おやぢの部屋2
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カテゴリ:ポップス( 114 )
Gospel Christmas
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Chris Turner(Pf), Jerry Harris(Bass), Rodrick Nightingale(Dr)
Northwest Community Gospel Chorus(by Gary Hemenway)
Charles Floyd/
Oregon Symphony
PENTATONE/PTC 5186 720(hybrid SACD)



あくまで音が売り物、基本的にリリースはSACD、もちろん全てマルチチャンネル対応でサラウンドも楽しめるアイテムというとてもうれしいポリシーを貫いているこのPENTATONEレーベルは、スタート時には本拠地のオランダでちまちまと制作を行っていた印象がありますが、最近ではヨーロッパだけではなくアメリカでの録音も行っていて、リリース数も格段に増えているようですね。
そんな、アメリカでの録音の際のプロデューサーが、グラミー賞も受賞したことのあるブラントン・アルスポーです。このサイトでは、彼が制作したサウスダコタ・コラールのアルバムを何枚かご紹介したことがありましたね。
今回の彼の手になるアルバムもやはり合唱がらみのアメリカ録音です。アーティストは「ノースウェスト・コミュニティ・ゴスペル・コーラス」。
名前の通り、この合唱団は「ゴスペル」の団体です。全員がセーラー服を着て歌います(それは「コスプレ」)。いや、彼らが来ているのは、あのおなじみのガウンですけどね。このアルバムでのメンバーは90人、それが、フル編成のオレゴン交響楽団とリズム・セクションのバックで歌っている写真がブックレットに載っていますが、それはド派手なステージ照明とも相まって、かなりのインパクトを与えてくれます。そう、これは彼らが毎年オーケストラとともに行っているクリスマスコンサートで録音されたものです。昨年はそのコンサートが20回目を迎えたために、その記念にこんなライブアルバムが作られました。
それは、オープニングからもうハイテンションの、スカッとするようなサウンドで始まっていました。オーケストラの金管セクションが派手に鳴り響く中で、リズム・セクションのタイトなビートがいやが上にも盛り上がりを誘います。このリズム、特にドラムスの人が叩き出すものはとても強烈なパルスを届けていて、これだけで音楽のテイストがきっちり決まってしまっています。
ですから、オーケストラのほうは金管以外はそれほど目立った働きはないようで、時折ストリングスがうっすらとサウンドに色付けをしている程度の関与です。
そんなバックに乗って、このコーラスはとことん熱く迫ります。もう歌うことが楽しくてしょうがないという人たちが集まっているように感じられますから、その演奏からはほかの人もとことん楽しませようという気持ちがいやというほど伝わってきます。なにか、まさに「魂」で歌っているようなすごさがありますね。
ほとんどの曲ではメンバーのソロを聴くことができますが、それもみんなとても伸びのある声で素晴らしいものばかりでした。曲自体はほぼ知らないものばかりなのですが、そんな熱い思いをきっちり伝えるこのサウンドに囲まれていると、聴いているだけで心が熱くなってきますよ。
そう、これはもちろんサラウンドで録音されているのですが、正面のステージだけではなく、それを取り囲む客席の熱気までもが、きっちり聴こえてくるのですよ。ステージと客席の全員が手拍子を打っているところなどは、まさに圧巻のサラウンドです。
1曲だけ、本当によく知っている曲がありました。それは、ヘンデルの「ハレルヤ」です。あの「メサイア」の中の有名な合唱曲ですね。まさにクリスマスならではのきらきらとしたパーカッションによるイントロに続いて聴こえてきたのは、見事にゴスペルに変身した「ハレルヤ」でした。このバージョンは、1992年にクインシー・ジョーンズのプロデュースによって制作されたもので、アレンジはマイケル・ジャクソンと「テイク・シックス」のマーヴィン・ウォレンとマーク・キブルです。そして、オーケストレーションと指揮を担当しているのが、かつてナタリー・コールのバックを務めていたチャールズ・フロイド、ここにはただの「熱気」だけではない、しっかりとしたサポートによるバックボーンがありました。

SACD Artwork © Pentatone Music B.V.

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by jurassic_oyaji | 2018-12-19 00:30 | ポップス | Comments(0)
Christmas is Here!
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Pentatonix
RCA/19075889432



