おやぢの部屋2
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ROSSINI/Overtures
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Michele Mariotti/
Orchestra del Teatro Comunale de Bologna
PENTATONE/PTC 5186 719(hybrid SACD)



ロッシーニの序曲などというと、かつてはコンサートの最初に「お飾り」のように演奏されるのが常だったのではないでしょうか。作曲家自身のイメージも、ただ明るいだけで底の浅い曲しか作らない人、ぐらいのものだったはずです。しかし、今では彼の業績は正当に評価されるようになっています。
それは、1970年ごろから始まったいわゆる「ロッシーニ・ルネサンス」と呼ばれる一連のムーヴメントがあったからです。楽譜はしっかりと原資料を基に校訂されたクリティカル・エディションが出版され、それによって今までの慣習とは異なる歌唱法も用いられるようになりました。さらに、それまではほとんど演奏されることのなかった、特に「オペラ・セリア」の様式で作られた「まじめな」作品が蘇演されることによって、この作曲家に対するイメージがそれまでの「軽い作風の作曲家」というものからは劇的に変わってしまったのですね。
そんな動きの中心となったのが、ロッシーニの生地ペーザロです。ここでは1980年から毎年「ペーザロ・ロッシーニ音楽祭」が開催され、リニューアルされたロッシーニのオペラが上演されています。そこはワーグナーのバイロイトのように、ロッシーニ愛好家にとっての「聖地」となっているのです。
そんなペーザロに生まれたミケーレ・マリオッティが、2015年から2018年まで音楽監督を務めていたボローニャ・テアトロ・コムナーレ管弦楽団(ボローニャ市立歌劇場管弦楽団)を指揮して、ロッシーニの序曲を9曲録音したのが、このSACDです。もちろん、楽譜はすべてアルベルト・ゼッダなどによって校訂されたペーザロ・ロッシーニ財団のクリティカル・エディション(Ricordi)が使われています。
収録されている9曲の中には、「マティルデ・ディ・シャブラン」や「コリントの包囲」といった、まだ一度も聴いたことのない曲がフィーチャーされているのも興味深いですね。
聴いたのは、もちろんサラウンド音源です。最初に感じたのは、とても遠くにオーケストラがあるような定位感です。録音会場がボローニャのサン・ドメニコ修道院の図書館ですが、写真を見るととても天井の高い、まるでシューボックス・タイプのコンサートホールのような形をしているスペースでしたから、その豊かな残響をしっかりと取り込んだ録音ポリシーなのでしょう。
そんな、まさにホール全体の響きが感じられる、ゆったりとしたリスニング環境の中から聴こえてきた「絹のはしご」の序奏のオーボエ・ソロは、まるで耳のすぐそばで演奏しているような立体感を持っていました。残響は伴っていても、その明瞭なアーティキュレーションははっきり伝わってきます。それに続くフルート・ソロも、やはり同じような立体感のある存在として迫ってきましたよ。そのふんわりとした肌触りは、まさにかつてのPHILIPSサウンドそのものでした。そこにサラウンドとしての立体感が加わっているのですから、これ以上の愉悦感はありません。もう最後まで、そんなサウンドの虜となってしまいましたよ。「泥棒かささぎ」あたりでは、2挺のスネア・ドラムがそれぞれリアの左右に定位していますから、うれしくなります。
マリオッティの指揮は、伝統にはとらわれない自由さを持っていました。たとえば、「ロッシーニ・クレッシェンド」と言われている連続したクレッシェンドでは、単に長いクレッシェンドをかけるのではなく、その途中に微妙に段差を付けて、豊かな表情を出しています。本当に有名な「セビリアの理髪師」などでは、手あかにまみれたそれまでの表現をあざ笑うかのような、とてもユーモラスなルバートが加わっていましたよ。
そんなサウンドと表現で聴く「ギョーム・テル」は、もはや「序曲」とは思えないほどの壮大な構造を持つ作品として眼前に現れてきました。これを聴けば、作曲家としてのロッシーニの偉大さは歴然たるものとなるはずです。単に、業務としてオペラを作っていたのではなかったのだ、と。

SACD Artwork © Pentatone Music B.V.

by jurassic_oyaji | 2019-01-03 20:18 | オーケストラ | Comments(0)