おやぢの部屋2
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SMOLKA/Poema de Balcones
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Marcus Creed/
SWR Vokalensemble Stuttgart
WERGO/WER 7332 2(hybrid SACD)




WERGOという名前を聞いただけで、なんだか難しそうな音楽ばかり扱っていて、聴く前からぐじゃぐじゃの音の攻撃に耐えなければいけないようなイメージが付きまとっているレーベル、という気にはならないでしょうか。
そのような大雑把なイメージのせいで、このアルバムもちょっと敷居が高いような先入観を持ってしまいますが、注意深くクレジットを見てみると、これはレーベルこそWERGOですが、実際に制作したのは、ここで歌っているマーカス・クリード指揮のSWRヴォーカルアンサンブルというおなじみの顔触れの演奏の録音をいつもリリースしているSWRそのものであることに気づくはずです。プロデューサーやエンジニアにはおなじみの名前が見られますしね。しかもSACDだというのですから、これはもうWERGOなんて余計な肩書を考えずに聴けば、さぞや素晴らしい体験ができることでしょう。それにしても、なぜWERGOだったのでしょう。親会社のSCHOTTから楽譜が出ているのでしょうか(おや、この作曲家の楽譜はすべてブライトコプフから出版されていますよ)。
このアルバムの作曲家、マルティン・スモルカは、1959年にチェコのプラハで生まれました。プラハ芸術アカデミー(Academy of Fine Arts)で作曲を学び、1980年代初めごろから、前衛音楽の旗手として作曲活動を開始します。彼が影響を受けたのはポスト・ウェーベルン、ミニマリズム、ケージのようなエクスペリメンタル・ミュージック、そしてペンデレツキなどのポーランド楽派だといいます。まさに当時の「前衛」の王道ですね。そして、1992年のドナウエッシンゲン音楽祭で演奏された「Rain, a window, roofs, chimneys, pigeons and so… and railway bridges, too」という18人のアンサンブルのための作品で、一躍国際的な舞台へと登場したのです。
これは彼が2000年以降に作った合唱のための作品集、最初に聴こえてくるのはフェデリコ・ガルシア・ロルカの詩集からの断片をテキストとして2008年に作られた「Poema de balcones(バルコニーの詩)」です。録音は2009年の3月17日と18日に行われていますが、彼らによって世界初演が行われたのが同じ年の3月21日ですから、初演に先立って録音されていたということになります。テキストはほとんど聞き取れないほどのヴォカリーズ的な声で歌われています。穏やかなクラスターが終始鳴り響くという、まるでリゲティの「Lux aeterna」を思わせるような曲想ですが、それよりはもっと具体的な情景を描写しているように感じられるやさしさが漂っています。それは、浜辺に打ち寄せる波の音とも、深い森の奥に吹き渡る風のざわめきとも思えるような、なにか心の深いところに直接イメージを送り込んでくる力を持ったサウンドです。ある時は口笛なども使って、それはより具体性を持つことになります。
2曲目の「Walden, the Distiller of Celestial Dews(ウォールデン、星の雫を蒸留する人)」は、ヘンリー・デイヴィッド・ソローの著書「ウォールデン、森の生活」からテキストが採られています。こちらは、5つの曲から成っていて、それぞれに技法も印象もまるで異なっている、ヴァラエティに富んだ曲集です。その中の4曲目「Blackberry」がとても印象的でした。とても緩やかな優しいテイストの部分とリズミカルな部分が交互に現れるのは、人間の二面性の投影でしょうか。
これは、ドナウエッシンゲンで2000年に初演されたもので、その時の、やはりこの合唱団(指揮はルパート・フーバー)による録音と、もう一つ、ペーテル・エトヴェシュ指揮のバイエルン放送合唱団による録音(NEOS)がすでに出ています。
3曲目の「塩と悲しみ」はタデウシュ・ルジェヴィッチのポーランド語のテキストによって2006年に作られラトヴィア放送合唱団によって初演されていますが、録音はこれが初めてのもの。これも、幅広い情景描写が魅力的です。
そのような振幅の大きい表現を、この合唱団は的確に表現しています。それは、SACDならではの素晴らしい音で聴く者にはストレートに迫ってきます。

SACD Artwork © WERGO
by jurassic_oyaji | 2016-05-14 20:03 | 合唱 | Comments(0)