街中ではイルミネーションが独特のイントネーションを奏で、各地からの初雪の便りが聞こえてくればいよいよクリスマス・シーズンの到来です。今年最初に取り上げるのは、Pentatonixのアルバムになりました。
デビューしてからコンスタントにクリスマス・アルバムを毎年リリースしてきた彼らですが、去年はメンバーチェンジのごたごたで、ちょっと「手抜き」のアルバムでお茶を濁されてしまいましたね。しかし、今年は違います。新しく加わったベースのマット・サリーとともに、さらにパワフルなアルバムを届けてくれました。
今回の聴きどころは、往年のオールディーズが多数カバーされているということでしょうか。まずは冒頭でスティービー・ワンダーが1967年にリリースした「What Christmas Means to Me」が歌われます。最初にヴォイパで鈴の音が聴こえてくるのが、いかにもクリスマスらしい演出です(実は、これはオリジナルのプラン)。ここでのベースの切れの良さは、新生Pentatonixの象徴ともいえるでしょう。いくぶん生真面目ですが、これほどのピッチの正確さは前任者にはなかったものです。
2曲目のブレンダ・リーの1958年のヒット曲「Rockin' Around the Christmas Tree」のカバーでは、そのベースが、オリジナルのイントロのコードからインスパイアされたのか、バッハの「G線上のアリア」のようなフレーズを聴かせてくれています。本体はいかにもキャッチーな歌い方。
3曲目はもっと古い、1951年のペリー・コモの「It's Beginning to Look A Lot Like Christmas」。これも、往年のビッグバンド・ジャズの雰囲気が存分に味わえるセピア色のアレンジです。ヴォイパの「ポカッ」という音がチャーミングですね。
4曲目は少し新しめのナタリー・コールの「Grown-Up Christmas List」です。ソロ・ヴォーカルにケリー・クラークソンが加わり、王道のバラードを聴かせます。
そして、5曲目に場面転換のような感じで、あの「グリーンスリーブス」がまるで聖歌のようなホモフォニック、ヴォイパなしの敬虔なアレンジで歌われます。
それがたった58秒で終わってしまうと、次はいきなり新しい曲が待っていました。アメリカのオルタナ・バンド、ザ・ネイバーフッドの2010年の「Sweater Weather」という、全然知らない曲です。ちょっと切れがありすぎの、このアルバムの中では異質なテイストです。
7曲目では、1998年のミュージカル・アニメ「The Prince of Egypt」のエンディング・テーマとして使われた「When You Believe」が、ゲスト・ヴォーカルにマレン・モリスを迎えてオリエンタルに迫ります。
そして、8曲目が、チャイコフスキーの「くるみ割り人形」の「花のワルツ」です。公開中の映画「くるみ割り人形と秘密の王国」にあやかってのことでしょうね。というか、以前のクリスマス・アルバムでは「金平糖の踊り」がカバーされていましたから、その流れでしょうか。なんせ、こちらも公開中の映画の中のクイーンの「Bohemian Rhapsody」を、ア・カペラで全曲完コピしてしまった彼らですから、そのクオリティのアレンジを期待していたのですが、いともあっさりしたワルツ本体だけのカバーだったのは、ちょっとがっかりでしたね。
9曲目が、アルバムのリード曲となっている、あまりに有名な「Here Comes Santa Claus(サンタクロースがやってくる)」という1947年のジーン・オートリーの曲のカバーです。これは、ラジオなどでも流れていましたね。
そして、10曲目に現れたのが、なんとティム・バートンの1993年のクレイ・アニメ「The Nightmare Before Christmas」の中で歌われていた「Making Christmas」です。「幻想交響曲」にも登場するグレゴリオ聖歌の「Dies irae」のテーマを使った不気味な曲でしたね。ここでは笑い声なども交えて、やはり不気味に迫ります。
10曲目にフィエス・ヒルの2000年の「Where Are You, Christmas?」のカバーを経て、最後はおなじみ「Jingle Bells」が、フル・オーケストラをバックにぶっ飛んだアレンジ(バーンスタインの「アメリカ」のようなヘミオラのリズム)で締めくくられます。このアレンジは、バーブラ・ストレイザンドのバージョンが参考にされているのだそうです。

CD Artwork © RCA Records

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by jurassic_oyaji | 2018-12-11 08:19 | ポップス | Comments(0)
A Night at the Opera
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Queen
デアゴスティーニ・ジャパン刊
ISBN978-4-8135-2245-4



