おやぢの部屋2
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カテゴリ:ポップス( 110 )
DEBUSSY...et le jazz/Preludes for a quartet
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Jacky Terrason, Jean-Philippe Collard-Neven(Pf)
Vincent Perani(Acc), Franck Tortiller(Vib)
Jean- Louis Rassinfosse(Cb)
Quatuor Debussy
HARMONIA MUNDI/HMM 902308


今年は、ドビュッシーが亡くなって丸100年目なのだそうです。「101回忌」ですね。ということで、あちこちでドビュッシー関連のイベントやコンサート、さらにはCDのリリースがあるようですが、なんだか「バーンスタイン生誕100年」ほどは盛り上がっていないと思えるのは、気のせいでしょうか。
おフランスのレーベル、HARMONIA MUNDIからも、自国の作曲家ということでこんなアール・デコ風のジャケットで統一された新録音のアルバムが何枚かリリースされています。そんな中で、「ドビュッシーとジャズ」というタイトルのちょっと毛色の変わったものを1枚。
ここでのメインのアーティストは、その名もドビュッシー弦楽四重奏団という、1990年に創設されたアンサンブルです。このサイトでも、以前こちらのモーツァルトの「レクイエム」のリヒテンタール版で聴いたことがありました。それは2008年の録音なのですが、今回そのちょうど10年後にこのアルバムを作った時には、メンバー4人のうちの2人までが別の人になっていました。それはセカンド・ヴァイオリンとチェロの人なのですが、そのチェロの前任者、アラン・ブルニエという人は2005年に加入していますから、今の人は少なくとも3人目のメンバーとなります。弦楽四重奏団というとメンバーは殆ど変らないという勝手なイメージがありますが、ここはそうではないようですね。
そんな、古いメンバーの名前を持ち出したのは、このアルバムではドビュッシーのピアノ曲「前奏曲集」の中から有名な曲を弦楽四重奏をベースにした編曲で演奏しているのですが、その編曲者としてこの方の名前があったものですから。
つまり、タイトルでは「ジャズ」と謳ってはいるものの、全10曲のうちの半分の5曲はジャズ的な要素が全く見られない、原曲を忠実に弦楽四重奏用に編曲したものなのです。それを行っている人のクレジットとして、現在のメンバーとブルニエの名前が挙げられているのですね。ということは、その楽譜は彼が在籍していたころに作られたものなのでしょうから、ここで演奏されているその5曲は、別に今回のために特別に作られたものではなく、彼らのレパートリーとして普通に演奏されてきているものだったのでしょうね。確かに、サブタイトルは「四重奏のための前奏曲集」でした。
ですから、これはあくまでクラシック・ファンのために作られたもの、まずはオリジナルを聴いてもらった後に、ジャズ・ミュージシャンが加わってその対比を味わってもらう、というようなコンセプトなのでしょう。
例えば、ヴィブラフォンのフランク・トルティエが加わった「交代する三度」(第2巻11曲目)などでは、構成はほとんど変わらない中でのトルティエのアドリブ・ソロが楽しめます。
ただ、ピアニストのジャン=フィリップ・コラール=ネヴェン(あのジャン=フィリップ・コラールとは別人)とベーシストのジャン=ルイ・ラシンフォッセが加わった「沈める寺」(第1巻10曲目)は、ドビュッシー弦楽四重奏団のヴァイオリン奏者がいかにもな型通りのソロを聴かせたりして、冗長な印象は免れません。
ですから、この中で心から楽しめたのは、アコーディオンのヴァンサン・ペラニが加わって、「ジャズ」とはちょっと違う不思議なサウンドを醸し出していた「亜麻色の髪の乙女」(第1巻8曲目)と「風変わりなラヴィーヌ将軍」(第2巻6曲目)のメドレーと、ジャッキー・テラソンのピアノが加わったこの中では最長の演奏時間の「Bussi's blues」という粋なタイトルのピースです。もちろん、「Bussi」というのはお侍さんではなく(それは「武士」)ドビュッシーを親しみを込めて呼んだ名前なのでしょうね。
そのテラソンだけは録音も別のスタジオで、ピアノの音が全然別物でした。もしかしたらプリペアされていたのかもしれません。編曲は、ドビュッシーのみならず、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」の断片まで現れるというぶっ飛んだものです。

CD Artwork © harmonia mundi musique s.a.s.

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by jurassic_oyaji | 2018-10-06 20:16 | ポップス | Comments(0)
BITCHES BREW
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Miles Davis(Tp), Wayn Shorter(Sop Sax), Bennie Maupin(B Cl)
Joe Zawinul, Chick Corea, Larry Young(E Pf)
Johon McLaughlin(Guit), Dave Holland(Bas), Harvey Brooks(E Bas)
Lenny White, Jack DeJonette(Dr), Don Alias, Jumma Santos(Perc)
SONY/SICJ 10008-9(hybrid SACD)


