おやぢの部屋2
jurassic.exblog.jp
ブログトップ | ログイン
RZEWSKY/The People United Will Never Be Defeated!
RZEWSKY/The People United Will Never Be Defeated!_c0039487_23312593.jpg


Ursula Oppens(Pf)
Jerome Lawrenthal(Pf)
CEDILLE/CDR 90000 158




英語だとテイラー・スウィフトのヒット曲「We Are Never Ever Getting Back Together」のような感じのこの曲のタイトルは、直訳すると「団結した人民は決して敗れることはない!」なのですが、普通は「不屈の民」という邦題で呼ばれています。やはり「私たちは絶対に絶対にヨリを戻したりしない」という直訳型のタイトルは、これが日本に広まった1970年代には抵抗があったのでしょうかね。この邦題は、高橋悠治が1977年に日本初演を行った時にはすでに付いていたものですから、おそらく彼が命名者なのでしょう。もちろん、彼が1978年に録音したLPでも、1979年に出版された楽譜でもその日本語タイトルは使われていましたから、もはやそれ以外はないということでこれがすっかり定着することになります。そう言えば、かつてラジオのクラシック番組でこの曲を「ジェフスキ作曲『流浪の民』」と紹介していた音楽評論家がいたことを思い出しました。これも原題は「Zigeunerleben」ですから、直訳すれば「ジプシーの生活」とでもなるのでしょうが、今では「流浪の民」以外の呼び名など考えられません。
日本初演は悠治ですが、この曲を委嘱して世界初演を行ったのはアメリカのピアニスト、アーシュラ・オッペンスでした。そもそもは1976年のアメリカ建国200周年記念リサイタルで、ベートーヴェンの「ディアベリ変奏曲」と一緒に演奏するためにジェフスキに委嘱したものでした。しかし、1975年に完成された曲はあまりに長く、そして難しかったため、結局彼女は「ディアベリ」はあきらめ、これ1曲だけでリサイタルを行ったのだそうです。そして、彼女は今に至るまで、その2曲によるリサイタルを行ってはいません。
というのは、クセナキスの作品のCDで一躍有名になった日本のピアニスト、大井浩明さんからの情報です。そこで大井さんは、アメリカ建国240周年となる今年、その因縁のカップリングによるコンサートを開催するのだそうです。さらに、この曲の最後にテーマが再現される直前には即興演奏によるカデンツァを挿入するという指示がありますが、そこに上野耕路さんが作ったカデンツァが演奏されることになっています。3月27日(日)15時から、会場は原宿の「カーサ・モーツァルト」です(以上、情報提供とのバーターで宣伝させていただきました)。
一方のオッペンスは、やはり悠治と同じ年にこの曲を録音していましたが(録音したのは悠治の方が先)、それはこちらにも書いたように、数あるこの曲の録音の中でも最も演奏時間の短いものでした。
そのオッペンスが、なんと初演から40年経ったということで、この難曲をもういっぺん録音したというではありませんか。彼女は1944年の生まれ、最初の録音の時こそまだ30代でしたが、今回録音した2014年にはもう70歳という「古希」を迎えていたのですから、いったいどんな演奏なのかはとても気になります。確かに、この年代になればピアニストには独特の「枯れた」味が出てくるものですが、それはこの曲にとっては決してプラスに働くものではありませんからね。
しかし、それは全くの杞憂でした。今回は前回には演奏していなかったカデンツァをしっかり入れてますから、トータルの演奏時間は50分43秒ですが、カデンツァの分2分38秒を引くと48分5秒となって、自身の持つ世界最速記録49分17秒を48秒も縮めて、記録を更新していたではありませんか。これは恐るべきことです。
しかも、その演奏にはそんな「速さ」を感じさせない余裕のようなものすら加わっていました。テーマの歌わせ方がとてもたっぷりしているんですね。凄い演奏です。
カップリングで、ジェローム・ローウェンタールとの連弾で、この録音のためにジェフスキが書き下ろした「Four Hands」という新作が演奏されています。4つの楽章から成る、やはり衰えを知らない作曲家の筆致が冴えた曲ですが、第2楽章の「拍子なしで」という指示の曲が、年相応の枯れた味を出しています。

CD Artwork © Cedille Records
by jurassic_oyaji | 2016-03-13 23:35 | 現代音楽 | Comments(0)