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TCHAIKOVSKY/Nutcracker Suite etc
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Leopold Stokowski/
London Philharmonic Orchestra
PENTATONE/PTC 5186 229(hybrid SACD)




生涯に渡って、多くのレーベルに録音を行っていたストコフスキーですが、PHILIPSに関しては1973年と1974年にそれぞれ1枚ずつLPを作っただけでした。そんな貴重なもののうちの1973年の分、ロンドン・フィルとのチャイコフスキー集がSACDでリリースされました。もう一つの1974年の録音はロンドン交響楽団とのチャイコフスキーですから、ストコフスキー/PHILIPS/ロンドン・フィルという組み合わせのアルバムはこれ1枚しかありません。さらに、ロンドン・フィルとのそれ以外の録音も、1969年のDECCAへの「運命」+「未完成」しかないのだそうです。
アメリカを拠点として活躍してきたストコフスキーも、1972年に自ら創設したアメリカ交響楽団の常任指揮者を辞任してからは、故国であるイギリスに戻り、そこで亡くなるまでイギリスのオーケストラとの録音活動を行うことになるのでした。このPHILIPSへの録音の後、1976年には米コロムビアと「6年間」の録音契約を結ぶのですから、それが誠実に履行されていればやがて来るデジタル録音の時代をも体験することが出来たでしょうに。
このPHILIPSへの2枚のLPは、少し前に2枚組のCDがDECCA名義でリリースされていましたが、今回はDECCAからのライセンスで、PHILIPSの血を引くPOLYHYMNIAのエンジニアによってハイブリッドSACDに復刻されたものです。オリジナルは「4チャンネル」のソースでしたから、マルチチャンネルで聴くこともできます。
このアルバムのメインはやはり「くるみ割り人形」でしょう。有名な1940年公開のディズニー・アニメ「ファンタジア」でもフィーチャーされていた「ストコフスキー節」満載のあの怪演が、ここでも味わえるのでしょうか。
「小さな序曲」では、いともまっとうに音楽が始まりました。とても軽やかで、そこからは爽やかささえも感じられます。しかし、次の「行進曲」になったら、なんという速いテンポ、これでは「行進」ではなく「駆けっこ」ですね。おかげで、途中で現れるフルートのダブル・タンギングは、とんでもないことになってしまっています。これは、オーケストラがストコフスキーに馴れていなかったために練習を怠っていたせいでしょう。録音現場でこんなテンポだったことを知らされ、焦ってみても後の祭です。
そして、「金平糖の踊り」こそはストコフスキーの真骨頂、まずは楽譜に手を入れて、最初の弦楽器のピチカートに、ファースト・ヴァイオリンと同じ音でアルコのトレモロを加えています。されに、続くチェレスタのソロも和音をすべてアルペジオで演奏するという形に変えています。そして、とどめは「ファンタジア」でおなじみ、その後のバス・クラリネットの「ミレドシシ♭~」(固定ド)という合いの手のフレーズの最初の「ミ」を、思いっきりテヌートです。いや、それはもはや「テヌート」とは言えないほどの、とても拍の中には納まりきらない長さになっていました。つまり、「ファンタジア」の時点では異様ではあってもかろうじて拍には収まっていたものが、ここではその前のトレモロとアルペジオという荒技を加えることによって、そんな無茶も可能にした、ということでしょう。その結果、この曲からはある種妖艶な雰囲気が漂うことになり、決してほかの指揮者ではなしえない音楽が誕生しました。「ファンタジア」からの30余年、それはまさに、一人の指揮者が芸風を完成させる長い道程だったのです。
これに比べると、他の「イタリア奇想曲」や「エイゲニ・オネーギン」の「ポロネーズ」と「ワルツ」などは、まだまだ「芸なかば」と感じられてしまいます。薔薇族ではありません(それは「ゲイ仲間」)。あるいは、「イタリア奇想曲」でのファンファーレがこんなにしょぼいのは、単にオーケストラとの相性が悪かっただけなのでしょうか。
録音は、PHILIPSにしては珍しい管楽器がかなりオンとなったバランス、こちらの分野では、ストコフスキーはしっかり自分を主張していたようです。

SACD Artwork © Pentatone Music B.V.
by jurassic_oyaji | 2016-04-02 20:48 | オーケストラ | Comments(0)