Mariss Jansons/
Symphonieorchester des Bayerischen Rundfunks
BR/900166(hybrid SACD)
ヤンソンスはこれまでにロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団とバイエルン放送交響楽団という2つのオーケストラとブルックナーの交響曲を録音してきましたが、「3番」以降の交響曲では「5番」と「8番」はまだ録音がありませんでした。それが今回、「8番」が2017年11月にミュンヘンのガスタイクで行われたバイエルン放送交響楽団とのコンサートのライブ録音で登場です。まさに「待望久しい」というやつですね。しかも、おそらく日本のファンのためなのでしょう、SACDでのリリースですから、うれしさも倍増です。
ブルックナーの場合、どの版で演奏しているのかが気になるところですが、ヤンソンスの場合はこれまでの録音は全てノヴァーク版を使っていましたから、これも間違いなくノヴァーク版のはずです。そうしたら、このSACDでは「1890年稿」という表記がありました。でも、やはりブルックナーの場合は年号ではなく、だれの校訂なのか分かる表記の方がなじみますね。ですから、ここでは「ノヴァーク版(第2稿)」と言ってほしかったところです。念のため確認をしておくと、「ノヴァーク版」には「1887年稿(第1稿)」と「1890年稿(第2稿)」がありますからね。もちろん、両方の折衷版(1887/1890年稿)が「ハース版」です。
やはり、ブルックナーのような大編成の曲はサラウンドで聴きたいものです。このSACDも、広々としたホールの空間が存分に感じられるものでした。そんなアトモスフェアのなかで、ヤンソンスの指揮はとてもなめらかに音楽を運んでくれていました。どこを聴いても納得できるような自然な振る舞いが、そこにはあります。
第2楽章のスケルツォなども、粗野な感じなど全くない上品ないでたちには、心が和みます。特に、スケルツォ中間部の始まりのとても繊細なピアニシモは、思わず耳をそばだててしまいます。
ライブ録音そのままに、まるで絨毯のように滑らかなティンパニのロールで曲が終わってからの拍手もしっかり収録されています。それは、完全に音がなくなってから5秒ほどおいて湧き上がるという、とてもお上品なものでした。
ブックレットの裏表紙の写真を見て、ちょっとびっくりしました。なんという大編成。フルートだけで8人いますから、これはもちろんブルックナーではありえません。というか、この写真と同じ場所で撮った写真が、以前に聴いたマーラーの「5番」や「9番」でも使われていましたから、そもそもこのSACDとは何の縁もない写真なのでしょう
そうなると、これはいったい何を演奏している時のものなのか、という興味が湧いてきませんか?数えてみたら、メンバーは全員で135人、打楽器だけで18人もいます。いや、人数もさることながら、使われている楽器がかなり特殊です。
ここでフルートパートの一番外側の人だけが演奏していることに注目。普通のソロではこの位置で吹くことはあり得ませんから、これはアルトフルートで
あると思われます。そして、その後ろにはなんとコントラバス・クラリネットが。
まあ、アルトフルートが入る曲は珍しくはありません。ラヴェルの「ダフニスとクロエ」とかストラヴィンスキーの「春の祭典」あるいはショスタコーヴィチの「交響曲第7番」という有名曲がすぐ頭に浮かぶはずです。ところが、いずれの曲にもコントラバス・クラリネットなんてないんです。
ただ、この2つの楽器が入る曲を聴いたことはあります。それは、メシアンの「閃光の彼方Éclairs sur L'Au-delà」という、楽譜上の指定人数は123人という作品です。この写真ではその2つの楽器の他に「チューバ3本」という指定まで一致しています。ところが、メシアンの場合はこの写真にあるティンパニ、ハープ、チェレスタは使われてはいないのですよ。それぞれの管楽器の人数も微妙に違いますし。
となると、これは最近の作曲家の新しい曲なのでしょうか。もう気になって仕方がありません。代理店の方などは、分かったりはしないのでしょうか?
(6/10追記)
読者の方からのコメントで、これはヴァレーズの「アメリカ」(初版)であることが分かりました。ありがとうございました。
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