1970年代から1980年代にかけて多くのヒット曲を放ち、今でもその活動を続けているイギリスのロック・バンド「クイーン」の初代ヴォーカリスト、フレディ・マーキュリーの生涯を素材にした映画「ボヘミアン・ラプソディ」は、世界中で記録的な興業成績を上げていますね。当然のことながら、その中では多くのライブシーンが登場します。もっとも、フレディはゲイでしたから、ちょっと・・・(それは「ラブシーン」)。
この映画は普通のスクリーンだけではなくIMAXでも上映されていますが、そこで見るとこのシーンではまさに原寸大のライブが視覚的にも聴覚的にも体験できるのではないでしょうか。さらには「応援上映」という上映形態も採用されていて、まさにライブさながらに拍手をしたり立ち上がったり、一緒に歌ったりすることが出来るのだそうです。これだったら、日々の鬱憤を晴らすには最適でしょうね。
そんなヒットを予告していたかのように、まさにこのタイミングでデアゴスティーニが、前回のビートルズに続いてそのクイーンのアルバム全25枚をLPで発売することになったそうです。
その第1弾が、映画でもしっかり取り上げられていた1975年の彼らの4作目のアルバム「A Night at the Opera」です。これはすでにUNIVERSALからもLPは出ていますが、価格は4000円以上、それがデアゴスティーニでは税込1980円です。
クイーンのアルバムは、一時SACDでリリースされたり(今では廃盤になっています)、さらにはBD-Aでサラウンド・バージョンまで出ていたというのですから、その音の良さには定評があります。それらの元になったのは、2011年にボブ・ラドウィックによって行われたディジタル・リマスター音源のようですね。この24bit/96kHzのハイレゾ音源も入手できます。
そして、今回のデアゴスティーニのLPでも、この音源が使われています。ですから、今回のLPの音を確かめるために、まずは代表曲「Bohemian Rhapsody」のハイレゾ音源を購入して、比較してみました。
そのハイレゾの音は、確かにとてもクリアなものでした。ただ、あまりにクリアすぎて、ロックならではの重量感があまり伝わってきません。それと、フレディが弾いているピアノ(ベヒシュタインなんですね)の音が、なんともクールな響きなのが気になります。一方のLPは、前回のビートルズの「Abbey Road」同様、多少サーフェス・ノイズが大きめなのが気になります。ただ、ピアノの音はとても暖かみがありますし、何よりもフレディのヴォーカルがとても表情豊かに聴こえます。ブライアンのギターがギンギン鳴り響く時も、適度なノイズ感が乗っていてよりリアリティが増しています。そして、この曲、いや、アルバム全体で頻繁に現れる多重録音のコーラスが、LPではとてもふくらみが感じられます。
この曲をLPで聴いていて、バラードの2番の歌詞の途中「Goodbye everybody」と「I've got to go」の間で、明らかな歪みが聴こえたので、カッティングのミスかな、と思ってハイレゾの同じ個所(2:10)を聴いてみたら、同じように歪んでいたので、それはマスターテープそのもののノイズであることが分かりました。ですから、サーフェス・ノイズさえ気にしなければ、LPの音の方がより楽しめます。
実は、このアルバムを全曲聴いたのは今回が初めてのことでした。今までは、クイーンと言えばフレディの曲というイメージがあったのですが、他のメンバーの曲もとても素晴らしいことが分かりました。ブライアンもやはりサウンド的な冒険も幅広く行っていて、「Bohemian Rhapsody」よりさらに長大な「The Prophet's Song」では様々な実験的な試みが聴かれます。それを、あくまでギターなどの楽器で作り出していたのですね(わざわざ「No Synthesisers!」というクレジットが入っています)。
ベースのジョンが作った「You're My Best Friend」も、とてもチャーミングですね。竹内まりやの1992年の作品「Forever Friends」のイントロが、この曲のイントロのエレピのフレーズに酷似しているのは、単なる偶然でしょうか。

Book Artwork © K.K.DeAgostini Japan

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by jurassic_oyaji | 2018-11-29 19:23 | ポップス | Comments(0)
BIGINNING
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竹内まりや
ARIOLA/BVCL 940


竹内まりやは、今年が「デビュー40周年」だと言われてまりや。ポップス界では「商品」としてのレコード(今ではCD)が発売されることが「デビュー」とみなされていますから、彼女は1978年に初めてのレコードをリリースした、ということになりますね。
彼女のデビューは「RCA」というレーベルからでした(今ではSONYに買収され、ARIOLAという名前になっています)。しかし、ここから5枚のアルバムをリリースした後、1982年に彼女は結婚のために引退します。その後、公式のベストアルバムが1枚RCAからリースされました。しかし、1984年に再デビューを果たした時には、夫の山下達郎が所属している、WARNERの中の「MOON」というレーベルに変わっていました。達郎同様、RCAから移籍していたのですね。
業界の慣例でそういう時には音源の権利はアーティストではなく所属レーベルのものになるので、再リリースやコンピレーションなどを出す時には、アーティストの意向を無視して制作を行えることになります。彼女の場合も、レーベル独自で作られたベストアルバムが2枚ほど出ていたはずです。
もちろん、リマスタリングなども行うことはできません。ただ、MOONで今から10年前にリリースされた「Expressions」というベストアルバムには、そんな垣根も超えて何曲かRCA時代の録音がリマスタリングを施されて収録されています。
そして、今回はさらにその完成形として、デビュー40周年にちなんでRCA時代のすべてのオリジナルアルバムのリマスタリングが行われることになりました。これで、晴れて彼女のすべてのアルバムが現代に通用する音で楽しめることになったのです。その第1弾が、このデビューアルバムです。
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実は、この時代のアルバムとしては、公式ベストの「Viva Mariya!!」のCDしか持っていませんでした。驚いたことに、初めて手にしたデビューアルバムには、その「Viva Mariya!!」の中の曲は1曲も入っていませんでした。いや、正確には「同じ曲」は1曲だけはあるのですが、それはアレンジが全然変わっていました。逆に、知らない曲がたくさん聴けるのはとても新鮮な気持ちになれますけどね。
このアルバムは、デビューにもかかわらずアメリカのLAで録音されたものがかなり入っています。当時の彼女は「いちアイドル」に過ぎなかったはずですから、これは破格の待遇だったのでしょう。確かに、リー・リトナーとかトム・スコットとか、ものすごい人たちが参加しているのは壮観ですが、アル・キャップスという人のアレンジが、なんか平凡であまり面白くないんですよね。それよりは、日本人の若手が手がけた曲の方が、数段新鮮なサウンドが聴けるような気がします。たとえば、「センチメンタル・シティ・ロマンス」という、今でも彼女のバックを務めることもあるバンドのリーダー告井延隆などは、「ジャスト・フレンド」とか「サンタモニカ・ハイウェイ」とか、曲も尖がってますしアレンジも素敵です。
まりあ自身も初めて自作を録音しています。「すてきなヒットソング」というその曲は、まるでその数年前に大ヒットしたカーペンターズの「Yesterday Once More」を思わせるような曲ですね。冒頭にラジオの音のようなローファイのコーラスが入っていますが、達郎がこの曲をラジオで流した時にこの部分をカットしたのはなぜでしょう。
ボーナストラックが4曲入っていて、その中に先ほどのベストアルバムに入っていた唯一の曲「戻っておいで・私の時間」の別バージョンがありました。これは、ベストを出す際にディレクターの宮田茂樹さんという方の裁量で録音された服部克久アレンジのオーケストラ・バージョン。ほんの3~4年で彼女の声が劇的に変わっていることがよく分かります。
このテイクが、他のボーナスと同じ1981年のライブ録音だというクレジットは、何かの間違いでしょう。というか、せっかく至れり尽くせりのライナーノーツを載せているのに、このライブのパーソネルが記されていないのは片手落ち。

