おやぢの部屋2
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WEINBERG/Concertos
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Claes Gunnnarsson(Vc)
Andreas Jonhäll(Fl)
Urban Claesson(Cl)
Thord Svedlund/
Gothenburg Symphony Orchestra
CHANDOS/CHSA 5064(hybrid SACD)



ミェチスワフ・ワインベルクという作曲家は、1919年にポーランドに生まれたユダヤ人です。しかし、ナチスによるポーランド侵攻を逃れて1939年には旧ソ連へ亡命、名前もモイセイ・ワインベルクと変えて、ソ連人として生きていくことになります。スターリンにより投獄されるなど、波乱の人生を送りますが、作曲家としては150曲以上の作品を残し、1996年に亡くなりました。今までは旧ソ連の国営レーベルMELODIYAにいくつかの録音があっただけで殆ど知られてはいない作曲家でしたが、没後10年の2006年あたりからこのCHANDOSレーベルで交響曲全集がリリースされ、次第に認知度が上がってきたところです。
彼の作品は、26曲の交響曲(小さなものも含まれます)を筆頭に、17曲の弦楽四重奏曲など多くの室内楽、そして7曲のオペラと、王道を行くラインナップとなっており、協奏曲の形を取った作品も数多く残しています。そんな協奏曲は、ソ連の演奏家たちとの親交の中から生まれたといいますが、このアルバムにはチェロとオーケストラのための「幻想曲」と、フルート協奏曲第1番、そして、これが世界初録音となるフルート協奏曲第2番と、クラリネット協奏曲が収録されています。
この中では最も初期の作品である「幻想曲」は、1953年に完成されました。3つの部分が休みなく続けて演奏されるという、自由な形を取っています。一度聴いたら忘れられないような、哀愁をたたえたヘブライ風のとても美しいテーマが中心になって音楽は進みます。中間部は、民族舞踊のような生き生きとした趣、そしてカデンツァのあとには元のテーマが再現されて静かに終わるという、非常に分かりやすい構成、もしかしたら涙を誘うかもしれない素直で感動的な作品です。ここでのチェロのソロが、まさに「泣き」を誘うものであったため、そんな印象はさらに募ります。
フルート協奏曲は、2曲の間には大きな年月の隔たりがある分、印象はかなり異なって聞こえます。1961年に作られた第1番は、歯切れのよい超絶技巧が前面に押し出されていて、それだけで心地よい快感を与えられるものです。しかし、1987年の第2番になると、なにかこねくり回したような作風に変わっていて、素直には入っていけない敷居の高さが見られます。それは、作曲家自身の「成長」の跡なのでしょうが、それは聴くものにとっても「成長」を強いられるものであり、ちょっと辛い気もします。もしかしたら、演奏家もそのように感じていたのでしょうか、フルート・ソロを担当しているイェテボリ交響楽団の首席奏者の方も、「1番」ではとても伸び伸びと演奏しているものが、「2番」ではなにか守りに入っているように感じられてなりません。
ワインベルクは、あのショスタコーヴィチとは作曲上のアイディアを交換し合うほどの親密なおつきあいがあったそうですが、この曲の第3楽章では、そんないかにもショスタコ風の不思議な「引用」が見られます。それはグルックの「精霊の踊り」と、バッハの「バディネリー」。バッハの方はこの楽章の主題が実は「バディネリー」の変形だという「オチ」があるので分かりますが、グルックはいったい何だったのでしょうか(そんなの、分からなくてもいんよう)。
クラリネット協奏曲も、やはり一筋縄ではいかない作風ですが、こちらはソリストの熱演とも相まって存分に楽しめました。特に、第2楽章の深いたたずまいには惹かれるものがあります。それはまさに、ショスタコの「5番」あたりの緩徐楽章と共通した深さです。
録音は、SACDならではの素晴らしいものでした。特に、弦楽器の生々しさには感動すらおぼえます。こんなよい録音で味わえるワインベルク、おそらくファンも増えることでしょう。
by jurassic_oyaji | 2008-10-09 23:21 | フルート | Comments(0)