先日、知り合いが「アイネクライネナハトムジーク」のエキストラとして、撮影に参加してきたそうです。長町のゼビオアリーナでボクシングの試合をやっているシーンなんですって。その時に、彼女は「この本にボクシングなんか出て来たっけ?」と聞くものですから、私は答えに困ってしまいました。彼女には私は熱心な読書家というイメージがあるようで、そんな映画になるような本だったら当然読んでいるはずだ、という前提の上での質問だったのでしょうね。
ですからその時は、私は「井坂幸太郎はあんまり好きじゃないからね」とごまかしておきましたよ。まあ、こんな人気作家を「好きじゃない」というんだから、やはり只者ではない、というイメージを彼女に与えることには成功したのではないでしょうか。
別にウソをついたわけではなく、彼の本はまだ1冊も読んだことはありませんが、それを原作にした映画は何本か見ています。それこそ仙台を舞台にした「ゴールデン・スランバー」あたりは、別の知り合いがエキストラで出ていましたからね。
ただ、それらの映画は、なんかイマイチ面白くありませんでした。一応ミステリーなのでしょうが、その「謎」がかなりいい加減に思えたんですよね。「どうしてそうなるの?」と思ったシーンばかりが目についてしまいました。「ゴールデン・スランバー」では、整形手術でしょ?あれは反則ですよ。
でも、「アイネ~」の場合はミステリーではなくラブストーリーだという情報があったので、それだったら読んでみてもいいかな、と思って読み始めました。

なにしろ、この表紙ですからたまりませんね。仙台の人だったらすぐわかる場所ですし、もしかしたらこれが書かれた年代だって分かってしまうかもしれませんね。あの高層ビルを建設している途中で、工事用のクレーンなんかがありますからね。
もちろん、本の中にもこのシーンは登場します。そして、よく見ると向かいのビルの壁にボクシングの映像が見えますね。これが、ゼビオアリーナで撮影することになるシーンなのでしょうか。
読んでみると、これは正確にはそのシーンではありませんでした。でも、ボクシングの試合が重要なモティーフになっていることは確かです。つまり、ボクシングの試合は2回(もしくは3回)行われていて、その最後の試合のシーンがゼビオアリーナだったんですね。
この本は、オムニバス形式の短編集でした。それぞれの話が独立して一応完結しているものが、それぞれ何らかのポイントで相互につながりを持っている、という作り方がされています。そういう意味では、やはり「ミステリー」の要素も残している、ということになるのでしょうね。ですから、私が読んで「これは!」と思ったのも、そんなちょっとミステリーっぽいお話でした。というか、これはまんまと引っかかってしまったな、というM的な快感がありましたね。こういうのは大好きですから。
ですから、最後までその調子で、しっかりだましてくれるのだろうと期待して読み進むのですが、どうもそこまでの仕掛けはないようなんですね。まあ、仕掛けと言えば、同じ「嘘」で急場をしのぐというシチュエーションが別々に登場して、その関係が分かるというのはありますが、これは私にしたら完全に外してしまったな、としか思えませんでしたからね。
まあ、これだったらわざわざ時間を取って読むほどのものではありません。この作家に対する私のスタンスは間違ってはいませんでした。
後日、彼女にまた会った時には、そのエキストラのシーンの話で盛り上がりましたね。私の話を聞いて、彼女はやっとそのシーンの意味が分かったようでした。また少し株が上がったかも。