Coco Collectief
ET'CETRA/KTC 1592
シューベルトの「冬の旅」は、もちろん男声のソリストとピアノ伴奏のために作られた歌曲集です。とは言っても、これだけ有名な曲ですから、それ以外の編成、あるいは編曲によるバージョンはたくさん提供されています。
もちろん、ソロのパートを合唱で歌う、という試みもありました。男声合唱のものは良く聴く機会がありますし、
ア・カペラの混声合唱で伴奏パートまで編曲したものも有りましたね。
ですから、「女声合唱」でこの曲が歌われた録音が出たと聴いた時には、さぞやさわやかな印象の仕上がりになっているのだろう、と思いました。これまでの男声や混声のバージョンは、ちょっと重たすぎるような感じがありましたからね。
そんな演奏を試みたのは、オランダの「ココ・コレクティーフ」というアンサンブルです。朝ごはんみたいな名前ですね(それは「
コーンフレーク」)。デン・ハーグ王立音楽院で知り合い同士だった5人の女声歌手と1人のピアニストによって結成されたユニットです。この歌手たちは、リサイタル活動を主に行っている一人を除いて、あとの4人はすべてオペラ歌手としてのキャリアを持った人たちです。ピアニストのモーリス・ランメルツ・ヴァン・ビューレンは伴奏者として定評のある方で、ここでは編曲も担当しています。
その編曲のプランは、ブックレットのそれぞれの曲の演奏者を見てみると、様々に異なっているようでした。そもそも、全員が揃って歌うのは1/3ほどしかありません。それ以外はソロ、もしくはデュエットやトリオ、さらにピアノだけで歌はなし(雪融けの水流)とか、ピアノなしのア・カペラ(道しるべ)もありますから、全ての組み合わせをこの24曲の中で追及しているのでしょうね。
最初の「おやすみ」は、全員の演奏で始まります。最初は全くのソロで歌われ、次に二重唱からもっと人数が増えていく、というプランになっているようですから、「合唱」という感じはあまりしません。いや、冒頭から歌い出した人はとても伸びやかで澄んだ声でしたから、こういう人たちが集まっているのだったら、とてもきれいなハーモニーが聴けるのだろうと期待したのですが、その後で声が重なると、それはあまり溶け合わないような歌い方になってしまっているのですね。聴きすすんでいくと、どうやら彼女たちは、お互いの声をきれいに「ハモらせる」のではなく、それぞれに目いっぱい自分自身の声を主張する、といった歌い方に徹しているようでした。
こんな歌い方がデフォルトの場面を思い浮かべてみると、それはオペラのステージだったことに思い当たりました。彼女たちは、まさに「オペラ」のスタンスでこの「リート」と対峙していたのですよ。
別に、それはアプローチとしては新鮮なものであることは否定できません。この曲の中には、充分に「オペラ」として耐えうるだけのポテンシャルは秘められています。しかし、彼女たちがそのような新たな魅力をここから引き出しているとはとても思えないのです。
このメンバーの中には、さっきのきれいな声の方だけでなく、とても「個性的」な声の持ち主も混ざっていることが、それぞれのメンバーがソロを歌う曲で明らかになります。具体的に名前を挙げると、その「きれいな声の方」がニッキ・トゥルーニート。それに続いて、あくまで個人的なランキングですが、声の伸びはあるがちょっと弱いエレン・ファルケンブルフ、伸びはあるがビブラートがきついヴェンデリーネ・ファン・ハウテン、軽めの低音だがきつい音色のヤネリーケ・シュミート、そして、とんでもない悪声で、この人が入っただけでアンサンブルが完全に崩壊してしまうのが、メーライン・ルニアです。
ブックレットのプロフィールを読むと、彼女たちは「緊密なアンサンブルを作り出しているが、決して『合唱のサウンド』を真似することは目指してはいない」のだそうです。その結果生まれたこのおぞましい「サウンド」には、ちょっとついて行けません。
CD Artwork © Quintessence BVBA