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ELGAR/Cello Concerto, TCHAIKOVSKY/Rococo Variations
ELGAR/Cello Concerto, TCHAIKOVSKY/Rococo Variations_c0039487_00134454.jpg



Johannes Moser(Vc)
Andrew Manze/
Orchestre de la Suisse Romande
PENTATONE/PTC5186 570(hybrid SACD)


エルガーのチェロ協奏曲の2016年の6月に録音されたばかりのSACDがリリースされました。おそらく今現在では最も新しいものと言えるがー
今回の録音でのソリストは、1979年に、ドイツ人とカナダ人の音楽家同士の家族に生まれたヨハネス・モーザーです。2002年のチャイコフスキー・コンクールのチェロ部門では1位なしの2位という最高位を獲得しています。それ以降、世界中の有名オーケストラ、大指揮者との共演を果たしている、人気チェリストです。
このアルバムでは、エルガーの他にチャイコフスキーの「ロココ風の主題による変奏曲」と、あと3曲、チェロとオーケストラのための作品が演奏されています。そのうちのオリジナルは「カプリッチョ風小品」だけですが、「夜想曲」と「アンダンテ・カンタービレ」はチャイコフスキー自身が自作を編曲したものです。
つまり、チャイコフスキーには最初からこの編成で作られた作品が2曲ある、ということになります。しかし、その最も代表的な「ロココ」にしても、現在普通に演奏されているのは実際はチャイコフスキーのオリジナルではありません。いや、正直言って、このSACDでわざわざ「オリジナル版」と書いてあったので、初めてそのことを知ったのですけどね。
例えばあのロストロポーヴィチあたりが使っていたのは「フィッツェンハーゲン版」と呼ばれている楽譜でした。これは、この作品を献呈され、初演も行ったチェリスト、ヴィルヘルム・フィッツェンハーゲンが「改訂」した楽譜です。彼が行った改訂では、チャイコフスキーのオリジナルの曲順が大幅に変更されています。その結果、本来あった8つ目の変奏がカットされて、主題と7つの変奏の形になっています。主題では、前半と後半をそれぞれリピートさせて、テーマをより強く印象付ける工夫がなされましたし、変奏も派手なものを最後に持ってきて、とても分かりやすいクライマックスが味わえるようなものになっていました。
出版も、フィッツェンハーゲンが主導権を取って行ったため、彼の改訂が反映されたものしか、世の中には出回りませんでした。かくして、この作品はこの改訂版の形態がほぼ確定されてしまって、これで多くの人の耳に届くことになってしまいました。1950年代になって、やっとオリジナルの楽譜も出版されるようになりますが、やはり今までの慣習には逆らえなかったのと、その出版の際にはスコアだけでオーケストラのパート譜などはなかったために、このオリジナル版はなかなか実際に演奏されることはありませんでした。それが、この作品を課題曲としているチャイコフスキー・コンクールで、2002年からは「オリジナル版に限る」という指定がなされたのです。
2002年といえば、このアルバムのソリスト、モーザーが最高位を取った年ですよね。ですから、彼はここでもその「オリジナル版」を演奏しています。調べてみたら、すでにジュリアン・ロイド・ウェッバーやスティーヴン・イッサーリスなど、多くのチェリストがこの版での録音を行っていました。
初めて聴いたこのオリジナル版、確かに今まで聴きなれたものとは全然異なる印象を与えられるものでした。それは、フィッツェンハーゲン版では最後に置かれていたとても派手な「第7変奏」は、オリジナルではもっと前に置かれていた「第4変奏」だったというあたりで、かなりはっきりしてきます。そして、オリジナルでの終わり方は、フィッツェンハーゲン版では3つ目に置かれていた、ゆったりとした変奏曲のあとに、カットされていた軽やかな「第8変奏」を経て、コーダになだれ込むという形、こうすることで、より中身が深くなったように感じられます。もはや、「改訂版」を演奏し続ける理由は何もないことが確信できるのではないでしょうか。
肝心のエルガーは、デュプレを聴いてしまうとあまりにあっさりしているように感じられます。

SACD Artwork © Pentatone Music B.V.

by jurassic_oyaji | 2017-03-15 00:15 | オーケストラ | Comments(0)