おやぢの部屋2
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My Magic Flute
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James Galway(Fl, Cond)
Catrin Finch(Hp)
Jeanne Galway(Fl)
Sinfonia Varsovia
DG/00289 477 6233
(輸入盤)
ユニバーサル・ミュージック
/UCCG-1340(国内盤)


今年、67歳を迎えるゴールウェイ、DGに移籍後の3枚目、というか、実質的には2枚目となるアルバムは、期待通りモーツァルトにちなんだものとなりました。メインは、公式には6度目の録音となる「フルートとハープのための協奏曲」、その他にはなにやら編曲ものが並んでいます。まあ、「お祭り」ですから、こんなラインナップもあり、きっと楽しいものに仕上がっている事でしょう。
ぐらいのノリで聴きはじめた人は、後半に入っている「The Magic Flutes」という曲で、全く予想もしないサプライズに出会う事になってしまうのです。このタイトル、もちろん彼が最後に完成したオペラ「魔笛」のことですが、楽器が複数形になっている事で、そこではゴールウェイと奥さんのジーニーとの共演が行われているのが分かります。デイヴィッド・オーヴァートンという人がこの2人とオーケストラのために編曲したもの、しかし、それはそのオペラの単なるトランスクリプションなどでは決してありませんでした。ここで繰り広げられているのは、モーツァルトの作品から自由にそのテーマを持ってきてつなげたという、いわゆる「ポプリ」と呼ばれるものだったのです。いや、正確には、そのようなジャンルともさらに距離をおかなければならないような、ほとんど「ごちゃ混ぜ」に近い編曲だったのです。
全部で3つの「楽章」に分かれているこの曲、最初にはその「魔笛」序曲の3つのアコードから始まります。そして、そのあとに続くのがまあ想定内の選曲、そのオペラでのタミーノの「絵姿」アリアです。しかし、その朗々たるメロディが途中からこのアルバムにも収録されているピアノ協奏曲第21番の第2楽章のテーマに変わるあたりから、その編曲の正体が明らかになってきます。それは、最も分かり易い実例では、あのP・D・Qバッハと非常に近いテイストを持つ、どこか一箇所留め金が外れたような、ぶっ飛んだったものだったのです。もちろん、そういうものが大好きな私は狂喜に打ち震える事になるのでした。この曲は、まるで今のモーツァルトブームをあざ笑うかのように、「こんな曲、知ってるか?」といった感じでとことんマニアックなテーマを次から次へと出してくるのです。もし全部言い当てられたら賞金1000万円、みたいな、言ってみればこれは超難易度の「クイズ」ですよ。交響曲40番がいつのまにか41番になっていたかと思うと、次の瞬間には39番、などという仕掛けだってありますよ。
「第2楽章」は3拍子、お馴染み、ト長調のフルート協奏曲のフィナーレで始まるのですが、そこにニ長調の協奏曲のアウフタクトだけ1拍入るという、うっかりしてたら聞き逃してしまうようなものもあります。それから、これはP・D・Qバッハの常套手段、絶対いっしょには演奏できっこない曲を無理やり同時に聞かせるというテクニックも満載です。そのフルート協奏曲と「アイネクライネ」とかね。
最後の楽章は、クラリネット協奏曲がフィーチャーされています。これは、もしかしたらオリジナル以上に煌びやかなものを、彼の演奏から味わうことが出来るはずです。そして、最後までついて回るのが、タイトルにこだわった「魔笛」からの引用、それが、例えば「フィガロ」のナンバーあたりと渾然一体となっている様は、壮観です。一見ハチャメチャなこの編曲、というか再構築、もしモーツァルト自身が手がけたら、きっとこんなものになっていたのではなどという楽しい想像を膨らますには十分なものがあります。
これ1曲で、このアルバムは存分に楽しむ事が出来ました。メインの協奏曲を聴いて、オーケストラやハープとの様式上の齟齬に戸惑ったり、もしかしたらゴールウェイさえも寄る年波には勝てなくなる事もあるのかな、などという思いがよぎった事も、すっかり忘れさせてくれるものが、そごにはありました。

by jurassic_oyaji | 2006-09-22 22:45 | フルート | Comments(0)