おやぢの部屋2
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Requiem para Cervantes
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Àngel Recasens/
La Grande Chapelle Schola Antiqua
LAUDA MÚSICA/LAU 002



昨年2005年は、あの「ドン・キホーテ」が出版されてから400年経ったという記念すべき年だったのですね。そういえば、やはり昨年は童話作家アンデルセンも生誕200年という、当たり年でした。興味の対象が異なるので全く関心が向かなかったというのもあるのですが、今年の「モーツァルト」のような異常な盛り上がりは、「ドン・キホーテ」に関しては無かったような気がしますが、どうでしょう。まっ、ご近所に新しいお店が出来たという話ぐらいは聞きましたが(それは・・・確かに「ドン・キホーテ」)。
もちろん、ご当地スペインでは大々的に「400年祭」が催されていたようで、このCDにもそんなロゴが入っていました。このアルバムのコンセプトは、「ドン・キホーテ」を書き上げて11年後、1616年に亡くなったその作者、ミゲル・デ・セルバンテス・サアベドラの葬儀の模様を、音で再現してみようというものでした。
中心になるのは、セルバンテスと同時代の作曲家、マテオ・ロメロが作った「死者のためのミサ」ですが、それの前後に「死者のための朝課」や「埋葬式」などのための音楽も演奏されています。言ってみれば、枕経から始まって、お通夜、お葬式、初七日、四十九日から百ヶ日法要、そして納骨という、一連の行事に関するセルバンテスの時代の音楽を味わえるという事になります。もちろん宗派は違いますがね。
セルバンテスが亡くなった17世紀の初頭といえば、音楽史で言えばルネッサンスの終わり、ほとんどバロックが始まりかけている頃になるのでしょうか。このような典礼では全てのテキストを多声部の音楽にするのではなく、一部ではグレゴリオ聖歌がそのまま演奏されています。ここでの演奏も、グレゴリオ担当とポリフォニー担当はそれぞれ別の団体になっています。最初の「死者のための朝課」で聞こえてくるのが、「スコラ・アンテクヮ」というグレゴリア・チーム、メンバーはほとんどスペイン人のようで、いかにも「グレゴリアン」という独特の泥臭くてユルい唱法が和みます。しかし、次のロメロの手になる詩編、「主よ、怒ってわたしを責めないでください」が、「ラ・グランド・シャペル」というポリフォニー・チームによって歌われると、その、あまりに澄みきった世界には一瞬の違和感を覚えてしまう程です。このコーラスとオーケストラが一緒になった団体の事はよく知らないのですが、メンバーの名前だけをみると、スペイン人以外の人がほとんどのようですし、コーラスあたりはイギリス人やオランダ人らしき人がいっぱい、このクリアな響きも納得です。
本体の「レクイエム」になると、サックバットなどの金管楽器が入って、かなりにぎやかなサウンドが味わえます。その中で突き抜けるようなピュアなソプラノが、心地よく聞こえます。もちろん、合間合間のグレゴリアンでは「ちょっと一休み」といった安息感も味わえます。ロメロの音楽、例えば「ディエス・イレ」などの一連の劇的な場面が続く「セクエンツィア」でも、ほとんど一本調子のシンプルな形で押し通すというのは、この時代の様式なのでしょう。後の作曲家が様々に工夫を凝らして絢爛豪華な世界を作り上げているのとは対照的な、ひたむきなものが感じられます。そして、その中にはおよそ抹香臭さのない、カラッとしたものが広がっているのを感じないわけにはいきません。
その印象は、その後に続く「埋葬式」の一番最後の曲、ロペス・デ・ベラスコという人の作った「恋人よ、あなたはなにもかも美しく」というモテットによって、さらに強まります。これは、ほとんどマドリガルのような世俗曲のテイストではありませんか。こんな浮き浮きとした音楽で埋葬されたなんて(本当かどうかは分かりませんが)ちょっと羨ましいセルバンテスです。
by jurassic_oyaji | 2006-10-04 20:12 | 合唱 | Comments(0)