おやぢの部屋2
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Sonora Slocum(fl)
John Wilson(Pf)
AFFETTO/AF 1903



「サターン・リターン」って知ってますか?クリスマスじゃないですよ(それは「サンタ・リターン」)。これは、天文用語で、土星(サターン)が29.5年に1回黄道上の同じ位置に帰ってくることなんですって。このデビューアルバムがリリースされるときに29歳となっているアメリカのフルーティスト、ソノラ・スロークムは、そういう意味で「リターン」という言葉をアルバムのタイトルにしました。それだけではなく、ここで取り上げている曲目には、それぞれ彼女の過去を振り返るときに登場している、という意味も込められているのだそうです。
ジャケットの写真が彼女ご本人、ブレイズヘアがかっこいいですね。なんか、ヒップホップ系のアーティストのように見えますが、もちろんれっきとしたクラシックのフルーティストです。なんでも、メリッサ・スローカムという有名なジャズ・ベーシストの娘さんなのだそうですね。しかし、彼女はジャズではなくクラシックの道へ進み、ジュリアード音楽院、マンハッタン音楽大学、カーティス音楽院などで研鑽を積みます。そこでは、フィラデルフィア管弦楽団の首席奏者、ジェフリー・カーナーや、ニューヨーク・フィルの首席奏者、ロバート・ランジュバンの薫陶を受けました。
彼女は2012年、つまり22歳の時に、ミルウォーキー交響楽団の首席奏者に就任しています。それ以外にも、フィラデルフィア管弦楽団、シカゴ交響楽団といったメジャー・オーケストラや、オルフェウス室内管弦楽団というユニークなオーケストラの客演首席奏者も務めています。
まず、アルバムはバーバーの「カンツォーネ」というフルートとピアノのための短い曲から始まります。初めて聴く曲ですが、いかにもバーバーらしい柔らかなメロディにうっとりさせられる作品です。そこで聴こえてきたスロークムの音は、そんな音楽にぴったりと寄り添った、ソフトな音色でした。特に低音で極力倍音を加えないピュアな音になっているのが、とても魅力的で、聴くものを暖かく包み込んでくれます。ただ、ビブラートがいかにもアメリカのフルーティストらしい機械的なものであるのが、ちょっと気になります。
次は、ひところは良く聴くことがあった、バルトークのピアノ曲をポール・アルマが編曲した「ハンガリー農民組曲」です。これは、彼女が23歳の時に初めてミルウォーキーで開いたリサイタルで演奏した曲なのだそうです。彼女の演奏では、最初の方のシンプルな民謡のテーマが、とても味わい深く感じられます。
そして、これもバーバー同様、初めて聴いたアメリカの作曲家、エーロン・コープランドの「フルートとピアノのためのデュオ」です。流れるような第1楽章、詩的な第2楽章、そしてダンスのような第3楽章の3つからできていて、それぞれにコープランドらしさが満載の楽しい曲です。彼女は、この曲を学生時代にジェフリー・カーナーにレッスンしてもらっています。コープランドは、カーナーの何代か前のフィラデルフィア管弦楽団の首席奏者、ウィリアム・キンケイドの委嘱によってこの曲を作っています。そんな「伝統」のようなものを、彼女は受け継いでいるのでしょうね。第2楽章では、プーランクの有名な「フルート・ソナタ」の第2楽章のテーマそっくりのテーマが出てきますね。
ショパンの遺作の「ノクターン」の編曲を挟んで、フルーティストの定番レパートリー、ジョルジュ・ユーの「ファンタジー」が演奏されます。この曲は、彼女が13歳の時に学校で演奏したものを母親のメリッサが聴いて、すっかりお気に入りになってしまったのだそうです。
もう一つの定番、フランク・マルタンの「バラード」のあとの締めくくりはドビュッシーのソロ・フルートのための「シランクス」です。これも、彼女の穏やかな音色が光ります。もちろん、最後のロングトーンにアクセントが付けられることはありません。

CD Artwoek © Affetto Recordings, LLC

by jurassic_oyaji | 2019-08-17 21:09 | フルート | Comments(0)