おやぢの部屋2
jurassic.exblog.jp
ブログトップ
2018年 08月 02日 ( 1 )
UTOPIAS
c0039487_21561187.jpg





Kjell Tore Innervik(Perc)
2L/2L-141-SABD(hybrid SACD+BD-A)


ヤニス・クセナキスとモートン・フェルドマンという、ともに「現代音楽」の歴史に残る作曲家の打楽器のための作品が収録されているアルバムです。
まずは、1921年(1922年という説も)生まれのクセナキスが1975年に作った「プサッファ」です。彼の作曲技法は、「確率」や「統計」の数式を使った斬新なものでしたが、一応それは最終的には普通の楽譜に記載されています。つまり、音自体は誰が演奏しても作曲家が意図したとおりに出てくることが要求されているのです。
ただ、この作品に関しては、その楽譜は普通の五線紙ではなく、「方眼紙」が使われていました。このアルバムのジャケットにデザインされているのが、その方眼紙ですね。実際の「楽譜」は、裏ジャケットにあるこんなものです。
c0039487_21561175.jpg
一見難解なようですが、何回か見ているとその意味はすぐに分かります。縦線が時間軸、そして横線は楽器の種類で、点の部分で音を出すことが指示されているのです。使われているのがすべて打楽器ですから、この方がより正確に情報が伝わることになりますね。
ただ、その楽器はとてもたくさんあります。太鼓系、金属系など、全部で6つのグループに分けられていて、それぞれに様々な楽器が指定されています。もちろん、一度にそのすべてを演奏するわけではなく、その時に必要な楽器だけが、この方眼紙の上に書かれることになります。
そして、この曲の楽譜では演奏時間が「13分」になっています。実際、だいぶ前に聴いたこちらのCDでは13分59秒で演奏されていましたね。ところが、ほぼ同じテンポに感じられる、今回のノルウェーの打楽器奏者シェル・トーレ・インネルヴィークの演奏では、18分もかかっているのですよ。ネットでは11分台の演奏もあります。そのあたりで、クセナキスの作品が単なる音の羅列ではなく、その中にはしっかり人間の感情が反映されていることが分かります。さらに、ここで使われる打楽器は大まかな指示だけで実際は演奏家の裁量によって大きく異なってくるのでしょう。今回の演奏は、先ほどのCDと比べるとまるで別の曲のように、音色が全く違っていました。特に、真ん中以降で登場する金属片が、音色も、そして余韻も全く異なるものですから、これがかなり長いポーズが用意されている静寂の中で響き渡る時は、その長い余韻を存分に楽しむことが出来ます。なんせ、音が異様に多いことで知られるクセナキスの作品ですから、そこでこのような静寂を楽しめるのは、なかなかないことなのではないでしょうか。
そして、そんな豊穣な響きに生まれ変わったこの曲を、2通りのバージョンで聴くことが出来るというのが、録音媒体ならではの「ありえない体験」(これがアルバムタイトル「UTOPIAS」の由来)となるのです。まずはお客さんが演奏者の前にいて聴くという「二人称」バージョン。ここでは、ごく普通にマイク・アレイが楽器の前に設置されています。
そして、その次にはアレイを演奏家の頭上に設置して、まるで演奏家自身が自分の音を聴いているような「一人称」の音場になるような録音が行われています。その2種類のセッティングは、もちろん別のセッションで録音されていますから、おそらくマイクの位置によって演奏家のテンションまでが変わってくるかもしれませんね。こんな興味深い「実験」は、録音ならではのことでしょう。もちろん、それを体験するには、サラウンド用の再生装置が必要ですけどね。
もう1曲、1926年生まれのモートン・フェルドマンが1964年に作った「The King of Denmark」の楽譜は、同じ五線紙を使っていても、その升目の中に情報があります。クセナキスが「囲碁」だとすると、こちらは「将棋」ですね。
c0039487_21561128.jpg
演奏はマレットを使わず全て素手で打楽器を鳴らすという、静謐の極みです。そもそもこれは公開のコンサートで演奏されることは念頭に置いてなかった作品ですから、それが聴けること自体が「ありえない体験」となるのです。

SACD & BD-A Artwork © Lindberg Lyd AS

[PR]
by jurassic_oyaji | 2018-08-02 22:00 | 現代音楽 | Comments(0)