おやぢの部屋2
jurassic.exblog.jp
ブログトップ
2018年 03月 03日 ( 1 )
BACH/St John Passion
c0039487_21300355.jpg

Georg Popluts(Ev), Yorck Felix Speer(Jes)
Julia Kleiter(Sop), Gerhild Romberger(Alt)
Daniel Sans(Ten), Matthias Winckhler(Bas)
Ralf Otto/
Bachchor Mainz, Bachorchester Mainz
NAXOS/8.573817-18


バッハの「ヨハネ受難曲」には、多くの「稿」が存在しています。「稿」(英語では「version」)というのは、作曲者が自らの作品について改訂を行った際に、それがどの過程でなされたかを判別するための「目印」となるものです。多くの場合、最初に作られたものは「第1稿」もしくは「初稿」と呼ばれ、それから改訂の手が入って新しい楽譜が出来上がった都度、それらは「第2稿」、「第3稿」・・・(あるいは、改訂が行われた年を表記して「〇年稿」など)と呼ばれ、最後に作られたものは「最終稿」とか「決定稿」と呼ばれることもあります。
ここで注意しなければいけないのは、それらの「稿」は必ずしも個別の楽譜としては存在していないこともある、という点です。つまり、「第1稿」を五線紙に書き上げた後にそれを改訂しようとした時、新たにまっさらの五線紙に最初から書きはじめるのではなく、それまであった例えば「第1稿」の五線紙の上に直接書き込みをしてそれを「第2稿」とする、ということが良く行われているからです。
バッハもそんな作曲家でしたから、「ヨハネ」を何度か演奏する際には、パート譜に直接その変更点を記入して演奏に使っていました。そんなごちゃごちゃの楽譜を、後年の研究者が分析して、それぞれの書き込みがどの年の演奏の時に使われたものであるかを特定して、そこからスコアを再構築し、それぞれに「第〇稿」(あるいは「〇年稿」)という名前を付けたのです。そのような「楽譜」が、「第1稿(1724年稿)」、「第2稿(1725年稿)」、「第3稿(1732年稿/年号には諸説あり)」、「第4稿(1749年稿)」と、全部で4種類存在していることが知られています。
そして、「第3稿」と「第4稿」の間の1739年には、もう1回予定されていた演奏のために、バッハ自身が新たにそれまでのものとは細部がかなり異なっているスコアを、新たに書き起こし始めます。しかし、その演奏がキャンセルされてしまったので、それは途中まで書いたところで終わってしまいます。しかし、10年後の1749年にその先を第1稿のスコアをそのまま弟子に写譜させて、全曲のスコアを完成させます。これは「未完のスコア」と呼ばれていますが、最近では非公式ですが「第3.5稿(1739/1749年稿)」という具体的な年号が入った呼び方も提案されているようです。現物はこちらで見ることが出来ます。バッハ直筆の20ページまでと、その先では筆跡が全く違っているのがよく分かります。
この「第3.5稿」は、曲がりなりにもバッハの自筆の部分が残っているので、実際にバッハによって演奏されてはいないにもかかわらず、これが新旧のバッハ全集のベースになっていて、演奏家は長い間これから派生した楽譜だけを使い続けてきたのでした。
しかし、そんなわけで最近では実際に4回演奏されたとされているそれぞれの機会に作られ、実際に演奏されていた楽譜のことはかなり詳しいところまで分かっていて、修復不可能な「第3稿」以外は、実際に全曲が演奏され、録音もされるようになっています(こちらを参照)。
その最後のもの、バッハが亡くなる前の年に演奏された「第4稿(1749年稿)」では、これまでに4種類ほどのCDがリリースされています。その中には、鈴木雅明指揮のバッハ・コレギウム・ジャパンの演奏などもありましたね。そこに、5枚目の録音としてこの2017年に録音されたばかりのNAXOS盤が加わることになりました。
c0039487_21295719.jpg
でしょ? だって、ちゃんとジャケットに「1749 version」とあるんですからね。さらに、ブックレットの解説にも、「この録音は第4稿に基づいている」という意味のことが書いてあるのですよ。
ところが、このCDから聴こえてきたのは、紛れもない新バッハ全集、つまり「第3.5稿」なのです。もうすでに何十種類もリリースされている、ごく普通のバージョンですね。つまり、このCDではジャケットとブックレットでとんでもない間違いをさらしているということになりますね。
もちろん「第4稿」と「第3.5稿」とは全くの別物です。そもそも、第9、19、20曲では、歌詞まで異なっていますからね。それは、1749年に演奏された時に、当局からの横やりが入って歌詞を変更させられたためです。「第3.5稿」ではそのようなことはあり得ませんからね。
c0039487_21294954.jpg
これは、日本の代理店が作った「帯」原稿です。おそらく、これを聴いた担当者も、同じ間違いに気が付いたのでしょう。ただ、自社製品をまさか「欠陥品」と明言することはできませんから、赤線部のような穏やかな表現でお茶を濁したのでしょうね。残念ながら最後に「第4稿」を「第4版」と書いたのは痛恨のミスです。こういうことは正確に書かないと。いや、その前に青線のようなデタラメを書いた時点で、馬脚を現していますけどね。

CD Artwork © Naxos Rights(Europe) Ltd.

[PR]
by jurassic_oyaji | 2018-03-03 21:32 | 合唱 | Comments(0)