CD Artwork © Sony Labels Inc.

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by jurassic_oyaji | 2018-11-22 20:51 | ポップス | Comments(0)
DEBUSSY...et le jazz/Preludes for a quartet
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Jacky Terrason, Jean-Philippe Collard-Neven(Pf)
Vincent Perani(Acc), Franck Tortiller(Vib)
Jean- Louis Rassinfosse(Cb)
Quatuor Debussy
HARMONIA MUNDI/HMM 902308


今年は、ドビュッシーが亡くなって丸100年目なのだそうです。「101回忌」ですね。ということで、あちこちでドビュッシー関連のイベントやコンサート、さらにはCDのリリースがあるようですが、なんだか「バーンスタイン生誕100年」ほどは盛り上がっていないと思えるのは、気のせいでしょうか。
おフランスのレーベル、HARMONIA MUNDIからも、自国の作曲家ということでこんなアール・デコ風のジャケットで統一された新録音のアルバムが何枚かリリースされています。そんな中で、「ドビュッシーとジャズ」というタイトルのちょっと毛色の変わったものを1枚。
ここでのメインのアーティストは、その名もドビュッシー弦楽四重奏団という、1990年に創設されたアンサンブルです。このサイトでも、以前こちらのモーツァルトの「レクイエム」のリヒテンタール版で聴いたことがありました。それは2008年の録音なのですが、今回そのちょうど10年後にこのアルバムを作った時には、メンバー4人のうちの2人までが別の人になっていました。それはセカンド・ヴァイオリンとチェロの人なのですが、そのチェロの前任者、アラン・ブルニエという人は2005年に加入していますから、今の人は少なくとも3人目のメンバーとなります。弦楽四重奏団というとメンバーは殆ど変らないという勝手なイメージがありますが、ここはそうではないようですね。
そんな、古いメンバーの名前を持ち出したのは、このアルバムではドビュッシーのピアノ曲「前奏曲集」の中から有名な曲を弦楽四重奏をベースにした編曲で演奏しているのですが、その編曲者としてこの方の名前があったものですから。
つまり、タイトルでは「ジャズ」と謳ってはいるものの、全10曲のうちの半分の5曲はジャズ的な要素が全く見られない、原曲を忠実に弦楽四重奏用に編曲したものなのです。それを行っている人のクレジットとして、現在のメンバーとブルニエの名前が挙げられているのですね。ということは、その楽譜は彼が在籍していたころに作られたものなのでしょうから、ここで演奏されているその5曲は、別に今回のために特別に作られたものではなく、彼らのレパートリーとして普通に演奏されてきているものだったのでしょうね。確かに、サブタイトルは「四重奏のための前奏曲集」でした。
ですから、これはあくまでクラシック・ファンのために作られたもの、まずはオリジナルを聴いてもらった後に、ジャズ・ミュージシャンが加わってその対比を味わってもらう、というようなコンセプトなのでしょう。
例えば、ヴィブラフォンのフランク・トルティエが加わった「交代する三度」(第2巻11曲目)などでは、構成はほとんど変わらない中でのトルティエのアドリブ・ソロが楽しめます。
ただ、ピアニストのジャン=フィリップ・コラール=ネヴェン(あのジャン=フィリップ・コラールとは別人)とベーシストのジャン=ルイ・ラシンフォッセが加わった「沈める寺」(第1巻10曲目)は、ドビュッシー弦楽四重奏団のヴァイオリン奏者がいかにもな型通りのソロを聴かせたりして、冗長な印象は免れません。
ですから、この中で心から楽しめたのは、アコーディオンのヴァンサン・ペラニが加わって、「ジャズ」とはちょっと違う不思議なサウンドを醸し出していた「亜麻色の髪の乙女」(第1巻8曲目)と「風変わりなラヴィーヌ将軍」(第2巻6曲目)のメドレーと、ジャッキー・テラソンのピアノが加わったこの中では最長の演奏時間の「Bussi's blues」という粋なタイトルのピースです。もちろん、「Bussi」というのはお侍さんではなく(それは「武士」)ドビュッシーを親しみを込めて呼んだ名前なのでしょうね。
そのテラソンだけは録音も別のスタジオで、ピアノの音が全然別物でした。もしかしたらプリペアされていたのかもしれません。編曲は、ドビュッシーのみならず、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」の断片まで現れるというぶっ飛んだものです。

CD Artwork © harmonia mundi musique s.a.s.

