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2018年 04月 24日 ( 1 )
FOLKETONER
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Anne Karin Sundal-Ask
Det Norske Jentekor
2L/2L-144-SACD(hybrid SACD)


アルバムタイトルの「FOLKETONER」というのが、ちょっと曲者でした。「Folkemusikk」が「民族音楽」という意味のノルウェー語なのは分かったのですが「Toner」が分かりません。でも、おそらく英語の「Tone」ではないかということで、勝手に「民族の音」とすることにしました。
それを、日本の代理店は「人々の心の調べ」と訳しました。これは、元の言葉の直訳ではなく、それこそその「心」までも含めて意味を伝えようとした気持ちのあらわれなのでしょう。半世紀前に「I Want to Hold Your Hand」というタイトルを「抱きしめたい」と訳した精神が、この業界には時代を超えて脈々と伝えられていることがよく分かる事例です。
実際は、ここではとても素晴らしい女声合唱団によって、ノルウェーのまさに「民族音楽」から、ロマン派の作曲家によるクラシックの「作品」、あるいは中世から伝わる聖歌など、様々な曲が歌われています。その女声合唱団は、初めて耳にした「ノルウェー少女合唱団」という名前の団体です。
この合唱団の起源は、1947年に作られた「ノルウェー放送局少女合唱団」まで遡れるのだそうです。やがて合唱団は放送局からは独立した団体となり、今に至っています。その間には、多くの音楽家、芸術家がここから巣立っていき、それぞれの分野で活躍しています。そもそも、ここは音楽だけではなく芸術全般に関するプロフェッショナルなスキルを身に付けるという目的を持った教育機関としての側面もあるのだそうです。さらに、そのような啓蒙はここで学ぶ少女たちだけではなく、その演奏を聴く聴衆に対しても行われているのだとか。
この合唱団のメンバーは6歳から24歳までの年齢層で成り立っています。そして、その中にはそれぞれのスキルに応じて4つの合唱団があります。それは、初心者のための「リクルート合唱団」、もう少し高いレベルの「アスピラント合唱団」、そしてメインの合唱団、さらに、おそらくそこから選抜されたメンバーによる「スタジオ合唱団」です。このSACDで演奏しているのは、その「スタジオ合唱団」です。
いつものように、DPAのマイクを使ってDXD(24bit/352.8kHz)で録音されたこのレーベルの音は、2.8MHzDSDというしょぼいフォーマットにダウンコンヴァートされたSACDであっても(今回はBD-Aは同梱されていません)、とびっきりのインパクトを与えてくれました。バランス・エンジニア、モーテン・リンドベリが選んだ録音会場の教会の豊かな残響に囲まれて、この合唱団の瑞々しいサウンドは、まるで乾ききった砂地に水がしみ込むようにたっぷりの潤いを届けてくれていたのです。彼女たちの声は、普通は「無垢」という言葉で表現される透明性を持ちつつも、そこにはほのかな「汚れ」すらも漂っていて、それがえも言えぬ味わいを出しているのですね。サラウンドで体験するこの音響空間は、まさに至福のひと時を与えてくれます。
歌われているのはさまざまなソースをア・カペラに編曲したものですが、ノルウェーの大作曲家、エドヴァルト・グリーグが作った曲も4曲歌われています。その中から、いきなり弦楽合奏のための「2つの悲しい旋律」からの「過ぎにし春」が聴こえてきたのには驚きました。おばあちゃんの名前(それは「杉西はる」)ではありません。これは、オリジナルは「ヴィニエの詩による12の旋律」という歌曲集を編曲したものですが、それがさらに合唱に編曲されていたのでした(ここでは同じ曲集からの「ロンダーネにて」も歌われています)。
弦楽合奏バージョンには、いかにもな濃厚な表現の正直うざったい曲のような印象があったのですが、このア・カペラ・バージョンはそれとは全然異なる爽やかさと明るさを持っていました。歌詞には、「これが私にとって最後の春だ」みたいな深刻な心情が現れているようですが、少女たちにとってはそこまで踏み込まずともこの音楽の神髄は伝えられるだろうという解釈なのでしょう。そう、明るさの中に込められた哀感の方が、時として鋭く伝わることもあるのです。

SACD Artwork © Lindberg Lyd AS

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by jurassic_oyaji | 2018-04-24 23:46 | 合唱 | Comments(0)