1970年代に登場した「4チャンネル・ステレオ」は、商業的には全くの失敗作でした。そのテクノロジー自体は間違いなくそれまでの「2チャンネル・ステレオ」を超えるものだったのですが、いかんせん当時音楽再生ソフトの主流だったアナログ・レコードでは、技術的にそれを100パーセント再生することは不可能でした。それぞれのメーカーが開発競争にあけくれた結果、世の中には何種類もの互換性をもたない方式が乱立することになってしまったのです。
その結果、消費者にはそっぽを向かれ、「4チャンネル・ステレオ」はこの世から消えてしまったのです。
それから四半世紀ほど経って、音楽ソフトはアナログ・レコードからCDの時代になり、さらにCDの進化形として、SACD(Super Audio CD)がデビューします。SACDはCDを上回る解像度を持つハイレゾ音源ですし、その中にはマルチチャネルのサラウンド音源を収録することも出来たのです。もちろん、それはかつての4チャンネルとは別物の、デジタル技術を駆使して独立した複数の音声信号を全く劣化させることなく再生できる優れものでした。
ですから、かつて「4チャンネル」で制作されたにもかかわらず、満足のいく形では市場に出ることのなかった音源は、SACDだったらそのまま再生することが出来るのです。
そのことに最初に気が付き、商品化を行ったのが、2002年に創設されたPENTATONEというオランダのクラシック専門のレーベルでした。ここでは、かつて製作された4チャンネルの音源をデジタル・リマスターして数多くの演奏をSACDのサラウンドとしてリリースしてきています。
ポップスの世界では、SACDが誕生してから20年近く経った今年、かつては「SQ」という方式で、おそらくどこのレーベルより積極的に4チャンネルの商品展開を行っていたSONYが、初めてオリジナルの4チャンネル音源であることを大々的に誇示したSACDをリリースしました。それが、このマイルス・デイヴィスの「ビッチェズ・ブリュー」です。笑顔がかわいいですね(それは「スマイル」)。録音されたのは1969年ですが、1972年の日本盤のアートワークが、そのまま復刻されています。とはいっても、サイズはLPの12インチではなく、シングル盤の7インチの大きさのミニチュアですけどね。SACDは、7インチ径のディスクに固定されて、中袋に収納されています。
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ですから、当時のLPに同梱されていた、この「SQ4チャンネル」の説明や、関連商品の案内などが載っているチラシまでも小さくなって復刻されていました。もしかしたら、この貴重な資料が今回のパッケージでは最も価値があるものなのではないでしょうか。

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そこには、まず「他の4チャンネルがかかえていた問題をすべて解決」とあります。こんな排他的な態度が、結局は普及の妨げになっていたのでしょうね。さらに、「SQステレオは4つのスピーカーを使い、演奏家やシンガーがあなたのまわりを自由自在に動く様子をそのまま再現します」ですって。こんな、音楽の本質から外れた低次元なところで勝負をしようとしていたのでは、そっぽを向かれるのは当たり前です。
それこそ「世界初復活」されたこのサラウンド・ミックスは、まさに衝撃的なものでした。このアルバムでマイルスがとったバンドの編成は、ホーン3本、ピアノ3台、ベース2本、ドラムス2セット、パーカッション2人、それにギターという大規模なものですが、それぞれがくっきり360度の中に定位していて、アンサンブルの中で何をやっているかが手に取るようにわかるのですね。チック・コリアもジョー・ザヴィヌルも、ジョン・マクラフリンも、それぞれに好き勝手なことをやりつつある種の混沌が形成されている中に、いきなりマイルスのトランペットが、正面センターに定位していたところから発せられ、それが後の右と後の左から時間差をおいて聴こえてくるのです。それはまるで「天からの声」のように感じられます。

SACD Artwork © Sony Music Entertainment

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by jurassic_oyaji | 2018-08-23 20:50 | ポップス | Comments(0)
The Beach Boys with the Royal Philharmonic Orchestra
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The Beach Boys
Sally Hrebert, Steve Sidwell/
The Royal Philharmonic Orchestra
CAPTOL/00602567540960