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by jurassic_oyaji | 2018-10-06 20:16 | ポップス | Comments(0)
BITCHES BREW
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Miles Davis(Tp), Wayn Shorter(Sop Sax), Bennie Maupin(B Cl)
Joe Zawinul, Chick Corea, Larry Young(E Pf)
Johon McLaughlin(Guit), Dave Holland(Bas), Harvey Brooks(E Bas)
Lenny White, Jack DeJonette(Dr), Don Alias, Jumma Santos(Perc)
SONY/SICJ 10008-9(hybrid SACD)


1970年代に登場した「4チャンネル・ステレオ」は、商業的には全くの失敗作でした。そのテクノロジー自体は間違いなくそれまでの「2チャンネル・ステレオ」を超えるものだったのですが、いかんせん当時音楽再生ソフトの主流だったアナログ・レコードでは、技術的にそれを100パーセント再生することは不可能でした。それぞれのメーカーが開発競争にあけくれた結果、世の中には何種類もの互換性をもたない方式が乱立することになってしまったのです。
その結果、消費者にはそっぽを向かれ、「4チャンネル・ステレオ」はこの世から消えてしまったのです。
それから四半世紀ほど経って、音楽ソフトはアナログ・レコードからCDの時代になり、さらにCDの進化形として、SACD(Super Audio CD)がデビューします。SACDはCDを上回る解像度を持つハイレゾ音源ですし、その中にはマルチチャネルのサラウンド音源を収録することも出来たのです。もちろん、それはかつての4チャンネルとは別物の、デジタル技術を駆使して独立した複数の音声信号を全く劣化させることなく再生できる優れものでした。
ですから、かつて「4チャンネル」で制作されたにもかかわらず、満足のいく形では市場に出ることのなかった音源は、SACDだったらそのまま再生することが出来るのです。
そのことに最初に気が付き、商品化を行ったのが、2002年に創設されたPENTATONEというオランダのクラシック専門のレーベルでした。ここでは、かつて製作された4チャンネルの音源をデジタル・リマスターして数多くの演奏をSACDのサラウンドとしてリリースしてきています。
ポップスの世界では、SACDが誕生してから20年近く経った今年、かつては「SQ」という方式で、おそらくどこのレーベルより積極的に4チャンネルの商品展開を行っていたSONYが、初めてオリジナルの4チャンネル音源であることを大々的に誇示したSACDをリリースしました。それが、このマイルス・デイヴィスの「ビッチェズ・ブリュー」です。笑顔がかわいいですね(それは「スマイル」)。録音されたのは1969年ですが、1972年の日本盤のアートワークが、そのまま復刻されています。とはいっても、サイズはLPの12インチではなく、シングル盤の7インチの大きさのミニチュアですけどね。SACDは、7インチ径のディスクに固定されて、中袋に収納されています。
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ですから、当時のLPに同梱されていた、この「SQ4チャンネル」の説明や、関連商品の案内などが載っているチラシまでも小さくなって復刻されていました。もしかしたら、この貴重な資料が今回のパッケージでは最も価値があるものなのではないでしょうか。

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そこには、まず「他の4チャンネルがかかえていた問題をすべて解決」とあります。こんな排他的な態度が、結局は普及の妨げになっていたのでしょうね。さらに、「SQステレオは4つのスピーカーを使い、演奏家やシンガーがあなたのまわりを自由自在に動く様子をそのまま再現します」ですって。こんな、音楽の本質から外れた低次元なところで勝負をしようとしていたのでは、そっぽを向かれるのは当たり前です。
それこそ「世界初復活」されたこのサラウンド・ミックスは、まさに衝撃的なものでした。このアルバムでマイルスがとったバンドの編成は、ホーン3本、ピアノ3台、ベース2本、ドラムス2セット、パーカッション2人、それにギターという大規模なものですが、それぞれがくっきり360度の中に定位していて、アンサンブルの中で何をやっているかが手に取るようにわかるのですね。チック・コリアもジョー・ザヴィヌルも、ジョン・マクラフリンも、それぞれに好き勝手なことをやりつつある種の混沌が形成されている中に、いきなりマイルスのトランペットが、正面センターに定位していたところから発せられ、それが後の右と後の左から時間差をおいて聴こえてくるのです。それはまるで「天からの声」のように感じられます。

SACD Artwork © Sony Music Entertainment

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by jurassic_oyaji | 2018-08-23 20:50 | ポップス | Comments(0)
The Beach Boys with the Royal Philharmonic Orchestra
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The Beach Boys
Sally Hrebert, Steve Sidwell/
The Royal Philharmonic Orchestra
CAPTOL/00602567540960


