おやぢの部屋2
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FOULDS/A World Requiem
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J.-M. Charbonnet(Sop), C. Wyn-Rogers(MS)
S. Skelton(Ten), G. Finley(Bar)
Leon Botstein/
4 Choruses
BBC Symphony Orchestra
CHANDOS/CHSA 5058(2)(hybrid SACD)



ジョン・フォウルズ(1880-1939)というイギリスの作曲家は、ごく最近まで全く忘れ去られていた存在でした。日本のアイドルみたいですね(それは「フォーリーブズ」)。それが、このところにわかに脚光を浴びています。そんな中で、彼の最も大規模な作品「世界のレクイエム」の世界初録音盤が登場しました。
この曲が完成したのは1921年のことでした。それはもちろん、その少し前、1914年から1918年までの間に行われた戦争と、深い関係を持っていたはずです。その戦争での犠牲者を悼むという意味で、この曲は1923年の「休戦記念日の夜」に、ロイヤル・アルバート・ホールという大きな会場で初演されることになるのです。その時のプログラムの表紙がブックレットに掲載されていますが、その時の演奏者は「Chorus and Orchestra of Twelve Hundred」という規模だったのだそうです(指揮は作曲家自身、オーケストラのコンサート・ミストレスは、作曲家の奥さん、モード・マッカーシーが努めました)。なんと「1,200人の合唱とオーケストラ」ですって。「1万人の第9」には負けますが、「1,000人の交響曲」であるマーラーの8番よりも大人数なのですね。そんなに多くの演奏家と、そして、もちろんあのどでかいホールを満席にする聴衆が集まるという大イベントが、その時だけではなく、さらに3回、年中行事として開催されたというのですから、すごいことです。
そんな集客力を誇った作品も、そしてその作曲家も、4回目のコンサートが終わるとともに、次第に忘れ去られていきます。そして、20071111日に、同じ会場のロイヤル・アルバート・ホールでこの曲の約80年ぶりのコンサートが開催されました。その時のライブ録音が、このSACDです。
この曲の演奏時間は、1時間半ほどで、そんなに長いものではありません。全部で20の小さな曲が集まっていますが、10曲ずつ第1部、第2部という構成です。テキストには、聖書などから奥さんのモードによって選ばれた英語の歌詞が用いられています。編成は、4人の独唱者に2つの大きな合唱団と、少年合唱、そしてオルガン付きのオーケストラという大きなもの、まず、そんなとてつもなく広いダイナミック・レンジを余すところなく再現したDSD録音の底力には、感服させられてしまいます。冒頭のオーケストラの序奏など、決して静かな音楽ではないのですが、普通のボリュームでは殆ど聞こえないほど、それはやがて訪れるトゥッティのためのレベル設定なのでしょう。
フォウルズという人は、インド音楽などの影響も受けたという、ちょっと風変わりな作風で知られていますが、この曲に限って言えば、そのようなある意味前衛的な趣味は影を潜めています。それよりも、多くの人たちにすぐ親しんでもらえるようなキャッチーなコード進行やメロディがてんこ盛りという、親しみやすさが勝ったものになっています。しっとりと死者を悼む、というよりは、お国のために亡くなった英霊を盛大に讃えましょうという、それが演奏された集会の趣旨にのっとったような明るめな曲調が目立ちます。5曲目の「Audite」などは、その最たるものでしょうか。「東の人たちよ!」といったようなバリトンのソロによる呼びかけに応えて、会場の4隅に設けられたバンダが、順次ファンファーレを奏で、最後に「全ての大陸の人たちよ!」となって会場全体が音のるつぼと化す場面などは、ベルリオーズも顔負けの迫力です。
それとは対照的に、ア・カペラの合唱だけでしみじみ歌い上げるのが13曲目「In Pace」の後半、「救われしものの聖歌Hymn of the Redeemed」です。実はこの部分は、きちんと歌える合唱団がいなかったということで、過去の4回の演奏の時にはカットされていたものなのだそうです。それが、今回の録音で初めて音になったという、これは貴重な記録でもあるのです。その部分を聴くだけでも、このアルバムの価値は十分にあります。
by jurassic_oyaji | 2008-03-21 20:01 | 合唱 | Comments(0)