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Penderecki Conducts Penderecki Vol.1
Penderecki Conducts Penderecki Vol.1_c0039487_20344527.jpg

Joanna Rusanen(Sop), Agnieszka Rehlis(MS)
Nikolai Didenko(Bas)
Krzystof Penderecki/
Warsaw Philharmonic Choir(by Henryk Wojnarowski)
Warsaw Philharmonic Orchestra
WARNER/08256 4 60393 9 5




永六輔さんが亡くなられましたね(ええっ!)。1933年にお生まれになっていますから、83歳でご逝去ということになります。しかし、同じ年に生まれたポーランドの作曲家、クシシュトフ・ペンデレツキさんは、こんな自作を指揮したアルバムを作ってしまえるほどですから、まだまだお元気なようですね。これが「Vol.1」というのですから、このまま全作品を録音していこうというのでしょうか。それはちょっと無謀なような気がしますがね。まあ、好きなように余生を送るのは、悪いことではありません。
ただ、ここで録音されている曲の中では、おそらくこれが初録音となる「Dies illa」以外は、全て割と最近NAXOSのアントニ・ヴィットによる一連のシリーズによって、今回と全く同じオーケストラと合唱団によって録音されているのですね。「聖ダニエル聖歌」は2005年、「聖アダルベルト聖歌」は2010年、「ダヴィデ詩編」は2006年です。しかも、これらは録音スタッフも今回と同じCD ACCORDなのですから、先に録音をしたヴィットは気を悪くしたりはしなかったのでしょうかね。
2014年の11月9日にベルギーのブリュッセルで初演されたペンデレツキの大曲「Dies illa」は、その後翌2015年3月にはワルシャワでポーランド初演が行われます。これは、その直後の6月にやはりワルシャワで録音されたものです。2014年というのは第一次世界大戦がはじまって100年という年ですから、彼はその戦争の犠牲者を悼むためにこの曲を作ったのだそうです。彼の大昔の作品に「広島の犠牲者のため」という言葉が入る有名な曲がありますが、今回はそのような「後付け」ではなく、ちゃんと「悼む」気持ちをもって作っていたのでしょう。
3人のソリストと合唱、そして大編成のオーケストラという、なんでも初演の時の演奏家は全部で1,000人にもなっていたというこの作品は、日本語のタイトルが「怒りの日」と呼ばれるのだ、と、代理店のインフォにはありますが、それは厳密な意味では正しくはありません。ペンデレツキがここで採用した、「レクイエム」の2つ目のパートに当たる「セクエンツィア(続唱)」の長大なテキストは、それ全体が「怒りの日」と呼ばれていますが、それは、最初の言葉が「Dies irae」で始まるから、その日本語訳を用いてそのように呼ばれているのです。しかし、この作品のタイトルは「Dies illa」、なんか、微妙に違います。
これは、そのテキストの最初が「Dies irae, Dies illa」で始まるところから、その2つ目のフレーズをタイトルにしたのでしょう。これは「怒りの日なり、その日こそ」と訳されていますから、「Dies illa」だけだったら「その日」と訳さなければいけないのではないでしょうか。でも、「ペンデレツキ作曲『その日』」なんて、なんだか間抜けですね。
実は、彼はそもそもこの部分のテキストは使ってはいません。そこはカットして、モーツァルトの作品で言うと、「セクエンツィア」の2曲目、「Tuba mirum」でバスのソロに続いてテノールのソロが歌い始める「Mors stupebit et natura」というテキストの部分から作り始めているのですよ。そうなると「Dies illa」はないじゃないか、と思われるかもしれませんが、安心してください(ふ、古い)、最後の方の有名な「Lacrimosa」に続くのが、「dies illa」なんですね。「涙の日なり、その日こそ」です。
ということは、彼がメインに考えていたのは冒頭の「Dies irae」ではなく、最後のこの部分だったのでしょうか。あるいは、単に1967年にすでに「Dies irae」のタイトルで別の曲を作っていたので、それとの差別化を図っただけのことなのでしょうか。いずれにしても、まさに彼の最近の作風にどっぷりつかった「親しみやすい」曲であることだけは確かです。いまだに「チューバフォン」という、太い塩ビ管を束ねた楽器を使っているのが、笑えます。
当然のことですが、他の曲でヴィットの演奏から聴こえてきたシニカルな視点は、ここではきれいさっぱりなくなっています。

CD Artwork © Warner Music Poland
by jurassic_oyaji | 2016-07-14 23:46 | Comments(0)