おやぢの部屋2
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REICH/Drumming
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加藤訓子(Perc)
LINN/CKD 613(hybrid SACD)


加藤さんのLINNからのアルバム、毎回斬新なアイディアが込められていますが、ここではなんとライヒの「ドラミング」をたった一人で演奏しています。一本足ではありません(それは「フラミンゴ」)。まあ、これまでの彼女のライヒに対するアプローチを見てくれば、その可能性もありかな、という気はします。ただ、この作品で要求されているのは彼女の楽器である「打楽器」だけではなく、「ヴォーカル」や、さらには「ピッコロ」と「口笛」の演奏です。かなりのハードルの高さです。
ライヒが1971年に作った「ドラミング」は、全部で4つのパートに分かれている大作で、それぞれのパートで使われる楽器が変わります。最初のパートでは「調律された太鼓」という指定で、大小のボンゴをきっちりチューニングして使います。
このパートが、タイトルの「ドラミング」がそのまま演奏として行われている部分です。ここでは、4人の打楽器奏者だけが8個のボンゴを叩き続けるという、かなりストイックな情景が続きます。とは言っても、それはただ叩き続けるだけの単調なものではありません。一人一人は同じリズムパターンだけを叩いていますが、それが奏者ごとに微妙に「ズレて」行くというのが、ライヒの音楽の最大の魅力。8本のマレットによって叩き出される複雑に交錯したリズムと、それに伴って湧き上がってくる「メロディ」は、それまでの音楽の在り方に明確な風穴を開けるものだったのです。
さらに、この作品はボンゴだけのモノトーンの世界の中に、マリンバが入ってくることによって、色彩がガラリと変わります。最初はボンゴの後ろでかすかに聴こえてきたマリンバですが、それは次第に大きくなり、それに伴ってボンゴは徐々に消えていくという、一つの連続の中での「トランジション」が行われる場面、それは、聴いている者にとってはいったいいつの間に楽器が変わってしまったのだろうという不思議な感覚が湧いてくる瞬間となります。
それが、2番目のパートの始まり、そのころには、ボンゴを叩いていた人たちもマリンバのある場所に移ってきて、3台の楽器を9人の奏者が叩くことになります。さらに、このパートでは高い声と低い声の2人の女声ヴォーカリストが加わります。
同じように、3つ目のパートはマリンバからグロッケンへのトランジションによって始まります。ここでは、3台のグロッケンを5人の奏者が叩くとともに、一人は「口笛」をふき、さらに一人のピッコロ奏者が加わります。
そして、最後のパートにはすべての楽器の12人が全員参加して、一大スペクタクルが繰り広げられるのです。
そんな、とてつもなく複雑なことを、この録音では加藤さんが全部一人で行っているのですよ。もちろん、それは多重録音によるものですが、この音楽は言ってみれば「合わせない」音楽なのですから、普通に「一人ア・カペラ」のようなことを行うのとは全く異なる能力が必要になってくるのは明らかです。最後の方では、11人分の音を聴きながら、それに「合わせず」に、新たに別のリズムを刻むことになるのですからね。
それを、加藤さんはいとも楽しげにやってのけていたようです。しかも、ヴォーカルやピッコロまで、とても見事に演奏していました。ピッコロなどは、よくぞこんなにきっちりとした音が出せたものだと驚くばかりです。もしかしたら、うまくいったテイクをそのままサンプリングして使っていたのかもしれませんね。いずれにしても、これは世界で初めてこの作品を「一人だけで」録音したものとなりました。
そもそもこの録音は、ダンスとの共演でリアルタイムに演奏するために行われたものなのだそうです。一つのパートだけを抜いた「カラオケ」をバックに、一人で何種類もの楽器を叩き、歌い、それに合わせてダンサーが踊るというとんでもないことが、名古屋で行われていたんですね。
このアルバムが、サラウンドのSACDでリリースされたのも、日本国内だけなのだそうです。

SACD Artwork © Linn Records

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by jurassic_oyaji | 2018-10-11 22:49 | 現代音楽 | Comments(0)