おやぢの部屋2
jurassic.exblog.jp
ブログトップ | ログイン
SCHUBERT, REINECKE, FRANCK/Flute Sonatas
SCHUBERT, REINECKE, FRANCK/Flute Sonatas_c0039487_23090417.jpg




Noémi Györi(Fl)
Katalin Csillagh(Pf)
HUNGAROTON/HCD 32767


ハンガリーの若い音楽家、1983年生まれのフルーティスト、ノエーミ・ジェーリと、1981年生まれのピアニスト、カタリン・シーラグのデュオによる、ロマン派のフルート・ソナタ集です。フルーティストの楽器はミヤザワの14Kだそうですが、頭部管だけは「ラファン」なのだとか。その楽器、ブックレットには「ミヤザワ・ボストン」とあったので、このメーカーもボストンに工場を作ったのかな、と思ったら、そんなことはなく、単にハンガリーの国内で販売されるときに、ハンドメイドのグレードが「ボストン・クラシックス」と呼ばれているだけのようですね。
そんな情報はCDを入手してから分ったのですが、そもそもシューベルトの「アルペジョーネ・ソナタ」、ライネッケの「ウンディーヌ」、フランクのソナタというありふれたカップリングのアルバムをわざわざ聴いてみたいと思ったのは、こちらのキングインターナショナルのインフォに、「アルペジョーネ」が「ゴールウェイ編曲」となっていたからです。ご存知のように、この作品は「アルペジョーネ」という弦楽器のために作られたものですが、現在ではその本来の楽器で演奏されることはまずなく、普通はチェロやヴィオラで演奏されています。それをランパルあたりがフルートで演奏し始め、今ではフルーティストのレパートリーとして完全に定着しています。
ただ、オリジナルの楽譜をそのまま演奏すると、フルートの音域をはみ出すところが出てくるので、その部分をオクターブ移動したり、音型を変えたりして吹かなければいけません。そんなわけで、いろいろな人がフルート用にアレンジ、というか、トランスクリプションを施した楽譜がたくさん出ています。そのようなものの一つに、1983年にジェームズ・ゴールウェイがこの曲をRCAに録音した時に彼自身でトランスクリプションを行い、その時のピアニストのフィリップ・モルが校訂を行って、同じ年にアメリカのSchirmer社から出版された楽譜があります。これを使って演奏した時に、それは「ゴールウェイ編曲による演奏」ということになります。
SCHUBERT, REINECKE, FRANCK/Flute Sonatas_c0039487_22264611.jpg
ゴールウェイが「編曲」を行った楽譜は数多く出版されていますが、彼は自分自身が吹いた時に最も美しく響くようなスタイルで編曲を行っています。具体的には、第3オクターブの音域を多用しているのです。ハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲も、フルート版では冒頭を2オクターブ高く編曲していましたね。この音域は指使いも難しくなりますし、何よりも息のコントルールにはとことん繊細さが要求されます。彼はそのために、公開レッスンでは生徒が後悔しないように、この音域を徹底的に練習することを要求していました。
この「アルペジョーネ」にも、そんな高音を使ったところがあります。それは第2楽章の後半、下の楽譜の部分です。
SCHUBERT, REINECKE, FRANCK/Flute Sonatas_c0039487_22263939.jpg
39小節から始まるフレーズが47小節から繰り返されるところの先では最高音はハイCのロングトーンになっています。ここをピアノで美しく伸ばせるかどうかで、ゴールウェイのようなフルーティストになれるかなれないかが決まってしまいます。
しかし、残念なことに、ジェーリ嬢はこの部分へのチャレンジを自ら放棄してしまいました。彼女は47小節の2つ目の音から、62小節までをこの楽譜より1オクターブ下で演奏していたのです。そもそも彼女の演奏には曲が始まった時からなんとも伸びのない音とシロートっぽいフレージングで失望させられていましたから、これは当然のことでしょう。
いや、ブックレットには「ゴールウェイ版とグラーフ版に基づいてノエーミ・ジェーリが校訂を行ったバージョン」とあるのですから、「ゴールウェイ編曲」というキングインターナショナルの表記そのものがすでに間違っていたのでした。録音場所が「フンガロトン・ラジオ」というのもウソですね。でも、フランクが「グラーフ編曲」というのは「正解」ですから、落ち込まないでくださいね。

CD Artwork © Fotexnet Kft.

by jurassic_oyaji | 2017-03-28 23:10 | フルート | Comments(0)