以前ご紹介したロイ・オービソンと同じ企画、昔のアーティストの音源にロイヤル・フィルの演奏をオーバーダビングしたという「ウィズ・ザ・ロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラ」シリーズの最新盤は、「ザ・ビーチ・ボーイズ」といういやらしい名前の(それは「ビーチク・ボーイズ」)グループです。プレスリーやオービソンの時はSONYからリリースされていたのに、今回はUMGからのリリースです。もちろん、プロデューサーは同じですから、ディストリビューションは、アーティストのオリジナルのレーベルから、という契約なのでしょう。
初期のビーチ・ボーイズはアメリカのCAPITOLのアーティストでしたから、EMIの傘下、それが、もはやEMIはなくなってしまいましたから、その買収元のUMG(ユニバーサル・ミュージック・グループ)から、ということなのでしょう。クラシックばかり買っていると、EMIはWARNERだとつい思いたくなってしまいますが、それはほんの一部分で、大部分のアイテムはUMGの方に行っていたのですね。
オービソンの場合は、基本的にヴォーカルのトラックだけを残して、あとはオーケストラの新しい録音で伴奏を入れて曲を完成させるという方式をとっていましたが、ビーチ・ボーイズの場合はそもそも「バンド」としてのサウンドが確立されている曲ですから、ここではオリジナルのトラックがほとんどそのまま使われているようです。ですから、今回のオーケストラの役目は、軽くバックにストリングスを加える、といった程度のものなのでしょう。ただ、それではせっかくのフル・オーケストラを使った意味がないと思ったのでしょうか、それぞれの曲の前にオーケストラだけで新たに作られたイントロが挿入されています。
まあ、個人的には、このバンドにはそれほどの思い入れはないので、これもありかな、という感じですね。それよりも、おそらくマルチ・トラックのテープから新たにリミックスを行っているのでしょうから、バンドやコーラスの音のクオリティ自体が格段に向上しているのがうれしいですね。これは、ビートルズのアルバムでリミックスを行った結果、音が劇的に変わったことと同じ理由によるものなのでしょう。
そんな音の違いを具体的に比べてみたくて、オリジナルと比較しながら聴いてみたのが、彼らのある意味代表作「Good Vibrations」です。これは、それまでのノーテンキなサーフィン・ホットロッドのスタイルから一変して、作品としての深さを追求し始めたものとして語られることの多い曲ですが、確かにここでのアレンジにはかなりぶっ飛んだものが感じられます。一番驚くのは、あの「テルミン」にとてもよく似た音が随所で聴かれることです。
しかし、これは厳密には「テルミン」とは異なる楽器であることが、今回のアルバムのクレジットで分かりました。そこでは「Electro-Theremin: Paul Tanner」とあったのです。ポール・タナーという人は、元々はグレン・ミラー楽団でも演奏していたトロンボーン奏者でしたが、テルミンの音に魅せられて、それよりももっと演奏が簡単な楽器「エレクトロ・テルミン」を考案したのです。これはヴォリュームつまみでダイナミックス、そしてスライド・バーでピッチを操作して、テルミンそっくりの音を出すという楽器です。
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(エレクトロ・テルミンを演奏するポール・タナー)

この楽器は彼が作らせた1台しか存在していなかったのですが、その音がこの「Good Vibrations」の中での彼自身の演奏によって聴くことが出来るのですね。
オリジナルの録音には、そんな楽器の他にフルート、クラリネット、ピッコロやチェロが加わっています。そのチェロはオリジナルでもかなり目立つのですが、ここではおそらくRPOによってさらに増幅されているのでしょう。そして、面白いのが、フルート。オリジナルでは伴奏のハーモニーに徹していてほとんど聴こえないのですが、ここでは明瞭に聴こえてくるスケールのソロが加えられています。そんなところを探していると、とても楽しめますよ。

CD Artwork © UMG Recordings, Inc.

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by jurassic_oyaji | 2018-08-09 21:24 | ポップス | Comments(0)
Quiet Winter Night
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9 Vocalists
Hoff Ensemble
2L/KKC 10009(2L-87SACD/hybrid SACD)


「静かな冬の夜」ですって。まさに、真冬に暖炉のそばで聴くようなアルバムですね。でも、これはリリースされたばかりの新譜なものですから、それをこんなくそ暑い「雷でやかましい夏の夜」に聴くことになってしまいました。
そもそもこのアイテムは日本国内だけでの商品です。もともと2Lからは2012年にリリースされていたのですが、それを日本の代理店(キングインターナショナル)は国内販売のルートには乗せなかったようで、いまごろになってわざわざ国内盤仕様でリリースされていました。
最初に2Lが出したのはBD-AとLPだけでした。それが、今回はハイブリッドSACDになっていました。なんでも、このLPを入手していたさるオーディオ評論家の方が、えらくその録音を気に入っていて、ぜひともSACDで販売してほしいと代理店に圧力をかけたそうなのですね。さらにオーディオ指向ということで、CDレイヤーは今話題の「MQA-CD」になっています。これは、なんでもそれなりの機器を使うと、CDでハイレゾ音源を聴くことが出来るというものなのだそうです。まあ、これが普及するよりも、CDそのものがなくなってしまう方が早いような気がしますが。
このアルバムは、先日こちらでご紹介したノルウェーのジャズ・ピアニスト、ヤン・グンナル・ホフが、2011年に、同じ教会で録音していたものです。写真を見るとその頃はまだ「5.1サラウンド」でしたから、アレイも最近の「7.1.4」の二段重ねのものに比べるとシンプルな形でしたね。マイクのポジションは前と同じ、向かい合ったパーカッションとピアノの間です。
ここでのアンサンブルは、ホフのピアノを中心にしたピアノ、ベース、パーカッションというトリオが基本形になっていて、そこにトランペット、ギター、さらにはニッケルハルパとハリングフェレといった民族楽器も加わります。さらに、ヴォーカリストも全部で9人の名前がクレジットされています。
演奏されている曲はホフのオリジナルではなく、1999年ごろから始まったノルウェーの「Jul i Blåfjell(ブローフィアルのクリスマス?)」というテレビ・シリーズのためにゲイル・ボーレンとベント・オーセルードという人たちが作った音楽です。それはもう、鄙びた雪深い山村でのクリスマスの情景が目に浮かんでくるような、伝承曲のテイストを多分に取り込んだ優しい音楽ばかりです。それを、フォーク・シンガーのようなだみ声の人など、クラシックとは全く縁のないヴォーカリストたちがしっとりと歌い上げています。
ホフはアレンジを担当。トランペットやギターはあくまでまろやかな音色でサポートしています。ギターは、エフェクターでまるでオルガンのような持続音まで出していますね。
ヴォーカルは同時録音ではなく、まずバンドだけで演奏して、後日楽器がなくなった同じ会場でヴォーカリストたちがバンドに使ったのと同じマイクの前で歌って、それをオーバーダビングしているようですね。ボーナストラックで、「インストゥルメンタル・バージョン」というのが入っていますが、それはその前に歌っていた同じ曲の「ヴォーカル・バージョン」のカラオケでしたから。
もちろん、サラウンドで聴けば、このヴォーカルはフロントの真ん中にしっかり定位して、とても豊かな残響が取り込まれています。ピアノの左右にギターとベースが位置していますし、パーカッションはリアからサイドに広がって、パッションを放っています。
ただ、日本の代理店が用意したライナーノーツは、どうしようもなく愚かしいものでした。そもそも、1曲目のメンバーでギタリストの名前が抜けています。そして、件のオーディオ評論家の書いた文章の貧しいこと。
もっと言えば、真にオーディオを売り物にしたいのならば、SACDではなくBD-Aでリリースすべきでした。そうすれば、クリスマスのシーズンには、もう一度しっとりと聴いてみたい素敵な演奏と録音だな、と心から思えていたことでしょう。

