おやぢの部屋2
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VANHAL/Flute Quartets
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Uwe Grodd(Fl)
Janaki String Trio
NAXOS/8.570234



ボヘミア出身、ウィーンで活躍した作曲家ヴァンハルは、1739年に生まれて1813年に亡くなったといいますから、ちょうどあのモーツァルトの生涯にそれぞれ前後に20年ほどはみ出して重なっているということになります。もっとも、晩年は精神的な病で創作活動は行わなくなってしまったそうですが。若い頃学校で手下を従えていた反動でしょうか(「番、張る」)。
ヴァンハルは、当時では珍しい、作曲だけで生活できるほどの売れっ子の音楽家だったそうです。作品の数も膨大で、交響曲を70曲以上も作ったのを筆頭に、あらゆるジャンルで万遍なく多くの作品を残しています。彼の作品のジャンル別の目録を作ったのが、ヴァインマンという人ですが、その方法は交響曲は「I」、協奏曲は「II」のようにローマ数字で大まかなジャンルに分け、さらにそれぞれに小文字のアルファベットによってより細かい分類を行うというものです。ですから、この「フルート四重奏曲」は「V」の「四重奏曲」の中の「Vb」という項目に含まれています(ちなみに「Va」は弦楽四重奏曲)。そして、個別の作品は、その調性を頭に付けた番号で特定されています。ハ長調の3曲目でしたら「C3」、ニ短調の5曲目は「d5」といった具合です。
多くのものが生前に出版され、ヨーロッパだけではなくアメリカあたりでも演奏されていたというヴァンハルの作品ですが、現在ではそれらは殆ど忘れ去られています。このフルート四重奏曲にしても、今回の録音がすべて世界初録音だということで、その状況はうかがい知ることが出来るでしょう。正確には、これらの曲は「フルートまたはオーボエ」という指定があるため、オーボエ四重奏の形で演奏したものがいくつかはありますが、それにしても例えば同時代のモーツァルトの同じ編成による作品の知名度に比べたらそれはごくわずかなものでしかありません。
ここでフルートを演奏しているウーヴェ・グロットは、指揮者としても有名な方、ヴァンハルの交響曲や宗教曲をいくつかこのレーベルに録音しています。あのチェリビダッケに師事したということです。フルートの方はロバート・エイトケンに師事、ちょっと地味な音色や、揺るぎないテクニックなどは、師匠譲りでしょうか。アメリカの若い音楽家によって編成された弦楽三重奏団と、緊密なアンサンブルを繰り広げています。このメンバーの写真がブックレットにありますが、みんななかなか個性的な外見の持ち主、きっとライブでは盛り上がることでしょう。
ここで演奏されている3曲(Weinmann Vb:Bb1,G1,C1)はすべて、まるで交響曲のようなしっかりした4つの楽章から成っています。第1楽章はかなり大規模なソナタ形式、第2楽章はゆっくりとしたカンタービレ、第3楽章はメヌエット、そして終曲は華やかな早い楽章です。どの曲も、隙のない、まさに名人芸とも言える仕上がりとなっていて、全く飽きることなく聴き通すことが出来ます。中でも、カンタービレの楽章はその豊かなメロディで聴き応えがあります。常時フルートが目立ったパートを独占するのではなく、ヴァイオリンにも同等のウェイトがかけられていますから、幾分乾いたグロットのフルートと、甘美そのもののマッキニー嬢のヴァイオリンとの対比を楽しむことも出来ます。
全く知らなかったはずの曲なのに、なんの抵抗もなく楽しむことが出来たのは、たぶん、これらの曲の中に頻繁に顔を出す、おそらくモーツァルトあたりによってさんざん刷り込まれてきたエモーションのせいなのではないでしょうか。モーツァルトさえクリアしておけば、この時代の他の作品は難なく楽しむことが出来るということは、裏返せばモーツァルトはこの時代の様式を一歩も超えてはいなかったということにもなるのでしょうね。
by jurassic_oyaji | 2007-08-11 19:27 | フルート | Comments(0)