Various Artists
DECCA/483 0525
以前
こちらでご紹介したDECCAの「フェイズ4」ボックスの続編です。こちらはクラシックではなく、タイトルにあるような「イージー・リスニング」系のミュージシャンのアルバムが集められています。この、当時は画期的といわれていた録音方式によるレコードは、そもそもはこういうジャンルのために開発されたものですから、こちらの方が「先」にあったのですが、なぜかクラシックより「後」に出ることになりました。
今となってはごく当たり前のマルチトラックによるレコーディングですから、正直、録音面からは、今これをわざわざ聴くという価値はほとんど見出せません。それでも、当時は確かに輝いていたアイテムが、全部でアルバム50枚分も、当時の価格の1/10以下の値段で手に入るのですから、これはそそられます。
登場するアーティストは、ロニー・アルドリッチ、スタンリー・ブラック、フランク・チャックスフィールド、テッド・ヒース、マントヴァ―ニ、エリック・ロジャース、エドムンド・ロス、ローランド・ショーといった面々です。かつては一世を風靡した人たちばかりですが、今ではすっかり忘れ去られているのではないでしょうか。
最後のローランド・ショーは、フランク・チャックスフィールドの「引き潮」などが入ったアルバムでのアレンジャーを務めていた人ですね。その、1964年にリリースされた「Beyond the Sea」というアルバムは、1965年の「The New Limelight」というアルバムとで「2 on1」の1枚のCDに収まっているのですが、ジャケットはダブル仕様で両方のものが印刷されているといううれしい扱いです。ただ、このCDでは、ブックレットのトラック表示が、それぞれ別のアルバムのものに入れ替わってるという痛恨のミスプリントが。
このように、収録時間の短いもの20枚が、そういうダブルジャケットに入って10枚のCDになっているほかは、全て表裏オリジナルジャケット仕様の紙ジャケに1枚ずつ入っています。
録音されたのは1961年から1975年まで、クレジットを見るとプロデューサーはトニー・ダマト、エンジニアはほとんどアーサー・バニスターとアーサー・リリーという二人が担当しているのが分かります。実は、この人たちはクラシック編でもほとんどのアルバムの制作を担当しているのですよ。ストコフスキーの「シェエラザード」もトニー・ダマトとアーサー・リリーが担当していますから、あんな音になっていたのは納得です。今回のボックスでの弦楽器のわざと歪ませたのではないかというほどのザラザラした音は、ジャンルを問わずに彼らのポリシーとなっていたのですね。
ですから、この中ではあまりストリングスが活躍していないエドムンド・ロスあたりが、サウンド的にはとても気に入りました。この人はバンドマスターだけではなく、歌も歌っていたのですね。ゲストにカテリーナ・ヴァレンテを迎えたアルバム「Nothing But Aces」などは最高です。
フランク・チャックスフィールドのビートルズ・アルバムでは、ジャケットが素敵ですね。録音されたのは1970年1月、前年の9月末にリリースされたばかりの「Abbey Road」からのナンバーがすでにカバーされています。
DECCAの看板スターだったマントヴァーニは、ここには1枚しか入っていません。どうやら、彼がDECCAに残した膨大なカタログの中で「フェイズ4」で録音されたものは、この「キスメット」というミュージカル・アルバムしかなかったようですね。
1953年にブロードウェイで初演され、1954年には映画版も作られたというこのミュージカルは、アラビアあたりを舞台に全編ボロディンの作品の素材を使って作られたものです。この中で歌われる有名な「Stranger in Paradise」というナンバーは、「ダッタン人の踊り」がそのまま使われている曲
だったんですよ。それを全曲、こんなところで聴くことが出来るなんて。ここでは、ジョン・カルショーとは別のアプローチで「ステージ」を再現させている試みが見られます。
CD Artwork © Decca Music Group Limited