SACD Artwork © Lindberg Lyd AS

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by jurassic_oyaji | 2018-06-30 21:16 | ポップス | Comments(0)
Hans Zimmer Live in Prague
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EAGLE ROCK/EVB 335709(BD)


どうしても「ハンス・ツィンマー」と呼びたくなってしまいますが、一応アメリカ式に「ハンス・ジマー」と呼ぶのが慣例になっているので、それに従いましょう。そんな名前でも分かる通り、生まれたのはドイツ、その後ロンドンに移住してさらにアメリカに渡り、今では世界的な映画音楽の作曲家になっている人ですね。
彼の作る音楽は、とても骨太でダイナミックなものから、繊細なものまでかなり幅広いような印象がありました。その中で、生のオーケストラと電子音(シンセサイザー)との絶妙なバランスによる独特なサウンドは、それまでの映画音楽のグレードをワンランク高めたものなのではないでしょうか。
そんなジマーが、2016年にプラハで行ったコンサートの模様が、2017年にBDなどでリリースされていました。
会場は、プラハのO2アリーナという、収容人員18,000人の屋内競技場です。そこを埋め尽くした聴衆の前で、ジマーはオープニングから度肝を抜いてくれました。まずはジマーが一人で現れて「Driving Miss Daisy」のテーマをピアノで弾き始めます。そのピアノも普通のアップライトではなく、もう少し小振りのスピネットタイプのおもちゃみたいな楽器ですから、なんかジマーのサウンドとはミスマッチ。そこに、クラリネット奏者が登場して、デュエットになります。そのクラリネットがすごく上手、あとで調べたらリチャード・ハーヴェイという、やはり映画音楽などを作っている作曲家でした。
さらに、セクシーなボンデージ・ファッションのヴァイオリンが2人と、スケルトン・チェロ(ヤマハ)が一人加わってひとくさりアンサンブルが披露されますが、少しリズム感がタイトになってきたな、と思った瞬間、後ろのカーテンが上がってそこに並んだドラムスとパーカッションがいきなり現れました。
曲は「Sherlock Holmes」に変わり、ジマーはなんとバンジョーを弾きだしましたよ。それが一旦暗転でブレイク、ベースのソロで「Madagascar」のリフが始まり、ジマーは燕尾服を脱いでシャツ姿になり、ピアノに向かいます。そして、そのリフが盛り上がってきた瞬間、さらに後ろのカーテンが上がって、ストリングスとブラス、そしてコーラスが現れました。これには客席も驚いて、スタンディング・オベーションですよ。このメンバーはチェコ・ナショナル交響楽団と合唱団ですって。
それからは、聴いたことのあるジマーの曲たちのオンパレード、オーケストラを駆使した重厚なサウンドから、ほとんどEDMといった感じのテクノ・サウンドまで、幅広いジャンルを網羅したジマーの世界が広がります。
演出も、照明がとても多彩で目がくらむほど。そして、最大の魅力がそのサラウンドのミックスです。いまや、映画のサウンドトラックはサラウンドが当たり前になり、単なるオーケストレーションではなく、しっかり音場まで設計されたアレンジが行われています。時には、それが的確な表現となって、映画全体のコンセプトを伝える大きな要素ともなりえています。そんな「思想」までが、このBDのサラウンド・ミックスでは見事に反映されているのです。
具体的には、オーケストラと合唱はリアに定位、フロントにバンドが広がるという、まるでステージのど真ん中にいるような定位になっています。ただ、ドラムスやパーカッションはシーンに応じて定位が変わり、前からも後ろからも迫ってきます。
スケルトン・チェロは、常にフロントでソリスティックな演奏を繰り広げています。この人は中国系のティナ・グオというチェリストで、クラシックのチェロや、二胡までも演奏します。なんでも、五嶋みどりとトリオを協演したこともあるのだとか。ただ、何カ所か、間違いなくソロを弾いているのに、音が全然聴こえないところがありました。これは音響のミスなのでしょう。
「動く」ジマーを見たのはこれが初めて、かなり老けた外観はちょっと意外でした。でも、このライブのサウンドには圧倒されました(あっとおどろくことばかり)。

