おやぢの部屋2
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MOZART/Requiem
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坂本徹/
Mozart Academy Tokyo
Ensemble Bel Homme
NYA/NYA-1501




モーツァルトの「レクイエム」だったら、新しい録音はすべて聴いてみようというぐらいの気持ちでいるものですから、このようなプライベート盤でも、入手可能であれば迷わずにゲットです。2014年の12月に行われたコンサートのライブ録音で、すでに昨年のうちにリリースはされていたようなのですが、これに参加していた知り合いがたまたまSNSで紹介してくれたおかげで、こんなユニークな録音を聴くことが出来ました。
演奏している「モーツァルト・アカデミー・トウキョウ」は、甘いものが食べられない人たちが作ったグループではなく(それは「モーツァルト・アカデミー・トウニョウ」)、インマゼールの「アニマ・エテルナ」やブリュッヘンの「18世紀オーケストラ」のメンバーでもあったピリオド・クラリネット奏者であり、合唱指揮者でもある坂本徹さんが2005年に結成した団体です。オーケストラと合唱を含めた組織のようで、それぞれの分野のプロフェッショナルな人たちが集まって活動しています。この「レクイエム」の場合は、使われている楽器はピリオド楽器、合唱の人数は6.4.4.4と少なめ、そしてソリストは合唱のメンバーが務めるという、世界中のピリオド志向の団体のスタンダードのようなやり方を取っています。
用いている楽譜がジュスマイヤー版だというのも、やはりある意味スタンダード。ただ、ここで「ユニーク」なのは、この演奏全体をあくまで「礼拝」ととらえて、モーツァルトは作曲していないけれど、実際の典礼では用いられたはずのテキストまできちんと演奏しているという点です。もちろん、そのテキストはただ朗読されるのではなく、「グレゴリオ聖歌」の「メロディ」で歌われることになります。
その聖歌は、この合唱団とは別の、日本語に訳すと「イケメン・アンサンブル」となる、「アンサンブル・ベロム」という男声だけの合唱団が歌っています。その、今まで聴きなれたちょっと渋さの伴う「グレゴリオ聖歌」とはだいぶテイストの異なる、かなり洗練されたユニゾンで最初に演奏されたのが、「Introitus」です。これはモーツァルトはきちんと作曲しているので、ちょっとした反則技になってしまうのでしょうが、指揮者によれば「この素晴らしくも穏やかな」聖歌はぜひ聴いていただきたかった、ということなのだそうです。確かに、これは別にグレゴリア聖歌に興味のない人でも、合唱ファンであればどこかでは聴いたことのあるはずの、あのモーリス・デュリュフレが作った「レクイエム」と全く同じメロディ(いや、正確には、デュリュフレがグレゴリオ聖歌を引用したものですが)の曲ですからね。モーツァルトだと思って聴きはじめたら、いきなりデュリュフレが始まって驚くかもしれませんね。
その後には、普通のモーツァルト版の「Introitus」が始まりますから、安心してください。しかし、さっきまでのア・カペラははっきり聴こえてきたのに、ここで初めてオーケストラが入ってくると合唱がほとんど聴こえないほどになってしまいました。録音の際には1対のメインマイクを客席の中に立てただけのようで、補助マイクなどは全く使われていませんから、こんな不自然なバランスの録音になってしまったのでしょう。
この会場で録音する時の難しさは、同じ曲をここで録音したこちらの歴史的な「失敗作」(もちろん録音面での、という意味で)によって広く知られるようになっていますから、エンジニアとしてもいろいろ考えた末のマイクアレンジだったのでしょうが、ここはやはり潔く合唱に補助マイクを使うべきだったのではないでしょうか。何しろ、ここでの合唱は響きとしてはかろうじて聴こえるものの、言葉が全く伝わってこないのですからね。おそらく、会場で聴いている人たちには視覚も手伝ってその辺はある程度補正されて聴こえていたはずですが、残念ながらそこまでを音として収録することは出来ていませんでした。
演奏自体も、この録音では生の情感を表に出すことは避けた穏健なもののように聴こえてしまいます。

CD Artwork © N.Y.A. Sounds
by jurassic_oyaji | 2016-04-19 23:26 | 合唱 | Comments(0)