Willem Tanke(Org)
BRILLIANT/8639
1908年に生まれ
1992年に亡くなったオリヴィエ・メシアンは、パリの聖トリニテ教会のオルガニストでもあり、生涯にわたってオルガンのための作品を書き続けた作曲家でした。何しろ、彼の最初に出版された曲というのが、
1928年に作られた「天上の宴
Le Banquet céleste」なのですからね。続いて
1930年には「二枚折りの絵
Diptyque」、そして有名な「永遠の教会の出現
Apparition de l'Église éternelle」(
1932)、「キリストの昇天
L'Ascension」(
1934)、「主の降誕
La Ntivité du Seigneur」(
1935)、「栄光に輝く体
Les Corps glorieux」(
1939)などが
1930年代に作られ、いったんオルガンのための創作からは遠のくことになります。ここまでが、言ってみれば彼のオルガン作品における「第1期」でしょうか。
第二次世界大戦後の
1950年になると、「精霊降誕祭のミサ
Messe de la Pentecôte」で、再びオルガン曲が作られるようになります。翌
1951年の「オルガンの書
Livre d'orgue」、
1960年の「献堂式のためのヴェルセ
Verset pour la fète de la Dédicace」とともに、「第2期」を形作っています。
「第3期」には、9曲から成る「聖なる三位一体の神秘への瞑想
Méditations sur le mystère
de la Sainte Trinité」(
1969)とCD2枚分、
18曲から成る最後のオルガン曲「聖体の秘蹟の書
Liver du Saint Sacrement」(
1984)という2つの大作が含まれます。
実は、これ以外にも出版されていないものなど数曲あることはありますが、とりあえずこれだけのものを収録した8枚組の「全集」が、買い方によっては
4000円以下で入手できるという破格の値段でリリースされました。このレーベルは、かつては出所不明の得体の知れない音源でさまざまな「全集」を出していたものですが、最近では録音データなども明記したれっきとした自前の録音で、なかなか渋いレパートリーを出すようになっていますので、侮るわけにはいきません。これは、オランダのオルガニスト、ウィレム・タンケが
1994年にハールレムの教会で録音したものです。セッションは
10日ちょっとしかありませんでした。せっかちだったんですね(それは「
タンキ」)。4段鍵盤のフランス風の大オルガンは、メシアンの曲に欠かせない多彩なリード管や澄み切った倍音管を備えており、優秀な録音(
2007年に新たにリマスターされています)と相まって起伏に富んだ音色を楽しめます。そもそもメシアンのオルガン曲全集で現在入手できるものは殆どありませんから、これはファンであれば絶対に買っておいて損はないもののはずですよ。
この全集の特徴は、ほぼ作曲順に収録されているということ、1枚目から聴いて行けば自ずとメシアンの作曲技法や様式の変遷がうかがえるようになっています。ただ、いちおう彼の場合「第1期」と「第2期」の間では大きな変化があったとされていますが、実際にこの8枚を連続して聴いていく時には、そんな変化はごく些細なものに過ぎないことにも気づかされてしまいます。おおざっぱな言い方をすれば、彼が描き出した世界というものは生涯変わることはなかったのだという印象が、ここからははっきり浮かび上がってきます。敢えてその「世界」を1つだけ挙げるとすれば、あたかも「憧れ」が込められたかのように聞こえてくる和声でしょうか。それは、最初からはっきりした形で示されることもありますし、もっと複雑で混沌とした響きの中から、まるでうめくように顔を出すこともあります。それは、もしかしたら「神」の言葉をオルガンで代弁しようとした作曲家の心の内のあらわれなのかもしれません。
私の一番のお気に入りは、「栄光に輝く体」の中の4曲目、「死と生の戦い
Combat de la Mort et de la Vie」。前半に出てくるどす黒いイメージの「死」と、後半のまさに「癒し」の極地とも言うべき「生」との対比は、
20世紀のオルガンの語法が到達した最高の世界です。