BD Artwork © Eagle Rock Limited

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by jurassic_oyaji | 2018-06-21 20:17 | ポップス | Comments(0)
POLARITY
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Jan Gunnar Hoff(Pf)
Anders Jormin(Bas)
Audun Kleive(Dr)
2L/2L-145-SABD(BD-A, hybrid SACD)


この、超弩級の録音を誇る2Lレーベルは、もっぱら合唱曲や器楽曲といったクラシックのレパートリーで制作を行っていますが、ほんの少しジャズのアルバムもリリースしています。それは、自国ノルウェーのジャズ・ピアニスト、ヤン・グンナル・ホフのアルバムです。これまでに、4枚ほどのアルバムが出ています。
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これが、録音会場の写真。今回は、ホフにとっては初めてとなるトリオの編成でのセッションです。ベースはアンデシュ・ヨルミン、ドラムスはアウドゥン・クライヴェ、いずれも北欧圏では最高と言われているミュージシャンだそうです。そして、ホフはここではピアノの他に、チャーチ・オルガンとシンセサイザーも演奏しています。おそらくこれはオーバーダビングで重ねているのでしょう。彼の右手にあるのがシンセサイザー。これは往年の名器、「プロフェット6」です。6声のアナログ・ポリフォニック・シンセですが、この前の5声の機種「プロフェット5」は、あのYMOも使っていて一世を風靡しましたね。もう1台、左手にあるオルガンはドローバーが付いているのでハモンドっぽいのですが、こんな一段鍵盤の機種はないはずなので、別のメーカーの製品でしょう。
それと、この教会でのセッションでは、楽器や録音機材以外にいろんなものが見えますね。ドラムスの後ろには、無数の座布団が敷かれていますし、この3人の間にはなんと多量の薪が撒き散らされていますよ。これは、なにか音響的な意味があるのでしょうね。特に木材は良い影響を与えるはずです。
もちろん、このレーベルですからこれはハイ・クオリティのサラウンド録音です。そのためのメイン・アレイがさっきの薪のそばにありますから、再生される時はその位置での音場が感じられるはずです。たしかに、正面の左寄りにピアノ、右寄りにベース、そして後ろからはドラムスが定位しています。
この3人が奏でる楽器たちの音はあくまでクリアでナチュラルでした。ピアノは刺激的なタッチは全くなく、暖かいハーモニーが柔らかく漂っています。ベースもなんというリアルな聴こえ方なのでしょう、時折登場するアルコによるフラジオレットには、この世のものとは思えないほどの妖艶さが漂っています。そして、ドラムスの驚異的なテクニック。基本、使っているのはノーマルなドラムセットなのですが、そこから奏でられる様々なテクスチャーは、まるで魔法のように全体の音色を操作しています。そう、このドラムは「歌って」いるのですよ。
ここで演奏されている曲は、ホフのオリジナルが12曲、それぞれに英単語一つのシンプルなタイトルが付いています。曲調はバラードあり、アップテンポあり、さらにはもろインプロヴィゼーションというハードなものありという多彩さですが、いずれもキャッチーなテーマが使われているのでとても親しみがわくものばかりです。ホフという人は、稀代のメロディ・メーカーなのではないでしょうか。
中でも、なにかとても懐かしい思いに誘われる北欧感のようなものが漂っている曲が、印象に残っています。最初に演奏されている「Innocence」あたりが、そんなテイストの曲。まるであの「Frozen」のテーマ曲のようなイントロで始まるとてもかわいい曲です。最後の「Home」という曲も魅力的ですね。まるでコラールのようなテーマが何度も繰り返され、その間に全く別のテイストのフレーズが入りますが、最後にはそのコラールに戻ってくるあたりが「Home」なのでしょうか。「Sacred」という曲では、ピアノは全く登場せず、オルガンだけになっていました。これも意味深。
これをサラウンドBD-Aで聴くと、いつまでもこんな音に浸っていたいという至福の時間が過ぎていきます。ところが、同じ音源をSACDで聴くとそんなアナログ感満載のソフトな雰囲気が全くなくなり、なにかとげとげしい感じの音になってしまいます。改めて、SACDのスペックの不十分さが体験できてしまいました。

BD & SACD Artwork © Lindberg Lyd AS

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by jurassic_oyaji | 2018-05-24 20:21 | ポップス | Comments(0)
A LOVE SO BEAUTIFUL
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Roy Orbison
Royal Philharmonic Orchestra
SONY/88985497092


