おやぢの部屋2
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BACH/Solo Works for Marimba
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加藤訓子(Mar)
LINN/CKD 586S(hybrid SACD)


かつて、このレーベルは非常にクオリティの高い録音で有名でした。なんたって、母体はあのハイエンド・オーディオのメーカーですからね。ほとんどのタイトルはSACDでリリースされていましたし、さらに45回転のLPなどという、現在のオーディオ・パッケージでは最も高音質の製品まで出していましたからね。ところが、いつのころからか、このレーベルはSACDから完全に撤退していました。いや、ハイレゾをやめたわけではなく、配信によるハイレゾ音源はきちんとリリースしているのですが、パッケージとしてはすべてノーマルCDになってしまったのです。残念ですね。ハイブリッドなのだから普通のユーザーにも迷惑をかけることはないはずなのに、やはり「リン」は無駄なものは作りたくないのでしょうか(吝嗇家)。
もちろん、2チャンネルのステレオでしたらハイレゾが欲しい時には配信で入手できるのですから構わないのでしょうが、困るのはサラウンドの音源です。これは、今のところレーベルのサイトでは入手できませんからね。
しかし、うれしいことに、実質的に日本のスタッフが製作している一連の加藤訓子のアルバムは、国内盤に限ってはしっかりSACDで出ています。
今回のバッハのアルバムも、やはりSACDでしたから、ホッとしました。しかし、今までのライヒ、ペルト、クセナキスという路線から一変してバッハというのは、ちょっと意外な気はしましたね。
実際、このアルバムを入手した時にはまだサラウンドを聴ける環境にはなかったので、2チャンネルで聴いてみたのですが、そこで聴こえてきたバッハにはなにかとてつもない違和感がありました。そこからは、これまでのアルバムでの真摯なスタンスがまるで感じられず、さらにはバッハに対するリスペクトも完全に欠如しているのではないか、とすら思ってしまいました。
しかし、最近思い立ってこれをサラウンドで聴き直してみたら、そんな印象が全く変わってしまったのですから、驚いてしまいます。まず最初に聴こえてきたのは、「平均律」の「第1番前奏曲」、あの「グノーのアヴェ・マリア」の下敷きになった曲です。それはもう、マリンバの巨大な音像が浮かび上がり、音を放つ鍵盤の1個1個が空中にさまよいながらそれぞれを主張しているという感じでした。これこそがサラウンド録音でしかなしえない音の聴こえ方なのでしょう。はっきり言ってそれは殆ど子供だましのようなものなのですが、考えてみればオーディオ再生そのものが、間違いなく子供だましのテクニックで作り上げられた偽物の世界。だとしたら、だまされたふりをしてそれを楽しむのも悪くはありません。
それは、まさに、単なる「前奏曲」、それに続いて聴こえてきた「無伴奏チェロ組曲第1番」では、さらなる驚きが待っていました。この曲は、もちろんチェロという一つの楽器だけで、低音の声部と高音の声部を同時に演奏しようという大胆なコンセプトのもとに出来上がっているのですが、その同じ音域で放たれるマリンバの「バス」の、とてつもないエネルギーにとことん圧倒されることになります。それは、まるで地の底から響いてくるようなサウンド、それがサラウンドでは、まるで大地に開いた大きな穴から聴こえてくるような「錯覚」に陥ります。
これは比喩ではなく、最近読んだこちらの中に書いてあったことで、マリンバの起源というのは実際に地面に穴を掘って、その上で木片を叩いてその穴に共鳴させていたということを知ったのですが、そんな、リアルに「地の底」からの音のように感じられるのですね。
まさか演奏家や録音スタッフがそれを意図していたわけではないのでしょうが、ここには、そんなアフリカの自然や文化までが内包された、桁外れに巨大なバッハの姿がありました。
後半は、無伴奏ヴァイオリン・ソナタ、ここでの「バス」は、もっと都会的な軽やかさで響いていました。

SACD Artwork © Linn Records

by jurassic_oyaji | 2018-03-24 21:34 | 室内楽 | Comments(0)