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RICHTER/ La Deposizione della Croce di Gesù Cristo, Salvator Nostro
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Kateřina Knĕžíková, Lenka Cafourková Ďuricová(Sop)
Philipp Mathmann, Piotr Olech(CT), Jaroslav Březina(Ten)
Roman Válek/
Czech Ensemble Baroque Orchestra & Choir
SUPRAPHON/SU 4204-2


フランツ・クサヴァー・リヒターと言えば、音楽史の上ではいわゆる「マンハイム楽派」の中心メンバーで、バロックから古典派への橋渡しを行った作曲家と位置づけられています。チェコのモラヴィアに1709年に生まれ、1789年にストラスブールで没した彼の生涯は、たしかにバッハの若い時からモーツアルトの没年までをカバーしています。
リヒターがマンハイムの宮廷に仕えていたのは1747年から1769年までです。マンハイムでは、毎年聖金曜日の礼拝の後に、イタリア語の受難オラトリオが演奏される習慣があり、1748年4月12日の聖金曜日には、このリヒターの作品が演奏されました。
リヒターの交響曲や室内楽曲は多くの作品が知られていますが、宗教曲に関しては未だにその全貌は明らかになってはいないようです。この作品もこれまでに録音されたことはなく、今回が世界で初めとなります。
ここで演奏しているロマン・ヴァーレク指揮のチェコ・バロック・アンサンブル・オーケストラは、以前もこちらで同じリヒターの「レクイエム」で世界初録音を行っていました。もちろんレーベルも今回と同じチェコのSUPRAPHONですから、「母国」の作曲家の知られざる作品を紹介したいという熱意のあらわれなのでしょうね。
「レクイエム」の方は、作られたのは作曲家の晩年、ストラスブールの教会の楽長時代のもので、演奏時間は30分程度のコンパクトなものだったのですが、今回の「我らが救い主イエスキリストの降架」というタイトルのオラトリオは全体が2部からできていて、正味の演奏時間はほぼ2時間という大作です。
テキストは、そもそもはウィーンの宮廷に仕えていたイタリア人の台本作家、詩人のジョヴァンニ・クラウディオ・パスクィーニが、1728年にヨハン・ヨーゼフ・フックスのオラトリオのために書いたものです。この台本は、彼がドレスデンの宮廷に移った1744年にヨハン・アドルフ・ハッセのために大幅に改訂され、その改訂稿がこのリヒターの作品のテキストの元となっています。
「降架」というのはトイレではなく(それは「後架」)、磔刑にあったキリストを十字架から降ろすことです。このオラトリオの登場人物は実際にその「降架」を行ったとされるアリマタヤのヨセフとニコデモ、十字架をここまで運んだキレネのシモン、それに福音書でおなじみの聖ヨハネと、キリストのカノジョ、マリア・マグダレーナの5人です。
彼らは、レシタティーヴォ・セッコでキリストが処刑された模様やこれまでの出来事を語り合い、それぞれが2回ずつ(シモンだけは1回だけ)長大なダ・カーポ・アリアを歌います。合唱第1部の最初と最後、そして第2部の最後の3回しか登場しません。そして、曲全体の頭には、3つの楽章から成る「シンフォニア」が演奏されます。
ハ短調で始まるそのシンフォニア、最初の楽章こそ重々しい響きの深刻さがありますが、次第にごく普通の「交響曲」(もちろん、当時のシンプルなスタイルの)のように聴こえてきます。そうなると、なんだか「キリストの受難」とはかけ離れた音楽のように感じられてしまうのですが。
アリアになると、そんな傾向はさらに強まります。ほとんどの曲が、いとも軽やかなイントロに乗って華麗に装飾を付けて歌われますし、時にはカデンツァなども披露されていますから、かなりシリアスな歌詞の内容とは何とも相いれられないのですね。
こういう作品を聴くと、もしかしたら、彼が修得した音楽様式は、そもそもそのような深刻な情感を時代を超えて普遍的に表現できるようなものではなかったのでは、という思いを抱いてしまいます。この頃はまだ存命だったバッハの受難曲では、決してそんなことを思ったりはしませんけどね。
ここでヨハネを歌っているフィリップ・マスマンというカウンターテナーは、とても素晴らしいですね。この方はお医者さんなんですって。

CD Artwork © SUPRAPHONE a.s.

by jurassic_oyaji | 2018-01-30 20:52 | 合唱 | Comments(0)