おやぢの部屋2
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DVORAK/Symphony No.9
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Karel Ancerl/
Czech Philharmonic Orchestra
日本ビクター/JM-XR24206


かつて、「暮らしの手帖」という雑誌がありました。肥料の専門誌ですね(それは、「コヤシの手帖」)。いえ、この雑誌は今でもしっかり発行されてはいるのですが、もはや昔の面影はありません。この雑誌が最も輝いていたのは、創設者の花森安治氏が編集コンセプトから表紙のデザインに至るまで彼のセンスを反映させていた時代です。その頃のこの雑誌には、今のものには決して見ることの出来ないとてつもない迫力がありました。
この雑誌の、いわば目玉というものが、「商品テスト」でした。家庭用のありとあらゆる商品がその対象となり、徹底的に使う側の立場に立った厳格なテストを行った結果、誰からも納得のいくようなランキングができあがるというものです。何よりもすごいのは、公正なテストを行うために、一切の広告を排除していたということです。
その「暮らしの手帖」が、レコードの商品テストを始めた時には、音楽関係者は一様に拒否反応を示したものでした。なんと言っても相手はいわば「芸術作品」ですから、冷蔵庫や洗濯機と一緒に扱われるのは我慢が出来ない、そもそも客観的な「性能」などはテスト出来るわけがない、といったいかにもまっとうな意見が声高に表明されていたのです。しかし、「手帖」サイドはあくまで彼らの主張を貫き通しました。レコードといえども一つの商品であるという立場から、「演奏」と「録音」の両面で、厳しい評価を下したのです。毎号、一つの曲(場合によっては「運命・未完成」のようなカップリング)について、その時点で入手できるすべてのレコードを同じ条件で比較する、というのがテストの方法、その結果にはかなりの説得力がありました。例えば○野○芳氏あたりが、広告だらけの媒体でいかにも孤高を装って展開している主観だらけの批評などとは次元の違う、今にして思えばかなり爽快なレコードの商品テスト、もしこれだけが復刻されるというようなことがあれば、その様なアバウトな「評論家」は顔色を失うことでしょう。
ドヴォルジャークの「新世界」のテストが行われたときに、最も高い評価、確か絶対的な優位でトップを獲得していたのが、このアンチェル盤でした。細かいことは忘れましたが、「新世界」の持つ民族性を見事に表現したものとして、商品として最も優れているとされていたのです。このテストでは、演奏が良くても録音が悪いものは評価されません。ですから、これは録音も優れていたはずです。
そんな商品が最高の状態で「復刻」されたものを、初めて聴くことが出来ました。「手帖」を読んで、いつかはぜひ聴いてみたいと思っていた演奏、何十年かの時を経てやっとその願いが叶いました。
アンチェルの演奏は、しかし、ことさらに「民族性」を強調するものではありませんでした。引き締まったテンポ感と、きびきびした表現は、センチメンタリズムとは全く無縁なもの、そこからはドヴォルジャークが作り上げた骨太の音空間が見えてきます。もし、民族性が感じられるとすれば、それは管楽器の特異な音色のせいなのかもしれません。特にクラリネットとホルン奏者が付けている甘いビブラートによって、木管セクションがえもいわれぬ暖かさに包まれているのは、注目すべきことでしょう。
そして、今回も「XRCD」は期待を裏切ることはありませんでした。特に静かな部分での弦楽器や木管楽器の充実した質感は、とてもみずみずしいものでした。最近ありがちな表面の響きだけをとらえたものではなく、とても「芯」のある音です。そして、打楽器の録音の生々しさには驚かされます。ティンパニの一撃のクリアなことといったらどうでしょう。第3楽章だけに現れるトライアングルも、ここまで存在感をもって聞こえてくる録音などなかなか出会えません。
ただ、フォルテシモでのヴァイオリンの高音などがかなり堅く聞こえてしまうのは、マスターテープの劣化のせいなのでしょうか。ドロップアウトも何カ所か聞こえますし、こればかりはどうしようもないのでしょうね。
ちなみに、「レコード芸術」のキングインターナショナルの広告では序曲が2曲カップリングとなっていますが、それは間違いです。
by jurassic_oyaji | 2007-06-28 19:49 | オーケストラ | Comments(0)