おやぢの部屋2
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Sinfonieorchester Wuppertal LIVE Vol.2
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Julia Jones/
Sinfonieorchester Wuppertal
HD-KLASSIK/3D-801801(hybrid SACD)


「幻想」の新録音(今年の3月)をまともな「バイノーラル録音」で体験できるアルバムです。それ以上の体験は「バイアグラ」で。
いや、そういう録音自体は、こちらの音源ですでに体験していたのですが、それはもうお粗末極まりないものでした。この録音には人間の頭を模したマイクが使われていますが、そこではそのマイクを客席の中に置いてしまったものですから、音の広がりはほとんど感じられない、ほとんどモノラルのような音場になってしまっていたのです。さらに、そこで使われていたマイクもかなりいい加減なものでしたから、音質は最悪でした。
ということで、もう「バイノーラル録音」に関わることはないだろうと思っていたのですが、このSACDの案内を見ていたら、かなり真剣に追及されているような気迫が伝わってきたので、怖いもの見たさで聴いてみることにしました。なんたって、ただの「バイノーラル」ではなく「3D バイノーラル」ですからね。
このSACDでは、最初に「トレーラー」というのが入っています。「予告編」ですよね。そこでは女性の声でこの録音が目指すものについて語られた後、デモンストレーションが始まります。その人の声が、頭のまわりを回り始めるのですね。そして、「私の声との距離が1メートルになるように調節してください」みたいなことをしゃべっています。そう、確かにその声は、右も左も、そのぐらいの距離を隔てて聴こえてきます。あいにく、前後ではその距離感はいまいちはっきりしないので、これをもって「3D」というのはちょっと無理があるような気はしますが、左右では普通にヘッドフォンで聴く時の音場とは明らかに異なる、幅広いスケール感が体感できます。
まずは、ワーグナーの「タンホイザー」の「序曲」と「ヴェヌスベルクの音楽」です。最初の木管とホルンによるコラールは、とても澄み切った音で、眼前にほぼ原寸大に広がっています。おそらく、マイクは指揮者の頭の上あたりにセットされているのではないでしょうか。そして、チェロによるテーマと、それに寄り添うヴィオラが現れるのですが、その距離感や位置関係もはっきり分かります。さらに、そこにヴァイオリンが入ってきた瞬間、まるで幕が開いたようにステージそのものが「原寸大」で迫ってきたのです。これは、ちょっとすごいことなのではないでしょうか。スピーカーによる再生では、サラウンドでもその音場はあくまでスピーカーで囲まれた空間の中でしか体験できないのに、ここではそれ以上の幅広さが感じられるのですからね。
そして後半の「ヴェヌスベルク」になると、多くの打楽器が横一列になって華々しく踊り出す様子が眼前に広がります。
そのような楽器の定位だけではなく、それぞれの音がとても明瞭に聴こえてくるのも素晴らしいところです。「マイクは2本しか使わず、いかなるフィルターやエフェクターも用いられてはいない」と明言しているので、もちろんサブ・マイクなども使われていないのでしょう。それでこれだけの細部までが完璧にとらえられているのですから、すごいものです。
「幻想」でも、そのクオリティは変わりません。ピッコロなどはとかく他の楽器に埋もれて聴こえないものですが、ここではオーケストラがどんな大音量になってもくっきりと聴こえてきます。最後の楽章の「コル・レーニョ」(最近の楽譜では、「frappez avec le bois de l'archet」と具体的に指示されています)で、ヴァイオリンとヴィオラが弓の木の部分で弦を叩くというところは、もう目の前のそこら中から気持ち悪い音が聴こえて背筋が凍りつくようです。
そして、ライブ録音ですから最後には拍手が入っています。それも、見事にホール全体の広さが感じられるぐらいの広がりが再現されていました。
ここで演奏しているウッパータール交響楽団は、かつて上岡敏之が首席指揮者だったオーケストラですね。こんな過酷な録音に耐えうるだけの腕を持った、素晴らしいオーケストラです。

SACD Artwork © Cybele Records GmbH

by jurassic_oyaji | 2018-08-11 22:09 | オーケストラ | Comments(0)