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C.P.E.BACH/Concertos et Sonate pour flûte
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Juliette Hurel(Fl)
Arie van Beek/
Orchestre d'Auvergne
ZIG-ZAG/ZZT070301



あのパユさまと同じ、1970年生まれのフルーティスト、ジュリエット・ユレルがエマニュエル・バッハの協奏曲などを演奏したアルバムです。パユさまがブレイクしたのは1989年に神戸で行われた第2回神戸国際フルートコンクールで優勝したからですが(その時は19歳!)、ユレルはその次々回の神戸、1997年の第4回で「武満作品最優秀演奏賞」というのを獲得しています(このときはヘンリク・ヴィーゼが3位でした)。その時の課題曲が武満徹の「ヴォイス」という超難曲、これを最も素晴らしく演奏したということで、その賞をもらったのです。
現在はロッテルダム・フィルの首席奏者として活躍、写真を見るとウィノナ・ライダー似の若々しくチャーミングな顔ですが、もはや人妻、お相手は元バイエルン放送交響楽団のやはり首席フルート奏者、ブノア・フロマンジェだということです。
ここでユレルは、木製の楽器を演奏しています。もちろん、「木管」とはいってもいわゆる「フラウト・トラヴェルソ」というオリジナル楽器ではなく、あくまでベーム式のモダン楽器なのですが、音色は木管ならではのまろやかなものです。さらに彼女は、ビブラートを極力抑えた吹き方をしていますので、一見トラヴェルソを吹いているようにも聞こえるというのが、こういうモダン楽器の演奏者にしてはユニークなところでしょうか。いや、最近はこのようにモダン楽器を使って限りなくオリジナルっぽい演奏をするという、いわゆる「ピリオド・アプローチ」というものが一つのジャンルとして確立されているほどですから、別に珍しいことではなくなってきているのでしょう。そのような時代的な奏法を要求する指揮者も増えてきていますから、モダン・オケの奏者といえども、これはもはや必須のスキルになりつつあるのかもしれません。
ただ、ここでのユレルの演奏は、「音」こそバロックに近い雰囲気を伝えるものになってはいますが、スタイル的には現代風のテイストのままですから、ちょっと物足りない感じがつきまといます。特にゆっくりした楽章でのシンプルな旋律には、もっともっと装飾をコテコテと付けて、自由な息吹を発散させて欲しいという思いが募ります。
その分、バックのオーヴェルニュ管弦楽団が、なかなか起伏に富んだアグレッシブな音楽をやってくれていますから、全体としてはなかなか聴き応えのあるものに仕上がっています。父親の作品の「バディネリー」と非常によく似た音型で始まるイ長調の協奏曲(Wq.168/H.438)の第2楽章などは、「ラルゴ・コン・ソルディーニ」という表示の、文字通り弱音がポイントの曲ですが、ここでのオーケストラの刺激的なまでに陰影に富んだ表現には、とても深いものがあります。そんな雄弁なオーケストラに乗って、あくまで典雅な、ちょっと気取った面持ちのフルートが軽やかに歌うという点が、ただ聞き流すだけでは済まされない味を醸し出すことになっています。時折思い出したように現れる華麗で技巧的なパッセージの処理などは、さすがに手堅いものがあります。
したがって、最後に収録されているフルートが一人だけで演奏しなければならないイ短調のソナタは、オリジナル楽器の演奏を数多く聴いてしまったあとではあまりに引っかかりがなさすぎて物足りない感じがしてしまうのは、致し方のないことなのでしょう。以前ご紹介したガロワのような工夫がないことには、ただの退屈な音楽で終わってしまいます。
by jurassic_oyaji | 2007-07-06 20:41 | フルート | Comments(0)