おやぢの部屋2
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Hommage à Poulenc
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Abbie de Quant(Fl)
Elizabeth van Malde(Pf)
FINELINE/FL 72410



オランダのCHALLENGEのサブレーベル、FINELINEからりリースされた、オランダのフルーティスト、アビー・デ・クワントのソロアルバムです。この写真でもお分かりのように決して若くはない、経歴を見ると恐らく「還暦」前後の年齢ですが、長年のキャリアに裏付けされた渋いアルバムが出来上がりました。
「プーランクへのオマージュ」というタイトル通り、ここでは、プーランクのフルートソナタを愛してやまない演奏家が、プーランクの先駆けとなった作曲家と、プーランクに何らかの形でリスペクトを捧げている作曲家の作品が集められています。あんこも入っておいしそう(それは「お饅頭」)。
「プーランク以前」として、タファネルの「アンダンテ・パストラルとスケルツェッティーノ」と、ケックランの「ソナタ」が、ことさらに技巧を誇示しない端正な語り口で演奏されています。それは、ある意味落ち着きを持った音楽として聴くことを求められているような、穏やかなもの、老境にさしかかった演奏家の熟達の境地なのでしょうか。
そして、メインとも言えるプーランクの「ソナタ」です。特にフィナーレなど、メカニカルな面での傷がなくはないものの、曲の隅々にまで配慮が行き届いていることは十分に受け止めることは出来る味わいのある演奏なのではないでしょうか。
「プーランク以後」、あるいはプーランクと同時代の作品としては、デュティーユの「ソナチネ」やオネゲルの「牝山羊の踊り」、そして「6人組」のメンバーである女流作曲家タイユフェールの「フォルラーヌ」が、やはり同じような端正なフォルムで演奏されています。とかく技術のひけらかしに終わりがちなデュティーユでも、情感を優先させた豊かな音楽は魅力的に響きます。タイユフェールでの細やかな表現も、心を惹き付けられるものがあります。
このアルバムの、恐らく目玉とも言えるものが、オランダの作曲家の作品3曲でしょう。そのうち、デ・クワント自信が曲の成立に関わっていたものが2曲含まれています。1962年生まれのバート・ヴィスマンという人の「メロディー」という静かな曲では、ちょっと非ヨーロッパ的なその旋律が魅力的です。特に「現代的」な奏法が求められているものではありませんが、デ・クワントは音色をガラリと変えて、不思議な世界を創り出しています。
もう1曲、デ・クワントの求めに応じて作られたものは、1961年生まれのヤン・ブスという人の「Cherchez l'Orange」です。タイトルは「オレンジを探せ」でしょうか。作曲者によると、この「オレンジ」というのは「完璧なフォルム」の比喩なのだそうです。プーランクのソナタからの引用などが垣間見られる、興味深い作品です。
最後に収録されているのが、ユダヤ人であるために第二次世界大戦でナチによって命を奪われた1919年生まれの作曲家ディック・カッテンブルクが17歳の時に作った「ソナタ」です。3つの楽章から成るオーソドックスな書法による聴きやすい作品、中でも真ん中の楽章のラテン的なテイストが、とっても「粋」に聞こえます。
この3曲の、恐らく「初録音」が、一見なんの変哲のないアルバムに、確かなアクセントを与えてくれています。
by jurassic_oyaji | 2007-04-03 22:54 | フルート | Comments(0)