おやぢの部屋2
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BACH/Messe in h-Moll
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Mechthild Bach(Sop), Daniel Tayler(Alt)
Marcus Ullmann(Ten), Raimund Nolte(Bar)
Frieder Bernius/
Kammerchor Stuttgart
Barockorchester Stuttgart
CARUS/83.211



ベルニウスとシュトゥットガルト室内合唱団の最新アルバムです。しかし録音されたのは2年前の2004年3月、最新の録音ではありません。このコンビの演奏、手元には1996年に録音されたリゲティなどの無伴奏合唱曲集と、1999年のモーツァルトのレクイエム(バイヤー版)がありますが、同じ名義の合唱団でも、そのメンバーはずいぶん変わっています。1996年の時のメンバーは皆無ですし、1999年の時の人も、各パート1人いるかいないかといった具合、ほんの5、6年で全く別のメンバーに入れ替わるという、まるで学生の合唱団のようなローテーションの激しさが見られます。
もちろん、適宜新陳代謝を図ることによって常に若々しい声を保つという方針なのでしょうが、その代わりにアンサンブルに微妙な違いが出てくることもあり得るはずです。
実際、この「ロ短調」を聴いてみると、リゲティの時に感じた完璧なまでの緻密さとはちょっと異なる肌合いだったため、少なからぬ驚きを抱いたものです。アンサンブル自体は非常にしっかりしたものなのですが、今回はもっと一人一人の自発性が前面に出てきているような趣だったのです。
演奏は、押しつけがましいところの一切ない、爽やかなものでした。「Kyrie」の最初のアコードから、いともあっさりとした面持ちで音楽が始まります。オーケストラも、もちろんオリジナル楽器ですが、そこからは厳しさよりはもっと和やかな、殆ど癒しに近い世界が広がります。合唱が入ってきて次第に盛り上がるところでも、これ見よがしの高揚感は一切ありません。いつの間にか緊張感が増してきたな、と思った頃、最後のピカルディ終止を迎えます。その純正な響きの中には、殆どなんの主張も持たない究極の美しさが存在しているかのようです。
Gloria」も、そんな静かな感じで進んでいきます。「Domine Deus」で出てくるフルート2本のオブリガートも、いとも素朴なたたずまい、そんな中で、均等なリズムを敢えて前の音符を短くしているあたりが、かすかに緊張感を呼び覚ます配慮でしょうか。そんなぬるま湯のような音楽が永遠に続くかと思われた頃、このパートの終曲「Cum Sancto Spiritu」になったとたん、ガラリと表情が変わってしまったのですから驚きます。それは、今まで聴いてきた中で初めて見せた激しさ、パワー全開となった合唱は荒れ狂うような輝きを見せています。もちろん、そこでアンサンブルが崩れるようなことは全くありません。
Credo」も、同じような設計がなされていたのでしょう。前半は淡々と進んでいたものが、終わり近く、「Et resurrexit」で爆発という、表現の幅の広さを見せつけてくれるものでした。この曲の後半、バスのパートソロの難しいパッセージを一人で歌わせていたのも、なかなか効果的でした。これは、決してトゥッティに自信がなかったための措置ではなかったはず、確かな緊張感を産むものでした。
ソリストも、端正な人たちが集められています。ソプラノのバッハ(!)は可憐な声が魅力的、アルトのテイラーも深みはありますが、それは少し軽め、「Agnus Dei」のソロもやや物足りなさが残りますが、逆にそれだからこそ、全体の演奏の流れには相応しいものになっています。テノールのウルマンも爽やかそのもの、「Benedictus」のソロでは、ちょっと頼りないフルートのオブリガートによく合わせています。切れて光線を発することもありません(それは「ウルトラマン」)。バリトンのノルテもやはり軽め、ホルンのオブリガートが付く「Quoniam」では、ナチュラルホルンのちょっとユーモラスなゲシュトップと見事な調和を見せています。
ベルニウスの音楽の中にある意外性は、十分予測可能なもの。その基本はあくまで自然な流れなのではないでしょうか。
by jurassic_oyaji | 2007-01-03 19:37 | 合唱 | Comments(0)