ウィーン・フィルが来日していたそうですね。11月5日から11月14日までの間に、福岡、大阪、川崎、東京で追加公演を含む計8回のコンサートを行って、帰っていきました。最初にこのニュースを聞いた時には、とても唐突な印象を持ったのですが、実はこのコンサート自体は今年の始めにはすでに開催が決定していて、招聘元のサントリーホールからは4月ごろからはチケットも販売されていたのですね。ただ、もちろんその頃は「緊急事態宣言」が発せられていて、コンサートなどを行うことはできませんでしたが、実際にそれが行われる11月には、そんな規制も解かれているだろうということで、販売に踏み切ったのでしょうね。ただ、中止の可能性も見据えて、チケットは収容人員の半分しか販売されなかったのでしょう。
ところが、予想に反して、今になってもコロナ禍は終息するどころか、新たに「第3波」まで襲来しています。現実としては、外国のオーケストラが来日することなどは全く不可能な状況ですし、指揮者やソリストが単独で来日することも困難な状況ですから、日本のオーケストラなどは当初の予定を変更して、日本人指揮者によるコンサートでお茶を濁しています。というか、こんな時でなければまずお声がかからないような人が「満を持して(笑)」ということで呼ばれたりしています。さらに、演奏曲目も、合唱を伴うものや大編成の作品は取りあげられなくなっています。オーケストラによっては弦楽器でも通常は2人で1つの譜面台を使っていたところを、一人ずつ譜面台を用意するようにしています。
そんなところに、
10月30日に、サントリーホールからウィーン・フィルのコンサートが予定通り開催されることが発表されました。実は、それに先立って、すでに
10月23日には、チケットの再販売が告げられていたのです。今では、客席の100%を使っても構わないことになっていますからね。
リンク先にあるのは、これらのコンサート開催にあたっての条件です。改めて抜き出してみると、
- チャーター機による来日
- 日本入国前の陰性証明の取得 及び入国時の新型コロナウイルス検査
- 貸し切りバスや新幹線号車貸し切りの利用、宿泊施設ではフロアーを分け、専用食事会場の利用等により、一般の方々との接触回避を確保すること
- 滞在中は 宿泊施設 とコンサートホール間の移動以外の外出を行わないこと
- 毎日の検温、コンサート時以外の常時マスク着用 といった各種衛生措置
- 全員による接触確認アプリ( Cocoa )のインストール、日本において接触した全関係者の記録等の接触確認対応
- 日本政府及び関連業界が定める感染防止ガイドラインを遵守した公演の実施
- その他、関連する全ての各種の感染防止ガイドラインの遵守
なのだそうです。大変ですね。でも、このオーケストラは、他のどの団体にも先駆けて、「以前と全く変わらない演奏形態」を実践していましたね。なんでも、「演奏者間の距離をとると、ウィーン・フィルとしてのクオリティが保てない」のだそうです。見上げた根性ですね。ニューフィルではとても真似は出来ません。というか、裏になんたって経済効果ファーストの「日本政府」の影がちらつくのが不気味です。
それでも、チケットは完売、満席のお客さんはスタンディング・オベーションで盛り上がったのだそうです。
でも、こんな団体だけではありません。ニューヨークのメトロポリタン歌劇場では、これとは正反対のベクトルで、来年9月までの完全休演を決定していました。すでに今年の3月から休演状態になっていましたが、9月に改めて出された声明が、
これです。訳してみました。
私たちは、メトロポリタン歌劇場(MET)が、保健当局からのMETとリンカーンセンターに対する助言に従って、2020-21シーズンの全ての公演を中止するという極めて困難な決定を下したことを残念ながらお伝えしなければいけません。狭い空間でのリハーサルと演奏が求められる何百人もの演奏家たちや、METを訪れる大勢のお客様たちのためには、ワクチンが広く使われるようになって集団免疫が確立され、マスク着用やソーシャルディスタンスをとることがもはや医療機関以外では必要がなくなるまでは、METを再開させることは安全ではないという結論に達したのです。保健当局によれば、そうなるまでにはワクチンが最初に使えるようになってから少なくとも5、6か月は必要なのだそうです。私たちは、METでしか使えない「オペラの魔法」の力がまた戻ってくることしか望んではいません。しかし、それよりも大切なのは、METの演奏者、スタッフたちと、そしてお客様たちの安全なのです。
同時に、私たちは2021年9月27日から始まるはずの2021-22シーズンのことをお伝えできることをうれしく思います。そこでは、METでは初めてとなる黒人の作曲家によるオペラ、テレンス・ブランチャード(註:ジャズ・トランペット奏者、作曲家)の「Fire Shut up in my Bones」(彼の最初のオペラ)のMETでの初演が行われます。
ま、世の中には賢い人と愚かな人がいるな、ということでしょうか。