以前ご紹介したロイ・オービソンと同じ企画、昔のアーティストの音源にロイヤル・フィルの演奏をオーバーダビングしたという「ウィズ・ザ・ロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラ」シリーズの最新盤は、「ザ・ビーチ・ボーイズ」といういやらしい名前の(それは「ビーチク・ボーイズ」)グループです。プレスリーやオービソンの時はSONYからリリースされていたのに、今回はUMGからのリリースです。もちろん、プロデューサーは同じですから、ディストリビューションは、アーティストのオリジナルのレーベルから、という契約なのでしょう。
初期のビーチ・ボーイズはアメリカのCAPITOLのアーティストでしたから、EMIの傘下、それが、もはやEMIはなくなってしまいましたから、その買収元のUMG(ユニバーサル・ミュージック・グループ)から、ということなのでしょう。クラシックばかり買っていると、EMIはWARNERだとつい思いたくなってしまいますが、それはほんの一部分で、大部分のアイテムはUMGの方に行っていたのですね。
オービソンの場合は、基本的にヴォーカルのトラックだけを残して、あとはオーケストラの新しい録音で伴奏を入れて曲を完成させるという方式をとっていましたが、ビーチ・ボーイズの場合はそもそも「バンド」としてのサウンドが確立されている曲ですから、ここではオリジナルのトラックがほとんどそのまま使われているようです。ですから、今回のオーケストラの役目は、軽くバックにストリングスを加える、といった程度のものなのでしょう。ただ、それではせっかくのフル・オーケストラを使った意味がないと思ったのでしょうか、それぞれの曲の前にオーケストラだけで新たに作られたイントロが挿入されています。
まあ、個人的には、このバンドにはそれほどの思い入れはないので、これもありかな、という感じですね。それよりも、おそらくマルチ・トラックのテープから新たにリミックスを行っているのでしょうから、バンドやコーラスの音のクオリティ自体が格段に向上しているのがうれしいですね。これは、ビートルズのアルバムでリミックスを行った結果、音が劇的に変わったことと同じ理由によるものなのでしょう。
そんな音の違いを具体的に比べてみたくて、オリジナルと比較しながら聴いてみたのが、彼らのある意味代表作「Good Vibrations」です。これは、それまでのノーテンキなサーフィン・ホットロッドのスタイルから一変して、作品としての深さを追求し始めたものとして語られることの多い曲ですが、確かにここでのアレンジにはかなりぶっ飛んだものが感じられます。一番驚くのは、あの「テルミン」にとてもよく似た音が随所で聴かれることです。
しかし、これは厳密には「テルミン」とは異なる楽器であることが、今回のアルバムのクレジットで分かりました。そこでは「Electro-Theremin: Paul Tanner」とあったのです。ポール・タナーという人は、元々はグレン・ミラー楽団でも演奏していたトロンボーン奏者でしたが、テルミンの音に魅せられて、それよりももっと演奏が簡単な楽器「エレクトロ・テルミン」を考案したのです。これはヴォリュームつまみでダイナミックス、そしてスライド・バーでピッチを操作して、テルミンそっくりの音を出すという楽器です。
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(エレクトロ・テルミンを演奏するポール・タナー)

この楽器は彼が作らせた1台しか存在していなかったのですが、その音がこの「Good Vibrations」の中での彼自身の演奏によって聴くことが出来るのですね。
オリジナルの録音には、そんな楽器の他にフルート、クラリネット、ピッコロやチェロが加わっています。そのチェロはオリジナルでもかなり目立つのですが、ここではおそらくRPOによってさらに増幅されているのでしょう。そして、面白いのが、フルート。オリジナルでは伴奏のハーモニーに徹していてほとんど聴こえないのですが、ここでは明瞭に聴こえてくるスケールのソロが加えられています。そんなところを探していると、とても楽しめますよ。

CD Artwork © UMG Recordings, Inc.

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by jurassic_oyaji | 2018-08-09 21:24 | ポップス | Comments(0)
Quiet Winter Night
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9 Vocalists
Hoff Ensemble
2L/KKC 10009(2L-87SACD/hybrid SACD)


