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2018年 08月 28日 ( 1 )
The Wind Blows/Music for Choir by Alfred Janson
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Grete Pedersen/
Norwegian Soloists' Choir
BIS/SACD-2341(hybrid SACD)


定期的にこのレーベルから新しい録音をリリースしてくれる、ペーデシェンとノルウェー・ソリスト合唱団の最新アルバムです。ここでは、1937年生まれのノルウェーの作曲家、アルフレード・ヤンソンの作品が集められていました。もともとはジャズやポピュラー音楽のバックグラウンドを持った人でしたが、ジャンルを問わず多くの作品を作っています。オーケストラのための作品も数多く作っていますが、彼の作曲活動の中で基礎となっているのは合唱音楽なのだそうです。このアルバムは、1963年から2016年までの半世紀に及ぶ彼の合唱作品を通して、彼の音楽の変遷、あるいは、その中に変わらずに存在している彼の本質的な部分を知らしめるものなのでしょう。
とは言っても、この中の「Nocturne」という1967年に作られた曲は、すでにこちらの2016年にリリースされたアルバムの中に含まれていました。それは2015年に録音されたものなのですが、その時に録音されてお蔵入りになった「Sarabande」(1995)という曲も、今回のアルバムには収録されています。おそらく、それをメインに据えて、新たに彼の作品を俯瞰できるだけのものを2017年にまとめて録音した、ということなのでしょう。この2015年のセッションは会場も違うので、他の曲と音が全然違います。
まず、最も初期の1963年に作られた「Construction」という、オリジナルは管弦楽のための「Construction and Hymn」という作品を、長く親交のあったイェテボリ室内合唱団の指揮者グンナル・エーリクソンが合唱と小アンサンブルのために直したバージョンです。まず、本編が始まる前にヤンソン自身の鍵盤ハーモニカで即興的なイントロが演奏されているのが面白いところ。彼の作品には、このようにジャズ的な自由度が設けられているものが多いようです。
そこに合唱が、「歌」ではなく(もちろん、この曲に歌詞はありません)つぶやくような口笛によって演奏を始めます。それは、まるで同じころに作られたリゲティの「Lux aeterna」のようなクラスターのポリフォニーとなって進んでいきますが、そこに楽器が加わると、ほとんど「Atmosphéres」の様相を呈し、大音響のままカットオフされます。それは、もろ60年代の「アヴァン・ギャルド」でした。不良少女じゃないですよ(それは「あばずれギャル」)。
同じようなテイストは、先ほどの「Nocturne」にも感じられます。ただ、こちらはその中にはっきりロマンティックな要素の引用がありますから、もはや「アヴァン・ギャルド」から抜け出す準備に怠りはなかったのでしょう
つまり、同じ年、1967年に作られた「Ky og vakre Madame Ky(Kyと美しいマダムKy)」では、イントロでピアノ伴奏が楽器の胴を叩いてリズムを取っているような「アヴァン・ギャルド」さを見せてはいますが、曲が始まるとそれはまるで北欧のダンスを思わせるようなサラッとしたメロディだというあたりで、作曲家はもはや「アヴァン・ギャルド」には背を向けていたのです。
1983年に作られた「Nå er det fint å leve(今は生きるには素敵な時代)」ではわざと羽目を外した歌い方でとても軽い曲に見せかけて、その歌詞はとてもアイロニーに富んだものですし、同じ年の「Lille mor klode(小さな母なる地球)」では、いかにも北欧風のリズムとメロディに乗せて、地球環境を憂えるシリアスな内容を歌っていたりします。
1995年の「Sarabande」では、単純なオスティナートの繰り返しがほとんどミニマル・ミュージックを思わせます。そして今世紀に入って、一番新しい2016年のタイトルチューン「The wind blows-where it wishes」は、ヨハネの福音書3章8節を作曲家が引用したテキストが使われていますが、それは「歌われる」ことはなく、合唱のヴォカリーズをバックに、「語られる」だけなのです。おそらく作曲家はそれを「ラップ」として使っているのでしょうが、同時に、同じものをいにしえの「シュプレッヒ・ゲザンク」だと思い込む人を、陰ながらあざ笑うというどす黒い陰謀が秘められているのです。
この作曲家には、本当に油断が出来ません。

SACD Artwork © BIS Records AB

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by jurassic_oyaji | 2018-08-28 23:02 | 合唱 | Comments(0)