おやぢの部屋2
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LPジャケット美術館
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高橋敏郎著
新潮社刊(とんぼの本)
ISBN978-4-10-602160-2


本屋さんの店頭でこの表紙を見たとき、なんとも懐かしい思いに駆られ、つい手に取ってしまいました。5万枚のレコードを所有しているという著者のコレクションの中から厳選された100枚のLPのジャケット、これは壮観です。
CD全盛の世の中、ジャケットのデザインもアーティストの写真がメインのものが多くなってしまい、これぞというインパクトを与えられるものは少なくなってきたような気がします。やはり、12インチ四方という広い陣地を与えられたからこそ、デザイナー達は腕を奮うことが出来たのでしょう。そんなデザイナーや原画を描いた画家、イラストレーターの仕事に、著者は多大の敬意を払っているように見えます。つまり、そこに関わっていた人たちを実際に名前(時には生没年も)を挙げて紹介しているのです。そのことによって、これらのジャケットは、芸術家達による「作品」としての評価が、自ずと読むものに伝わることになります。
そこで登場する人たちの中には、例えばシャガール、ミロ、クレーなどそうそうたる画家もいて、驚かされます。藤田嗣治などもいるのですからね。一世を風靡したイラストレーター、ベン・シャーンの描いたベートーヴェンの肖像などは、とても貴重なもの、あのレイモン・ペイネがフルトヴェングラーの「田園」のジャケットを飾るなどというミスマッチも、とても楽しいものです。もっとも、楽しさという点では、米COLUMBIAがチェコのSUPRAPHONを発売するときに使ったCROSSROADSというレーベルのジャケットの秀逸さには、かなうものはありません。サンディ・ホフマンという漫画家によるものが2点紹介されていますが、さまざまな仕掛けが施されたそのユーモラスなイラストは何度見ても飽きることがありません(このレーベル、音は悪かったような記憶がありますが)。
著者がここで選んでいるものは、特にオリジナルや初出のものにこだわるということはないようです。あくまでジャケットの芸術性がその基準、その結果、フルトヴェングラーのバイロイト「第9」でも、フランスEMI(つまり、VSM)による「松明ジャケット」が取り上げられています。これを見てしまうと、本家HMVのデザインは、なんとダサいことでしょうね。
ですから、著者は国内盤のジャケットにも積極的に目を向けることになります。LP時代、日本のレコード会社はその方面には手間を惜しみませんでした。例えば杉浦康平といったようなグラフィック・デザイナーによる武満徹の作品集などは、まさにその頃の音楽状況までもが脳裏によぎるほどの強いインパクトを持ったものです。勝井三雄の手になる三善晃の「レクイエム」とともに、これらのジャケットデザインは、その本体のクオリティの高さを如実に語っている証人だったのです。
逆の意味で、その時代の証であったものが、「4チャンネル」のジャケットです。今で言えば「サラウンド」になるのですが、当時は3つの方式が乱立して、互いに足を引っ張り合っていました。そんな時に、ソニーの「SQ」方式のいわばサンプルとして作られたブーレーズの「オケコン」のジャケットは、いかにして自社の方式をアピールするかという強い訴求力を持つことになりました。「4チャンネル」が消え去った今となっては、その強すぎる「力」がなんとも言えない魅力と化しています。
そんな風に感慨にふけっているうちに、思いがけないジャケットに出会いました。ホロヴィッツがカーネギーホールで行ったカムバックコンサートのライブ録音、その名も「An Historic Return」(左)は、あのP・D・Qバッハの不朽の名盤「An Hysteric Return」(右)のジャケットの、完璧なパクりではありませんか(なわけ、ね~だろう)。
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by jurassic_oyaji | 2007-11-10 20:20 | 書籍 | Comments(0)