ロイ・オービソンと言えば、彼が歌う「Oh, Pretty Woman」が、ジュリア・ロバーツとリチャード・ギアが出演した1990年の映画「プリティ・ウーマン」の主題歌として一躍有名になったロック・ヴォーカリストですね。ただ、この曲自体は1964年のヒット曲ですし、オービソン自身も1988年には亡くなっています。ですから、この曲はあくまで「クラシックス(=懐メロ)」という扱いで、採用されていたのでしょう。
実際、彼が立て続けにヒット曲を出していたのは1960年代でした。それが、晩年の1980年後半には、元ビートルズのジョージ・ハリスンが結成したバンド「トラヴェリング・ウィルベリーズ」のメンバーとして「リバイバル」することになります。しぶといですね(それは「サバイバル」)。このバンドでオービソンの声の魅力にとりつかれ、さらに映画に後押しされてファンになったという人も多かったのではないでしょうか。それほど、彼の声はその辺のロック・ヴォーカリストとは一線を画した格別の魅力を放っていました。
亡くなってから30年近く経って、去年の11月にこんなアルバムがリリースされました。これは、オービソンが残した音源から彼のヴォーカルだけを抜き出し、そのバックを新たに録音して新しいバージョンを作った、というものです。
マルチ・トラックの中の彼の声に合わせて、リズム・トラックを新たに録音します。そして、さらにそこにストリングスを加えるのですが、そこにスタジオ・ミュージシャンではなく、ロイヤル・フィルという「普通の」オーケストラを使ったというのが、このアルバムの目玉です。
実際は、このクラスのオーケストラがスタジオの仕事をするのは日常茶飯事ですから、それほどありがたがることはないのですが、ここでは確かにその間違いなく大人数の弦楽器が演奏している厚ぼったいサウンドには、とてもゴージャスさが感じられます。
それと同時に、ここではコーラスも新たに加わっていました。それは10人以上のメンバーが参加している、ちゃんとした「合唱団」ですから、こちらの深い響きにもとても魅了されてしまいます。
つまり、そんなキレキレの、最新の録音によるバックの中に、半世紀以上前に録音されたヴォーカルが入っても、全く何の違和感がないということに、本当は驚くべきなのでしょうね。それだけ、彼の歌声には時代を超えた普遍性があるということになりますね。
60年台の録音と言えば、ヴォーカルには派手なエコーがかかっていたものです。ここでも、オービソンの声はその「エコー込み」で使われていて、まわりのサウンドもそれに合わせてかなり深めのエコーがかかっています。そうなると、あの頃の例えばフィル・スペクターが作り上げたびしゃびしゃのエコーの世界が、方向性は同じでも全く異なる景色で現れてきます。
それが、80年台の曲になると、そのエコーが控えめになってストレートな声とサウンドに仕上がっているのも、面白いところですね。この時代の「I Drove All Night」や「You Got It」では、オリジナルでは当時の仲間のジェフ・リンなどがギターやバッキング・ヴォーカルで参加していました。ですから、今回のプロジェクトではオービソンの声と一緒にそれらのパートもそのまま残して、新たに別のパートを付け加えていましたね。
いや、なぜか入手したのはドイツ盤だったのですが、そこにはボーナストラックでヘルムート・ロッティという、ベルギーのシンガーがオービソンと「デュエット」までしているんですよね。これが傑作、歌っているのが60年台の「Only the Lonely」なので、ロッティにもおんなじエコーがかかっているんですよ。
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もっとすごいのは、このメンバーがそのまま「ライブ・ツアー」を行うことを告げるこのポスター。オービソンのホログラムを使って、このアルバムと同じものを「生」で聴かせようとしているんですよ。幸せな人だな、と思いますね(演奏するのが「The Royal Philharmonic Concert Orchestra」というのがおかしいですね)。

CD Artwork © Sony Music Entertainment Germany GmbH

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by jurassic_oyaji | 2018-02-13 21:49 | ポップス | Comments(2)
ザ・ビートルズ・LPレコード・コレクション/No.1 Abbey Road
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デアゴスティーニ・ジャパン刊
ISBN978-4-8134-2163-1