「静かな冬の夜」ですって。まさに、真冬に暖炉のそばで聴くようなアルバムですね。でも、これはリリースされたばかりの新譜なものですから、それをこんなくそ暑い「雷でやかましい夏の夜」に聴くことになってしまいました。
そもそもこのアイテムは日本国内だけでの商品です。もともと2Lからは2012年にリリースされていたのですが、それを日本の代理店(キングインターナショナル)は国内販売のルートには乗せなかったようで、いまごろになってわざわざ国内盤仕様でリリースされていました。
最初に2Lが出したのはBD-AとLPだけでした。それが、今回はハイブリッドSACDになっていました。なんでも、このLPを入手していたさるオーディオ評論家の方が、えらくその録音を気に入っていて、ぜひともSACDで販売してほしいと代理店に圧力をかけたそうなのですね。さらにオーディオ指向ということで、CDレイヤーは今話題の「MQA-CD」になっています。これは、なんでもそれなりの機器を使うと、CDでハイレゾ音源を聴くことが出来るというものなのだそうです。まあ、これが普及するよりも、CDそのものがなくなってしまう方が早いような気がしますが。
このアルバムは、先日こちらでご紹介したノルウェーのジャズ・ピアニスト、ヤン・グンナル・ホフが、2011年に、同じ教会で録音していたものです。写真を見るとその頃はまだ「5.1サラウンド」でしたから、アレイも最近の「7.1.4」の二段重ねのものに比べるとシンプルな形でしたね。マイクのポジションは前と同じ、向かい合ったパーカッションとピアノの間です。
ここでのアンサンブルは、ホフのピアノを中心にしたピアノ、ベース、パーカッションというトリオが基本形になっていて、そこにトランペット、ギター、さらにはニッケルハルパとハリングフェレといった民族楽器も加わります。さらに、ヴォーカリストも全部で9人の名前がクレジットされています。
演奏されている曲はホフのオリジナルではなく、1999年ごろから始まったノルウェーの「Jul i Blåfjell(ブローフィアルのクリスマス?)」というテレビ・シリーズのためにゲイル・ボーレンとベント・オーセルードという人たちが作った音楽です。それはもう、鄙びた雪深い山村でのクリスマスの情景が目に浮かんでくるような、伝承曲のテイストを多分に取り込んだ優しい音楽ばかりです。それを、フォーク・シンガーのようなだみ声の人など、クラシックとは全く縁のないヴォーカリストたちがしっとりと歌い上げています。
ホフはアレンジを担当。トランペットやギターはあくまでまろやかな音色でサポートしています。ギターは、エフェクターでまるでオルガンのような持続音まで出していますね。
ヴォーカルは同時録音ではなく、まずバンドだけで演奏して、後日楽器がなくなった同じ会場でヴォーカリストたちがバンドに使ったのと同じマイクの前で歌って、それをオーバーダビングしているようですね。ボーナストラックで、「インストゥルメンタル・バージョン」というのが入っていますが、それはその前に歌っていた同じ曲の「ヴォーカル・バージョン」のカラオケでしたから。
もちろん、サラウンドで聴けば、このヴォーカルはフロントの真ん中にしっかり定位して、とても豊かな残響が取り込まれています。ピアノの左右にギターとベースが位置していますし、パーカッションはリアからサイドに広がって、パッションを放っています。
ただ、日本の代理店が用意したライナーノーツは、どうしようもなく愚かしいものでした。そもそも、1曲目のメンバーでギタリストの名前が抜けています。そして、件のオーディオ評論家の書いた文章の貧しいこと。
もっと言えば、真にオーディオを売り物にしたいのならば、SACDではなくBD-Aでリリースすべきでした。そうすれば、クリスマスのシーズンには、もう一度しっとりと聴いてみたい素敵な演奏と録音だな、と心から思えていたことでしょう。

SACD Artwork © Lindberg Lyd AS

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by jurassic_oyaji | 2018-06-30 21:16 | ポップス | Comments(0)
Hans Zimmer Live in Prague
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EAGLE ROCK/EVB 335709(BD)


どうしても「ハンス・ツィンマー」と呼びたくなってしまいますが、一応アメリカ式に「ハンス・ジマー」と呼ぶのが慣例になっているので、それに従いましょう。そんな名前でも分かる通り、生まれたのはドイツ、その後ロンドンに移住してさらにアメリカに渡り、今では世界的な映画音楽の作曲家になっている人ですね。
彼の作る音楽は、とても骨太でダイナミックなものから、繊細なものまでかなり幅広いような印象がありました。その中で、生のオーケストラと電子音(シンセサイザー)との絶妙なバランスによる独特なサウンドは、それまでの映画音楽のグレードをワンランク高めたものなのではないでしょうか。
そんなジマーが、2016年にプラハで行ったコンサートの模様が、2017年にBDなどでリリースされていました。
会場は、プラハのO2アリーナという、収容人員18,000人の屋内競技場です。そこを埋め尽くした聴衆の前で、ジマーはオープニングから度肝を抜いてくれました。まずはジマーが一人で現れて「Driving Miss Daisy」のテーマをピアノで弾き始めます。そのピアノも普通のアップライトではなく、もう少し小振りのスピネットタイプのおもちゃみたいな楽器ですから、なんかジマーのサウンドとはミスマッチ。そこに、クラリネット奏者が登場して、デュエットになります。そのクラリネットがすごく上手、あとで調べたらリチャード・ハーヴェイという、やはり映画音楽などを作っている作曲家でした。
さらに、セクシーなボンデージ・ファッションのヴァイオリンが2人と、スケルトン・チェロ(ヤマハ)が一人加わってひとくさりアンサンブルが披露されますが、少しリズム感がタイトになってきたな、と思った瞬間、後ろのカーテンが上がってそこに並んだドラムスとパーカッションがいきなり現れました。
曲は「Sherlock Holmes」に変わり、ジマーはなんとバンジョーを弾きだしましたよ。それが一旦暗転でブレイク、ベースのソロで「Madagascar」のリフが始まり、ジマーは燕尾服を脱いでシャツ姿になり、ピアノに向かいます。そして、そのリフが盛り上がってきた瞬間、さらに後ろのカーテンが上がって、ストリングスとブラス、そしてコーラスが現れました。これには客席も驚いて、スタンディング・オベーションですよ。このメンバーはチェコ・ナショナル交響楽団と合唱団ですって。
それからは、聴いたことのあるジマーの曲たちのオンパレード、オーケストラを駆使した重厚なサウンドから、ほとんどEDMといった感じのテクノ・サウンドまで、幅広いジャンルを網羅したジマーの世界が広がります。
演出も、照明がとても多彩で目がくらむほど。そして、最大の魅力がそのサラウンドのミックスです。いまや、映画のサウンドトラックはサラウンドが当たり前になり、単なるオーケストレーションではなく、しっかり音場まで設計されたアレンジが行われています。時には、それが的確な表現となって、映画全体のコンセプトを伝える大きな要素ともなりえています。そんな「思想」までが、このBDのサラウンド・ミックスでは見事に反映されているのです。
具体的には、オーケストラと合唱はリアに定位、フロントにバンドが広がるという、まるでステージのど真ん中にいるような定位になっています。ただ、ドラムスやパーカッションはシーンに応じて定位が変わり、前からも後ろからも迫ってきます。
スケルトン・チェロは、常にフロントでソリスティックな演奏を繰り広げています。この人は中国系のティナ・グオというチェリストで、クラシックのチェロや、二胡までも演奏します。なんでも、五嶋みどりとトリオを協演したこともあるのだとか。ただ、何カ所か、間違いなくソロを弾いているのに、音が全然聴こえないところがありました。これは音響のミスなのでしょう。
「動く」ジマーを見たのはこれが初めて、かなり老けた外観はちょっと意外でした。でも、このライブのサウンドには圧倒されました(あっとおどろくことばかり)。

