おやぢの部屋2
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LANG/Statement to the Court, HEARNE/Consent, Lash/Requiem
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Jeffrey Douma/
Yale Choral Artists
Yale Philharmonia
NAXOS/8.559829


アメリカのコネチカット州ニュー・ヘイヴンにある名門、イェール大学(Yale University)には、大学院としてイェール大学音楽院(Yale School of Music)という教育機関が設けられています。ここからは、歴代の著名な音楽家たちによる教育によって、多くの世界的な音楽家が輩出されてきました。
2011年8月に、この音楽院とイェール大学のグリークラブによって設立されたのが、このアルバムでの演奏者、「イェール・コーラル・アーティスツ」という16人編成のプロフェッショナルな混声室内合唱団です。指揮をしているのは、2003年からグリークラブの指揮者を務めていたジェフリー・ドウマです。
この合唱団のメンバーは、アメリカ全土から集められました。それぞれ、すでにプロフェショナルな合唱団のメンバーだった人も含まれていて、その中にはあの「シャンティクリア」や「コンスピラーレ」といった団体に所属していた人もいます。
ここで彼らが、やはりイェール大学音楽院のオーケストラと共演しているのは、アメリカの3人の作曲家による3つの作品です。そのうちの2つは、これが世界初録音となります。
そもそも、このアルバムは、ハーバード大学で作曲を学び、現在はこの音楽院の教師でもあるハナー・ラッシュが作った「レクイエム」の世界初演が行われたコンサートのライブ録音です。こちらにあるように、2016年9月24日にニュー・ヘイヴンのセント・メリー教会で行われたコンサートでは、このアルバムと同じ曲目が演奏されています。それは、確かにジャケットのクレジットでも分かります。
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ところが、こちらの出版楽譜のサイトでの演奏記録を見ると、同じ日の初演の会場が別のところになっています。この日は土曜日ですから、まず大学内のホールで初演したのち、教会で夜のコンサート、でしょうか。さらに、翌25日にはニューヨークでも同じプログラムでコンサートが開かれているのに、CDではその日はニュー・ヘイヴンで録音していたことになっていますが、これもたかが150キロの距離ですから、行き来は可能なのでしょう。NAXOSのデータは決してデタラメではないのだと思いたいものです。
その、ラッシュが作った「レクイエム」は、テキストが本来のラテン語の歌詞ではなく、そこから彼女自身が英語に訳したものになっているのです。その訳も、原文の逐語訳ではなく、もっと自由奔放なものに変わっています。そこまでして彼女が作りたかった「レクイエム」は、単に一個人の死を悼むのではなく、人類全体が抱えている喪失感のようなものまでを表現することを目指しているのだそうです。
音楽的には、「Requiem aeternam」からは、まるでメシアンを超低速で演奏したようなものが聴こえてきます。その中で、アクセントとして機能しているのがハープのパルスなのですが、それを演奏しているのが作曲家自身というのも驚きです。彼女はハーピストとしても活躍しているのですね。この作品ではハープはのべつ聴こえてきます。
「Dies irae」では、複雑なポリリズムが展開されています。ただ、そこから聴こえてくるのは激しさではなく、混沌とした情景です。合唱はひたすら「嘆き」を演出しています。
「Agnus Dei」と「Lux aeterna」の間には、やはり自由に英訳された「詩編」の「深き淵より」が、ア・カペラの合唱によって歌われています。それは、まるでルネサンスのポリフォニーのようなフォルム、しかし、そこでの合唱の表情は、もっと生々しいものでした。
この合唱団は、さすがのソノリテで、見事にこの曲の精神を表現していました。それは、やはりイェールで教鞭を執っているミニマリスト、デイヴィッド・ラングが、労働運動活動家ユージン・デブスの1918年の裁判での陳述をそのままテキストにして作った「Statement to the Court」や、イェールの卒業生であるテッド・ハーンの多層的なア・カペラの作品「Consent」でも、的確なリアリティを産んでいます。思わずエールを送りたくなるような素晴らしい合唱です。

CD Artwork © Naxos Rights US, Inc.

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by jurassic_oyaji | 2018-04-14 21:40 | 合唱 | Comments(0)