おやぢの部屋2
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Dancing Bach
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Stockholm Baroque Orchestra
PROPRIUS/PRSACD 2036(hybrid SACD)



このタイトルだと、良くある「ロックとバッハのコラボ」みたいなアルバムではないかと思ってしまいますね。しかし、実際に手にして聴いてみると、その様なポップス寄りの編曲ものではなく、きちんとオリジナル楽器を使ってまともに演奏しているものだったので、一安心です。ここで言う「Dance」とは、今風のヒップ・ホップやクラブシーンで使われている「ダンスミュージック」とは縁もゆかりもない「舞曲」のことだったのです。
バッハの時代には、様々な舞曲を集めて「組曲」とか「パルティータ」という作品が作られました。舞曲というのは、元々は実際に踊るための音楽ですから(そういう意味では「ダンスミュージック」と言えなくもありません)、その精神を演奏に生かして、あたかもバッハの時代にジャム・セッションが行われたような感じを出してみたいと、このようなアルバムを作ったスウェーデンの音楽家達は考えたのだということです。何たって、スウェーデンは家具の国ですから(それは「洋服ダンス」)。
構成としては、最初と最後に組曲(序曲)の2番(BWV 1067)と1番(BWV 1066)を置いて、そこで全部のメンバーのセッションを味わってもらい、その間にソロやデュエットで、個人のプレイも楽しんで頂こう、ということなのでしょう。確かに、普通のバロック・アンサンブルとはひと味違った、堅苦しくない生き生きとした音楽が、ここからは伝わってきます。
そもそも、彼らは「オーセンティック」なものを求めているわけではなく、重要なのはあくまで個人の解釈、ですから、最初の有名な組曲第2番では、ちょっと不思議な響きに驚かされます。その正体は、通奏低音にチェンバロの他にテオルボを加えていることでした。この大型のリュートは、まるでギターでカットしているような、強烈なリズム感を全体のアンサンブルに与えています。そこへもってきて、当時の「不均一」なリズムを存分に取り込んで、ほとんど「スウィング」に近いグルーヴを見せているものですから、確かに「踊れる」音楽に仕上がっています。その結果、バッハの典雅さはやや薄れていますが、みずみずしさからいったら文句のないものが出来上がりました。
続くソロのコーナーでは、今度はプレイヤーの個性が良く表れているのが楽しめます。コンサート・マスターを務めているマリア・リンダルは、あくまでまじめにバッハを追求しているように見えます。先ほどの組曲のような弾けたところはあまりありませんが、しかし、もちろん退屈になってしまうようなことは決してないスリリングさは持ち合わせているバッハです。
しかし、その組曲で煌めくばかりのインタープレイを披露してくれたフルートのマッツ・クリングフォルスは、なんとここでファゴットに持ち替えて「無伴奏チェロ組曲」を演奏していますよ。オリジナル楽器ですから、音程はちょっと不安定(そういえば、フルートもかなりの「音痴」でした)、そこにスウィングが入りますから、まるでこの楽器がテナーサックスのように聞こえてしまいます。
ミカエラ・マリンというヴィオラ奏者が、ここでは「ヴィオリーノ・グランデ」という楽器を演奏しています。同じような名前で「ヴィオリーノ・ピッコロ」というのがありますが、これはバッハの時代にもあったオリジナル楽器です。しかし、この「グランデ」は、なんと現代に作られた新しい楽器なのですよ。スウェーデンの技術者であるハンス・オロフ・ハンソンという人が仕事の合間に作り上げた、ヴァイオリンとヴィオラの合いの子のような楽器が、「ヴィオリーノ・グランデ」なのです。
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ご覧のように弦は5本、C-G-D-A-Eと、下はヴィオラ、上はヴァイオリンの調弦になっています。1968年に発表され、あのペンデレツキあたりがこの楽器のための協奏曲を作ったりしていましたが、今となってはスウェーデン国内でしか演奏している人はいないのではないでしょうか。ペンデレツキの協奏曲も、結局はチェロのために書き直されてしまいましたし。ここでのマリンの演奏、移弦の多い早い曲ではなかなかの効果を見せていますが、ゆっくりとしたサラバンドではちょっと音程に問題があるのは、楽器のせいなのか、演奏者のせいなのか。
実は、このアルバムの最後の組曲のあとに、マリンのヴィオラとクリングフォルスのファゴットで「インヴェンション」が演奏されています。それはまさにジャズヴァイオリンとサックスのセッションのように聞こえます。
by jurassic_oyaji | 2006-10-24 23:41 | オーケストラ | Comments(0)