おやぢの部屋2
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CHÉDEVILLE/Il Pastor Fido
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Jean-Louis Beaumadier(Picc)
Le Concert Buffardin
SKARBO/DSK 4064



かつては「ヴィヴァルディのフルートソナタ集」として、バロック音楽の中でもかなりの人気を誇った「忠実な羊飼い」も、それがニコラ・シェドヴィルという人がヴィヴァルディの名を騙って出版した「偽作」だと知られるようになってからは、いっぺんに演奏される頻度が低くなってしまいましたね。このボーマディエの2005年の新録音などは、なんだか久しぶりの録音のような気がします。まだこんな曲を演奏する人がいたんだ、みたいな。
シェドヴィルという人は、オーボエやファゴットの他に「ミュゼット」という楽器の演奏家・教師として知られていました。オーボエよりも高い音の出るリード楽器ですが、彼はこの楽器の改良にもあたっていたそうです。フルートで演奏されることの多いこの曲集も、第一義的にはミュゼットのために作られたものでした。言ってみれば、彼の最も関わりのある楽器の曲集を「ヴィヴァルディ」という名前で出版することによって、この楽器がさらに多くの人に演奏されることを目論んだのかもしれませんね。もちろん、今ではそんな楽器自体が完璧に忘れ去られています。たまに、「三丁目」などの映画に出てきたりしますが(それは「ミゼット」)。
彼が、「ヴィヴァルディらしさ」を出すために行ったことは、本物のヴィヴァルディの作品からの引用でした。今ではその「元ネタ」も明らかになっていますが、彼はヴィヴァルディに限らず、他の作曲家の曲からも「最初の4小節だけ」みたいにパクっていたのだそうです。現代では「サンプリング」といって、堂々と認められている手法ですから、まあ、時代を先取りしていたということになるのでしょうか。
その程度の作品ですから、ピッコロの名手であるボーマディエが彼の楽器で演奏したって、なんの差し支えもありません。それどころか、彼はさまざまなアイディアを繰り出して、「ヴィヴァルディの作品」と言われていて、格調高く演奏されていた頃には考えられないような生き生きとした音楽を聴かせてくれています。
まず、彼の楽器です。ジャケットに写っているのが、おそらく演奏にも使われている楽器なのでしょうが、これは頭部管が極端に短く、キーも3つぐらいしか付いていないようで、現代のものとはかなり異なった形をしています。つまり、ピッコロの「オリジナル楽器」のようなものなのでしょうね。たくさんキーの付いたベーム管とは違って、かなり音程が甘くなっているのがよく分かります。こんな小さな楽器ですから、少しの穴だけで音程を作るのはなかなか難しいことなのでしょうね。もっとも、ボーマディエという人はモダン楽器でもあんまり良い音程ではなかったような気がしますから、そんな「クセ」が増長されただけなのかもしれませんが。ただ、そんな欠点を補ってあまりある彼の華々しいテクニックは、まさにワクワクするような爽快感を与えてくれます。早い楽章での粒の揃ったパッセージ、そしてゆっくりした楽章では、センスの良い装飾が魅力的です。
そして、それを助けるのが、通奏低音の醸し出すグルーヴです。ここではチェンバロ、オルガン、チェロ、ヴィオラ・ダ・ガンバ、そしてファゴットと、多彩な陣容が曲によってさまざまのヴァリエーションの低音パートを作り出しています。その変化の妙と、中でもファゴットのもつ歯切れの良いリズムは、曲全体にとても軽やかな命を与えてくれています。
それだけでも十分楽しめるのに、ここにはさらに「打楽器」が入っていますよ。例えば「ジーグ」などの舞曲による楽章を、まさに「踊り」のノリでにぎやかに演奏してくれるのです。あるときはバスドラム、あるときはタンバリンと、それぞれのキャラクターに合わせた楽器が使われて、そこはまるで田舎の宴、そこでは「羊飼い」が角笛片手に踊りまわっていることでしょう。
by jurassic_oyaji | 2008-07-25 07:40 | フルート | Comments(0)