おやぢの部屋2
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TCHAIKOVSKY/Swan Lake
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Vladimir Jurowski/
State Academic Symphony Orchestra of Russia
PENTATONE/PTC 5186 640(hybrid SACD)


このオランダのレーベルのSACDのジャケットには、「折り紙」の白鳥があしらわれていますね。そして、なんとこの2枚組のボックスの中に、その「折り方」を説明した紙が入っているのですよ。オランダでも折り紙は親しまれているのでしょうか。
この「折り白鳥」はただジャケットを飾っているだけではなく、これを使ってプロモーション用のコマドリ動画が作られていました。双子の演歌歌手(それは「こまどり姉妹」)ではありません。なぜか、最初に登場するのが蛙(これももちろん折り紙)というのが面白いですね。
「白鳥の湖」と言えば、チャイコフスキーが作ったバレエ、いや、すべてのバレエの中で最も人気のある演目なのではないでしょうか。ただ、ご存知のようにこれが1877年に初演された時にはそれほどの評判にはならなかったものが、作曲家の死後の1895年に「改訂版」が上演されたことによって、現在の人気につながるブレイクを果たしたのですね。
「改訂版」と聞くと、まずは楽譜のことだと思ってしまいますが、このバレエに関しては大きく「改訂」されたのは脚本の方でした。ここでは、チャイコフスキー自身も関わって作られた初演の時の脚本が、大幅に変えられていたのですね。それに伴って、脚本と振付に合わせるために音楽のテンポが変えられ、曲の順序の差し替え、カット、さらにはチャイコフスキーの別の作品の挿入などの措置が取られました。それが、ここでの「改訂」の実態です。バレエに関しては全くの門外漢なので、詳しいことは分かりませんが、現在上演されている「白鳥の湖」は、ほとんどがこの改訂版が元になった形のようですね。
しかし、チャイコフスキーはこの音楽を単なる「バレエのための伴奏」として作ったわけではありません。それは、まるでそれ自体が巨大な交響曲のような、綿密な設計の元に作られていたのです。それは、曲の構成やテーマの扱い、そして調性の設定までに及んでいます。1895年の「改訂」では、そのような作曲家の思いが完全に破壊されてしまっているのでしょうね。
ですから、コンサートでこの曲を「全曲」演奏する時には、1877年の初演の時のバージョンで演奏するのは当たり前のことなのですよ。実際、楽譜として出版されているのはこの形ですからね。それを、このSACDではわざわざ「1877 world premiere version」と謳っていますが、そんな風に特別扱いする必要は全くないのですね。
もうひとつ、これは例によってこれを扱っている日本の代理店の仕業ですが、そのインフォでは「セッション録音」と表示されています。これは、ブックレットの中で指揮者のユロフスキが「2017年2月に行った一晩の演奏を録音」と言ってますから、全くのデタラメです。確かにクレジットではもう1回、2018年2月にも録音が行われたことになっていますが、これは前の年の録音のミスなどを修正するためのセッションで、メインの音は2017年のコンサートで収録されたものです。こういうものは普通は「ライブ録音」と言いますよね。実際、「セッション録音」ではありえない会場ノイズや、アンサンブルの乱れもあちこちで聴こえますし。
なんせ、トータルで2時間半の演奏時間ですから、「交響曲」としてはかなり長め。しかし、ここにどっぷりとつかって、その時間軸の中でのテーマの関係とか、全体の構成などを考えながら聴いていると、全くその長さを感じることはできません。
なんたって、チャイコフスキーはそれぞれのシーンに美しすぎるメロディを惜しげもなく使って、聴くものを全く退屈させることはありません。そのメロディの中でもっとも有名なあの「情景」のオーボエ・ソロは、紛れもなくワーグナーの「ローエングリン」の中のモティーフのパクリなのですが、これはもはやそんなレベルの問題ではなくなってしまいますね。
逆に、ここからパクられた曲があるぐらいですから。第4幕の第27番「小さな白鳥たちの踊り」は、絶対「夜来香(イエライシャン)」の元ネタです。

SACD Artwork © Pentatone Music B.V.

by jurassic_oyaji | 2018-10-25 21:29 | オーケストラ | Comments(0)