おやぢの部屋2
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MOZART/Requiem
MOZART/Requiem_c0039487_15035504.jpg

Anna Korondi(Sop), Gerhild Romberger(MS)
Jörg Dürmüller(Ten), Jochen Kupfer(Bas)
Enoch zu Guttenberg/
Chorgemeinschaft Neubeuern
Orchester der KlangVerwaltung
FARAO/S 108048(hybrid SACD)



以前ご紹介したマタイ受難曲での数々の仕掛けを施した演奏には圧倒されたものですが、そのグッテンベルクが今回はモーツァルトのレクイエムに挑戦です。まずライナーを読んでみると、この録音にあたってのグッテンベルクの考えが述べられています。「レクイエムには、なんの喜びも存在していない」とか「単に誰かの美的な望みを満足させるためだけなら、この作品を演奏するのは断固拒否する」といったような勇ましい言葉があちこちに見かけられますから、彼は特別な決意を持ってこの演奏に臨んでいることがうかがえます。もしかしたら、昨今流行の「美しいだけ」のモーツァルトに対する強烈なアンチテーゼが、ここには示されているのかもしれません。
そして、「Introitus」冒頭の、弦楽器の刻みによって、その決意はただごとではないことが明らかになりました。低音と高音の弦楽器が互い違いに打ち込む八分音符の音の長さが、尋常でないほど短いのです。確かに楽譜にはスタッカートの中でも最も短い音を求めるときに使う「くさび形スタッカート」が使われていますから、このような演奏は間違いではありません。ただ、大概の演奏はここではある程度の重みをその音符に持たせて、まるで足を引きずるような歩みを表現しているものですが、これでは、まるでカスタネットを叩きながらのスキップのような軽い足取りに聞こえてしまいます。そこからは悲しみを導き出す緊張感よりは、滑稽さすら喚起するほどの軽さが生まれてしまっているのですから、これはグッテンベルクの誤算なのでしょうか。思っていたほどの効果が、実際には音にならなかったと。あるいは、もしかしたらこれは冗談なのかも知れないという、不謹慎な思いさえ、脳裏をよぎります。
こんな、何か指揮者の独りよがりのような表現が、次から次へと出てくるので、聴く方としてはその指揮者の演奏に共感して悲しみの淵に沈むというようなことがかなり困難になってきます。「Kyrie」のフーガにしても、出だしのバスパートはとことん深刻な表情を出しているというのに、それに続く他のパートが全く平板な顔で歌い出すのですから、指揮者の目指しているものがなにも見えなくなってしまうのです。
それでも、「Dies irae」までほとんど隙間を空けずに連続して演奏するということから生まれる緊張感には、かなりのものがあります。そして、ここでの「音環境保護」オーケストラの雄弁なこと。まさに「怒りの日」というタイトルにふさわしい、本当に「怒って」いるような、というか、あまりにあからさまな感情の表出には、ちょっとびっくりしてしまうほどです。ほんと、こんなに激しく「怒られて」いたのでは、音楽を聴いて「喜び」などは味わえないのかも知れません。
そんな、過激な表現は「Lacrimosa」にも見られます。その、恐ろしく速いテンポの、まるで突き放すような態度からは、確かに冷たい感情はうかがい知ることは出来るかも知れません。しかし、それに共感して「悲しみ」を分かち合おうという気には全くなれないという、それは聴くものを置き去りにした冷たさでした。
最後に「Communio」で1曲目が再現されるとき、もはやあの印象的な弦楽器のスタッカートは消えていました。それに気づいて1曲目を聴き直してみると、この部分ではいつの間にか普通の長さの八分音符で演奏されていたのですね。楽譜では、「simile」という表記があるので、それ以降はスタッカートが付いていなくても「同じように」演奏するという指示なのですが、そのあたりになれば同じ音型が戻ってきてももうその指示は無視しても構わないという解釈だったのでしょうか。
いくら指揮者の思いが強くても、それを聴き手に納得させるためには、最低限の辻褄を合わせるだけの労を惜しんではいけません。そうでないとその場限りのただのスタンドプレイになってしまい、あのアーノンクールと何ら変わるところはなくなってしまいますよ。

by jurassic_oyaji | 2006-10-28 11:25 | 合唱 | Comments(4)
Commented by kawazukiyoshi at 2006-10-28 14:23
モーツアルトのレクイエムはホントにすごい曲ですね。
音楽の力って非常に大きいのですね。
Commented by マモー at 2006-10-29 09:03 x
アーノンクールってそんなに酷かったっけ?最近は、かなりオーソドックスな音楽作りだと思うけど。
Commented by jurassic_oyaji at 2006-10-29 09:52
kawazukiyoshiさん、コメントありがとうございました。
同じ曲でも、伝えるものには大きな違いがあることを感じてしまいます。
Commented by jurassic_oyaji at 2006-10-29 09:54
マモーさん、コメントありがとうございました。
アーノンクールに関しては、ほとんどネタで使っています。生理的にあの独特のデフォルメは好きになれません。それがどんな時にも現れるのがすごいところなのですが。