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FAURÉ/Requiem & other sacred music
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David Hill/
Yale Schola Cantorum
HYPERION/CDA 68209


イギリスの合唱界で名声を博した指揮者、デイヴィッド・ヒルは、現在はアメリカのイェール大学の合唱団「イェール・スコラ・カントルム」の首席指揮者を務めています。イェール大学と言えば、アメリカでは1.2を争うランキングを誇っていますから、政界、実業界、そして芸能界にも多くの人材を輩出していますね。
この合唱団は、2003年にかつてのキングズ・シンガーズのメンバー(バリトン)、サイモン・キャリントンによって創設され、その後多くの有名な指揮者と共演を果たしています。その中にはサイモン・ハルジー、ポール・ヒリアー、スティーヴン・レイトン、ジェイムズ・オドネルなどといったそうそうたるメンバーの名前が躍っているのを見ることが出来ます。バッハ・コレギウム・ジャパンの鈴木雅明も、首席客演指揮者として参加していますし。宴会にも出るんでしょうね(それは「酒席客宴指揮者」)。
そんなエリートぞろいの学生の中からオーディションによって選ばれた人たちが、これだけの指揮者によって鍛えられるのですから、その実力はかなり高いことが期待できるはずですね。
ただ、キャリントンが指揮者だった時代、2006年に録音されたこの合唱団たちの演奏によるバッハの「ヨハネ受難曲」を、こちらで聴いたことがありましたが、その時には、そんなに心を動かされるような合唱ではなかったような気がします。
今回、このHYPERIONという、ヒルが数多くの名演を残しているレーベルに、この合唱団のアルバムが初めて登場しました。ここで演奏されているのはフォーレの「レクイエム」を始めとする宗教曲です。合唱曲だけではなく、オルガン・ソロの曲なども入っているというユニークな選曲になっています。いや、もっとユニークなのが、その「レクイエム」でヒル自身が小アンサンブルのために編曲したバージョンが使われているということでしょう。この曲では、オリジナルでも何種類かの楽譜がありますが、ここでヒルは合唱パートはフル・オーケストラ・バージョンをそのまま使い、そこにヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスがそれぞれ2人ずつに、ハープとオルガンが加わった10人の編成による伴奏を付けているのです。
この編曲に対する違和感は、1曲目の「Introït et Kyrie」から気づかされます。「Requiem aeternam」と歌う時の、本来静かに漂うように流れてほしい合唱が、拍の頭でブツブツ切れて聴こえてくるのです。その原因は、その部分にオリジナルにはないハープのアコードが入っているためです。本来、この作品でのこの楽器の役割は「Sanctus」のようにアルペジオで曲を優雅に彩ることです。それを、こんな乱暴な使い方をすれば変なアクセントが付いてしまい、そこで音楽が区切られてしまうのは分かりきったことです。ヒルほどの人がなぜこんな愚かなことをやったのか、全く理解できません。
ここではソリストも全員合唱団のメンバーが担当しているように、その個々の技術的なレベルは非常に高いことは十分にうかがえます。ピッチは正確ですしユニゾンでのまとまりも素晴らしいものがあります。ただ、そのダイナミックスの変化は、まるでまるで前もってプログラミングされているかのように、なんとも機械的に推移しています。そしてテンポも、きっちりクロックに従って均一に刻まれているだけです。その中には、普通は「表情」と呼ばれている、心の中から湧き出てくる情感の反映が、感じられないのです。つまり、そこからは全く「歌」が聴こえてこないのです。
これが、単にこのエリート集団の合唱団員の責任だけではないのでは、と思えるのは、「Agnus Dei」の途中の「Lux aeterna」に移るところです。ここの素敵な転調はいつ聴いてもワクワクさせられるものなのですが、ヒルのこの演奏ではなんともあっさりと素通りしているのにはがっかりさせられます。この部分は、彼が1996年に録音したウィンチェスター大聖堂聖歌隊との録音(ラッター版/VIRGINE)でも、同じような感じでしたね。

CD Artwork © Hyperion Records Limited

by jurassic_oyaji | 2017-11-18 20:13 | 合唱 | Comments(0)