「デア・ゴスティーニ」ではなく、「デ・アゴスティーニ」だったんですね。最近知りました。いずれにしても、今までこの会社の製品にはなんの関心もありませんでした。例えば「オペラ全集」などを出したとしても、そこには何の価値も見いだせなくて、通り過ぎていましたね。最近、「ジャズ全集」を出した時にも、まあ、このところLPに対する再評価が高まってるので、そんな波に乗って、テキトーにライセンスを取って、国内の工場でプレスしたものを出しているのだろう、と思っていましたね。
そこに、なんとビートルズのオリジナル・アルバムなどというものが登場したではありませんか。ビートルズの音源に関しては、とても厳しい管理がなされていますから、正規にリリースされるものは全てかつてはEMI、今ではUNIVERSALの中のCalderstoneというディヴィジョンからのもの以外は認められないことになっているはずです。それが、こんな畑違いの会社から発売されるなんて、いったい、実体はどんなものなんだろうという興味だけで、初回発売の「Abby Road」を買ってみました。
宣伝媒体では、そもそもジャケット自体がこんな感じになっていたので、そういう「雑誌仕様」のデザインなのかと思っていたら、これはあくまで全体のカバーで、その中身はこんな感じでした。
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このほかに、しっかりシュリンク包装されたLP本体が入っていましたよ。2012年に出たこれの「正規盤」は持っていましたから、それと比較してみると、全く同じもののように見えました。ジャケットもレコード盤も中袋もレーベルも、正規盤と同じ大きさ、重さ、材質、匂い(?)ですから、これは正規品と同じ製造工程で作られたものに間違いありません。
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ただ、裏ジャケットにあるクレジットを見ると、EMIからCalderstoneに変わっているほかに、「©2016 Licensed by Universal Music group to De Agostini Publishing S.p.A.」という一言が加わっています。したがって、レーベルの周辺に印刷されているテキストも変わっています。左がEMI、右がデアゴスティーニです。
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ですから、クレジット上の表現では、「2009年にデジタル・リマスターを行って、2012年に製造されたLPを、デアゴスティーニが販売している」ということになるのでしょう。つまり、EMI(今ではUNIVERSAL)が製造したものと全く同じLPが、本屋さんで簡単に手に入る、ということですね。値段も輸入品を定価で買うよりはるかに安いですからね。そもそも、これは日本だけではなく、イタリアやイギリスですでに出ていたものだったのです。世界的なマーケットに向けられていたのですよ。ですから、付属のブックレットは、英語版を翻訳したものです。
もちろん、これはEMIが製造したLPの在庫をそのまま流用したのではなく、今回ジャケットは新たに印刷され、LPも新たにプレスされています。それは、マトリックス・ナンバーを見れば一目瞭然。
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上がEMI、下がデアゴスティーニです。マトリックス表記のシステムが全然別物ですね。
つまり、今回はカッティングも新たに行われたことになります。そのマスターは2009年に作られたデジタル・マスターですが、おそらくカッティングのエンジニアも2012年とは別の人なのでしょう。その違いが、音の違いとなって実際に現れています。結論から言うと、今回のデアゴスティーニのカッティングの方が、以前のEMIのものより良い音になっています。具体的には、カッティングのレベルがほんの少し高いので、音にメリハリが増していますし、特に内周に行くにしたがって音が劣化する「内周ひずみ」がほとんど感じられません。ですから、A面後半の「Octopus's Garden」、B面後半の「Polythene Pam」や「She Came in through the Bathroom Window」でのコーラスや「Golden Slumbers」でのストリングスなどは、比較にならないほど生々しく聴こえます。
これはすごいことです。さらに、「1」や「サージェント・ペッパー~」のように今ではLPでもジャイルズ・マーティンのリミックス盤しか入手できなくなっているものでも、オリジナル・ミックス盤が手に入るはずですから、これもとても貴重です。CDの音には飽き足らず、それなりのLP再生装置を持っている人には、絶対のおすすめ品です。

Book Artwork © K.K.DeAgostini Japan

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by jurassic_oyaji | 2017-08-31 22:22 | ポップス | Comments(2)
Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band/Anniversary Edition
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The Beatles
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今日、6月1日はこのビートルズの「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」という長ったらしいタイトルのアルバムが発売された記念日なのだそうです。それは1967年のこと、ですから、本日は発売50周年記念日となります。ところが、それはイギリスでの発売日で、日本で発売されたのは7日5日なんですよね。それなのに日本盤の帯に「イギリスと同時発売!!」とあるのは笑えます。なんせ、半世紀も昔のことですから、別に動じることはありません。
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The Beatles Album Visual Book(2000年リットーミュージック刊)より

その頃はEMIのアーティストだったビートルズも、今ではユニバーサルに移っています。しかし、彼らのアルバムの大部分は、EMI時代の2009年に新しくリマスタリングされたものですから、もうそれで十分と思っているユーザーに対して、ユニバーサルとしてのアイテムを用意したいという動きはあったのでしょうね。そこで、ジョージ・マーティンの息子のジャイルズ・マーティンに新たにリミックスを行わせて、「1」のリミックス盤とか、長らく廃盤になっていた「ハリウッドボウル・ライブ」のリミックス盤をリリースしてきたのでしょう。そして、「サージェント~」の50周年という「大義名分」を後ろ盾に、ついにオリジナルアルバムのリミックスに手を付けることになりました。
ジャイルズが行ったのは、現代のリスナーにとって聴きやすい音に仕上げる、ということだったのでしょう。半世紀前はまだステレオというのは特別なものでしたから、このアルバムもイギリスやアメリカではステレオ・ミックスとモノラル・ミックスの2種類が用意されていました。ステレオにしても、今聴くと単純に「右」、「真ん中」、「左」とヴォーカルや楽器を割り振った、というものでした。それが、ここではすべてのメイン・ヴォーカルは真ん中に定位させています。そして、コーラスはその周りに広がりを持って定位、ということまで行われていて、真の意味での「立体感」が表現できるようになっています。もちろん、それぞれの音のクオリティも格段に向上しています。
それはそれで、初めてこれらの作品に触れる人にとってはありがたい配慮なのですが、長年聴きなれたファンにとっては、ちょっと納得のいかないところもあるのではないでしょうか。たとえば、「A Day in the Life」では、ジョンのヴォーカルは右から始まって真ん中、左と移動するという形が曲の印象として刷り込まれていますから、それを真ん中に固定されてしまうと戸惑ってしまいます。
そして、もっと重要な問題も。このアルバムでは何曲か、ミキシングが終わったところで、全体のテープスピードを少し操作してピッチを変えているものがあります。その、最終のカッティング用のマスターでリマスタリングを行っていた分には何の問題も出てこないのですが、ジャイルズの場合、元のスピードのままのテープでミックスを行って、それを最終的にデジタルでテープスピードを変化させているために、オリジナルとはピッチが変わってしまっているのですよ。それは、同梱されていたCDの中に入っていた「When I'm Sixty-Four」で最終的に採用されたテイクと聴き比べて分かったことです。オリジナル、つまり2009年のリマスター盤ではほぼ6%早くなっていたのに、今回のリミックス盤では4%しか早くなっていませんでした。実際に聴いてみると、オリジナルでは半音高く聴こえますが、リミックス盤ではとても微妙、製作者の意図とは別物になっています。
正直、「With a Little Help from My Friends」でのポールのベースを聴いた時には、そのクリアな音に狂喜してしまいました。しかし、こんないい加減なことをやっていたのには、本当にがっかりです。おそらく、これからも他のアルバムのリミックスは行われるのでしょう。しかし、非常に残念なことですが、それを聴く時にはオリジナルとは別物であるという意識で接する必要がありそうです。

