おやぢの部屋2
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BEETHOVEN/Symphonies 4 & 5
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Nikolaus Harnoncourt/
Concentus Musicus Wien
SONY/88875136452




「アーノンクールが新しいベートーヴェンの録音に着手」などと大々的に騒がれ、そのベートーヴェン・ツィクルスの第1弾となるはずだった「4番+5番」です。結局、これがリリースされる前にこの指揮者が引退声明を発表したために、そのプランは立ち消えになってしまったのですが、そうなると今度は「アーノンクール最後の録音」ということでなんだかかなりのセールスを記録しているようですから、まあどうなっても商売にはしっかり結びつくことになるのですね。
ご存知のように、アーノンクールがベートーヴェンの交響曲を録音するのはこれが2回目のこととなります。1回目は1991年、ヨーロッパ室内管弦楽団というモダン・オケを指揮したものです。それが今では、なんとNMLでも全曲聴くことが出来るのですからありがたいことです。そこで、まだ聴いたことのないそちらのバージョンも一緒に聴いてみたのですが、もう予想以上の違いがあったのには驚いてしまいました。もちろん、今回のCDはウィーン・コンツェントゥス・ムジクスというピリオド・オケですから、楽器の奏法自体にも違いはあるのですが、こちらを聴いてしまうと昔の録音はいとも「フツー」の演奏に感じられてしまうから、不思議です。それこそ「借りてきた猫」みたいに聴こえますからね。今回は、自分のオケだからなんだってやれるんだぞ、という意気込みがまざまざと伝わってきますよ。
特にすごいのが「5番」です。まあ、1楽章の冒頭の「ジャジャジャジャーン」の最後の「ジャーン」の音にディミヌエンドをかけるというのは以前にもやっていたことですから、もうこれはルーティンになっているのでしょうが、3楽章のトリオがまさにヘンタイです。これを聴けば、誰でものけぞってしまうのは必至、よくもこんなアイディアを思いついたなあ、と感心するばかりです。それをダ・カーポするのですからね(それは、前にもやっていました)。
4楽章では、普通はピッコロが加わりますが、ここでは「フラジオレット」という楽器が使われています。これは、おそらくソプラニーノ・リコーダーのたぐい、高い音の出る縦笛です。これがもし映像で見られるのだったら、そのフルートパートは横笛2本に縦笛1本という異様な光景になっていよう。音はあまりピッコロと変わりませんが、ちょっと鄙びた味がありますね。それと、やはりこの楽章だけに登場するコントラファゴットが、ものすごい存在感を発揮しています。
その楽章の最後近く、318小節のアウフタクトから入るファゴットの「ソドソミレドソ」という音型を受けてホルンが「ミドソミレドソ」と受ける場面で、ホルンが最初の音を「ミ」ではなく「ソ」で演奏しています。つまり、この2つの楽器が全く同じメロディを繰り返すのですね。これと同じパターンが335小節のアウフタクトから始まりますが、これも全く同じ扱いになっています。これが聴こえた時には、本当に心臓が止まるほどびっくりしたのですが、調べてみるとブライトコプフの新版では、「もしくは」ということでちゃんとこれが表記されていました。
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初演の時のパート譜だけが、「ミ」から「ソ」に訂正されていたのですが、スコアには訂正がなかったので、両方の可能性が示されているのでしょう。この楽譜はスタディ・スコアでも1997年に発売されているのに、それをきちんと「音」にしたものは、ここで初めて聴きました。まさにアーノンクールの面目躍如といったところでしょうか。
そして、エンディングのアコードの連続を聴いてみてください。まるで、シベリウスの同じ番号の交響曲のエンディングのような不思議な終わり方が体験できるはずです。あ、もちろん初稿ではなく、現行版の方ですが。
こんな素晴らしい(くだらない)アイディアがいっぱいあふれたベートーヴェンの交響曲全集がもう完成されることはないなんて、残念すぎます(ホッとしました)。

CD Artwork © Sony Music Entetainment
by jurassic_oyaji | 2016-02-08 21:43 | オーケストラ | Comments(0)