの姿はまさに「天使」です。あくまで無垢なまなざし、わずかに開いた口元の奥に見える白い歯には、はかない愛しさが宿っています。
Lovely 恋音_c0039487_15403028.jpg
インレイでも、彼女の姿を見ることが出来ます。こちらはいかにも清楚な少女というイメージが伝わってくるものです。ジャケットはちょっと近づきがたいほどのオーラが漂っていたものが、こちらではより親しみやすい「女の子」の魅力が一杯です。
せっかくですから、CDの方も聴いてみましょうか。タイトルが「Lovely 恋音」というぐらいですから、「愛」とか「恋」をテーマにした曲を集めたものだと思ってしまいますが、曲目を眺めてみるとあんまり関係ないようなものも並んでいます。それぞれの曲の解説を読んでみると、その中に「愛」という言葉が入っているのは1曲だけ、「恋」に至っては「恋人」という形でかろうじて1曲に使われているだけです。この解説を執筆した篠田さんというライターさんは、逆に「婚約者が元カノと逢引」などと、かなりどぎつい表現を使ったりして、このアルバムのコンセプトにちょっと背を向けているような感じすら抱いてしまいます。それよりも、こういうアルバムにはよく登場する「カッチーニのアヴェ・マリア」を、正しく「ウラディーミル・ヴァヴィロフ作曲『カッチーニのアヴェ・マリア』」とかっちーり決めつけているのが潔いですね。
しかし、そんなちょっと「いじわる」な解説にめげることはなく、彼女の演奏はまさに「アイドル」のスタンスを貫き通したものでした。おそらく彼女が目指したであろうものは、「誰にでも親しめる音楽」だったのではないでしょうか。音色はあくまで澄み切っていますし、メロディ・ラインはあくまで爽やか、そこには「ルバート」や「アゴーギグ」などといったいやらしい「表現」は微塵も見られません。歌手で言えば、ヘイリーとか、年はとっていますがサラ・ブライトマンと共通する「安らぎ」のようなものに満ち溢れた演奏です。
ところで、東京あたりにお住まいの方はご存じないでしょうが、東北地方のテレビでは「三八五引越センター」というところがとってもシュールなCMを流しています。太ったソプラノ歌手が現れて、朗々としたベルカントで「だいじょ~ぶ~」と歌いだす、というものなのですが、どこが「だいじょうぶ」なのか、なぜ引越しにソプラノなのかがいまいちわかりません。そのソプラノの陰で、こちらも意味不明のヴァイオリンを演奏しているのが、この寺沢嬢なのですよ。このド田舎感満載のCMと、今回のキャピキャピなCDとのギャップには驚かされます。いや、もっと驚くのは、実年齢から20歳は若く見せている、その特殊メークなのかもしれません。

CD Artwork © Naxos Japan Inc.
by jurassic_oyaji | 2015-06-10 22:11 | ヴァイオリン | Comments(0)