BD Artwork © Eagle Rock Limited

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by jurassic_oyaji | 2018-06-21 20:17 | ポップス | Comments(0)
POLARITY
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Jan Gunnar Hoff(Pf)
Anders Jormin(Bas)
Audun Kleive(Dr)
2L/2L-145-SABD(BD-A, hybrid SACD)


この、超弩級の録音を誇る2Lレーベルは、もっぱら合唱曲や器楽曲といったクラシックのレパートリーで制作を行っていますが、ほんの少しジャズのアルバムもリリースしています。それは、自国ノルウェーのジャズ・ピアニスト、ヤン・グンナル・ホフのアルバムです。これまでに、4枚ほどのアルバムが出ています。
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これが、録音会場の写真。今回は、ホフにとっては初めてとなるトリオの編成でのセッションです。ベースはアンデシュ・ヨルミン、ドラムスはアウドゥン・クライヴェ、いずれも北欧圏では最高と言われているミュージシャンだそうです。そして、ホフはここではピアノの他に、チャーチ・オルガンとシンセサイザーも演奏しています。おそらくこれはオーバーダビングで重ねているのでしょう。彼の右手にあるのがシンセサイザー。これは往年の名器、「プロフェット6」です。6声のアナログ・ポリフォニック・シンセですが、この前の5声の機種「プロフェット5」は、あのYMOも使っていて一世を風靡しましたね。もう1台、左手にあるオルガンはドローバーが付いているのでハモンドっぽいのですが、こんな一段鍵盤の機種はないはずなので、別のメーカーの製品でしょう。
それと、この教会でのセッションでは、楽器や録音機材以外にいろんなものが見えますね。ドラムスの後ろには、無数の座布団が敷かれていますし、この3人の間にはなんと多量の薪が撒き散らされていますよ。これは、なにか音響的な意味があるのでしょうね。特に木材は良い影響を与えるはずです。
もちろん、このレーベルですからこれはハイ・クオリティのサラウンド録音です。そのためのメイン・アレイがさっきの薪のそばにありますから、再生される時はその位置での音場が感じられるはずです。たしかに、正面の左寄りにピアノ、右寄りにベース、そして後ろからはドラムスが定位しています。
この3人が奏でる楽器たちの音はあくまでクリアでナチュラルでした。ピアノは刺激的なタッチは全くなく、暖かいハーモニーが柔らかく漂っています。ベースもなんというリアルな聴こえ方なのでしょう、時折登場するアルコによるフラジオレットには、この世のものとは思えないほどの妖艶さが漂っています。そして、ドラムスの驚異的なテクニック。基本、使っているのはノーマルなドラムセットなのですが、そこから奏でられる様々なテクスチャーは、まるで魔法のように全体の音色を操作しています。そう、このドラムは「歌って」いるのですよ。
ここで演奏されている曲は、ホフのオリジナルが12曲、それぞれに英単語一つのシンプルなタイトルが付いています。曲調はバラードあり、アップテンポあり、さらにはもろインプロヴィゼーションというハードなものありという多彩さですが、いずれもキャッチーなテーマが使われているのでとても親しみがわくものばかりです。ホフという人は、稀代のメロディ・メーカーなのではないでしょうか。
中でも、なにかとても懐かしい思いに誘われる北欧感のようなものが漂っている曲が、印象に残っています。最初に演奏されている「Innocence」あたりが、そんなテイストの曲。まるであの「Frozen」のテーマ曲のようなイントロで始まるとてもかわいい曲です。最後の「Home」という曲も魅力的ですね。まるでコラールのようなテーマが何度も繰り返され、その間に全く別のテイストのフレーズが入りますが、最後にはそのコラールに戻ってくるあたりが「Home」なのでしょうか。「Sacred」という曲では、ピアノは全く登場せず、オルガンだけになっていました。これも意味深。
これをサラウンドBD-Aで聴くと、いつまでもこんな音に浸っていたいという至福の時間が過ぎていきます。ところが、同じ音源をSACDで聴くとそんなアナログ感満載のソフトな雰囲気が全くなくなり、なにかとげとげしい感じの音になってしまいます。改めて、SACDのスペックの不十分さが体験できてしまいました。

BD & SACD Artwork © Lindberg Lyd AS

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by jurassic_oyaji | 2018-05-24 20:21 | ポップス | Comments(0)