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2017年 11月 25日 ( 1 )
MOZART/Requiem(ed. Dutron)
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Sophie Karthaüser(Sop), Marie-Claude Chappuis(Alt)
Maximillian Schmitt(ten), Johannes Weisser(Bar)
René Jacobs/
RIAS Kammerchor
Freiburger Barockorchester
HARMONIA MUNDI/HMM 902291


今までモーツァルトの多くのオペラを録音してきたルネ・ヤーコブスが、満を持して「レクイエム」の録音を行いました。この作品の場合、どんな楽譜を使うのかが気になるところですが、ここではフランスの若い作曲家ピエール=アンリ・デュトロンというヒノノニトンみたいな名前の人(それは「デュトロ」)の懇願を受けて、2016年に作られたばかりの彼の修復稿が使われています。それはヤーコブスによって2016年11月25日(ちょうど1年前!)に、パリで初演されました。それを、2017年7月にベルリンのテルデック・スタジオで録音したものが、このCDです。当然のことですが、この楽譜による世界初録音ですね。
この「デュトロン版」は、まだ出版はされていません。というか、出版する意思はないのではないでしょうか。スコアは作曲家のウェブサイトからだれでも直接ダウンロードできるようになっています。それは、彼のコメントによると「この新しいバージョンは、個人的、芸術的な興味から作ったもので、なんの報酬も得てはいない」からなのだそうです。
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そんなわけで、居ながらにして145ページに渡るスコアを入手することが出来ました。タイトルには「Requiem/Süssmayer Remade, 2016」とあります。そして、「前半はモーツァルトの自筆稿、後半はジュスマイヤーが作ったものに基づいている」、ともあります。ということは、あくまでもジュスマイヤー版をベースにして、それに少し手を加えたものなのでは、という印象は持つことでしょう。実際、代理店のインフォにも「ここでのデュトロンによる補完は(中略)ジュスマイヤーが残した版に敬意を払って行われたもので(中略)あくまでもジュスマイヤーの版を尊重しながら、彼が犯したオーケストレーション上の作法の間違いなどを修正し改善する、というところにあります。」と書かれていますからね。
これだけ読むと、それこそこのような新たな修復版の先鞭を切った「バイヤー版」(1971年)と同じようなコンセプトですね。確かに、バイヤー版ではジュスマイヤー版の尺はほとんど変わっておらず、オーケストレーションだけが変更されていました。しかし、このデュトロン版は、そんな穏やかなものではなく、ジュスマイヤーの仕事を完膚なきまでに改変してしまっていました。
一番かわいそうなのは、ジュスマイヤーが作ったとされる「Benedictus」です。これまでに作られていたどんな修復稿でも、この曲のイントロと、歌い出しがアルトのソロという部分は変えられることはなかったのに、ここではイントロはなんとも陳腐なフレーズに変わっていますし、歌い出しもソプラノとテノールのデュエットになっていますからね。それ以後の構成もガラリと変わっています。
個人的には、この「Benedictus」はジュスマイヤーの最高傑作、もしかしたらモーツァルトをしのぐほどの美しさが込められているのではないか、とさえ思っていますから、こんな風に無残に改竄されてしまったことに怒りさえ覚えます。ここには「ジュスマイヤー版に対する敬意」などというものは全く存在していません。先ほどの「Süssmayer Remade, 2016」というクレジットは、「2016年に、ジュスマイヤーに成り代わってこれからのスタンダードを作り上げた」という、不遜極まりない決意が込められてものなのだ、とは言えないでしょうか。それならそれで、「ジュスマイヤー」などという言葉は使わず、ストレートに「デュトロン版」と宣言すればいいものを。
ヤーコブスともあろう人が、なぜこんな「ヤクザ」な仕事に加担したのかは知る由もありませんが、彼がここで演奏しているものでは、さらにこのスコアから「改訂」されている部分も見受けられます。決定稿を完成させるには、演奏家とのうるわしい共同作業も欠かせませんね。その結果、これは「v3.09」ですから、アップデートされた「v3.10」も、いずれはネットで公開されることになるのでしょう。便利な世の中になったものです。

CD Artwork © Harmonia Mundi Musique S.A.S.

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by jurassic_oyaji | 2017-11-25 20:31 | 合唱 | Comments(0)