CD Artwork © Calderstone Productions Limited

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by jurassic_oyaji | 2017-06-01 21:05 | ポップス | Comments(0)
Electronic Sound
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George Harrison
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先日「ザップル・レコード興亡記」を読んでとても気になってしまったジョージ・ハリスンの「Electronic Sound」を実際に聴いてみることにしました。ビートルズ時代のジョージはとても好きだったのですが、ソロになってからのアルバムなどは全く興味がなかったのでどれも聴いたことはありませんでした。今回チェックしてみたら、やはり元ビートルズとあって、それらのアルバムはとても手厚い待遇を受けていたことが分かりました。CD化された後でも、何回もリイシューが繰り返されていたのですね。なんと、今年の2月にはジョージのすべてのソロ・アルバム13枚が、紙ジャケット仕様でリリースされていました。それは国内盤のみのことなのだそうです。なんでも、国内でLPが発売になった時の「帯」までが、ミニチュアで復刻されているのだとか。しょうもない気がしますが、マニアにはたまらないのでしょう。
この「Electronic Sound」は、オリジナルは1969年のLPですが、それは普通のシングル・ジャケットで、録音データなどは中袋に印刷されていたようですね。今回入手したのは、2014年に新たにリマスタリングが行われた輸入盤CD、それはダブル・ジャケット仕様の紙ジャケットで、CDはLPの中袋をほぼ忠実に再現したものの中に入っています。
このCDには、オリジナルにはなかったブックレットが入っていて、そこには多くの写真と、2014年に新たに書き下ろされたライナーノーツが掲載されています。それらは資料としてはとても興味深いものでした。まず、ダブル・ジャケットの見開きの部分に、ジョージ自身が購入した「モーグ」の、2014年に撮影された写真があるのが感激ものでした。それは、「モーグIIIP」という、ポータブル・タイプでした。
さらに、ブックレットではこの同じ楽器が「アビー・ロード」のセッションで使われた時の写真なども見ることが出来ます。ライナーノーツによると、それは確かにこのアルバムが録音された時に使われたもので、1969年の8月にアビーロード・スタジオに運び込まれたのだそうです。他のデータによると、セッションでこれが使われたのは8月5日から19日までの間ですから、それは間違いありません。「アビー・ロード」には、しっかりジョージの「モーグ」が使われていたのでした。
ただ、この写真ではセットアップを行っているのがジョージ・マーティンのようで、ジョージをはじめ、他のメンバーはそれを眺めている、という感じに見えてしまいます。おそらく、音を作ったのはすでに同じものを持っていて使い慣れていたジョージ・マーティンだったのでしょうね。ジョージたちは単にキーボードでフレーズを演奏しただけなのでしょう。
もちろん、中袋のデータでもわかるように、1曲目の「Under the Mersey Wall」が録音されたのは1969年の2月ですから、ジョージがこの「モーグ」を入手した直後なのですが、2曲目の「No Time or Space」が録音されたのが1968年の11月、しかも録音場所はカリフォルニアなのですから、これと同じ楽器ということはありえません。この点こそが、「興亡記」でもしっかり述べられ、今回のライナーノーツでも語られていることなのですが、この曲を実際に「演奏」していたのは、「アシスタント」というクレジットがあるバーニー・クラウスに間違いないでしょうね。そのカリフォルニアでのセッションが終わってから、ジョージがクラウスに頼んでデモ演奏をしてもらったものを無断で録音して、それを編集しただけだ、というクラウスの主張は、「真実」に限りなく近いものなのでしょう。
実際にこの2曲を聴いてみると、それははっきりします。ジョージ自身が演奏した「Under the Mersey Wall」では、いかにも偶然に出来た音を羅列したという感じで、逆にそれがまるでジョン・ケージの作品のような味を出しているのに対して、「No Time or Space」の音は、明らかにこの「モーグ」の操作に熟達した、確かな意思を持って作り上げられたものなのですから。

CD Artwork © G. H. Estate Limited
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by jurassic_oyaji | 2017-05-11 20:24 | ポップス | Comments(0)