おやぢの部屋2
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カテゴリ:フルート( 230 )
MOZART, MYSLIVEČEK/Flute Concertos
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Ana de la Vega(Fl)
English Chamber Orchestra
PENTATONE/PTC 5186 723(hybrid SACD)


まるで平野ノラみたいな太い眉毛のこの女性は、オーストラリアでイギリス人とアルゼンチン人の両親の間に生まれたフルーティスト、アナ・デ・ラ・ヴェガです。ブックレットの中の彼女自身の言葉によると、彼女はそれまでフルートのことも知らず、クラシックのコンサートに行ったこともなかったのに、ある日たまたま両親が家でかけていたレコードでジャン・ピエール・ランパルが演奏したモーツァルトの「フルートとハープのための協奏曲」の第2楽章を聴いた時、「わたし、フルートが吹きたいっ。パリに行って、ランパルさんの弟子になるわ。」と両親に告げたというのです。
結局、彼女がパリのコンセルヴァトワールに入学した頃にはランパルはすでに亡くなっていましたが、ランパルの高弟のレイモン・ギオーのもとでフレンチ・スクールの後継者となるべく学ぶことになるのでした。
彼女が一躍注目を集めたのは、2010年にイギリス室内管弦楽団とヨゼフ・ミスリヴェチェクの「フルート協奏曲」を演奏したロンドンのコンサートでした。ミスリヴェチェクはチェコで生まれ、イタリアでオペラ作曲家としての名声を確立した作曲家です。モーツァルトとも親交があり、モーツァルト自身も彼のことを高く評価していました。彼が作った唯一のフルート協奏曲は、すっかり忘れ去られていましたが、ヴェガはパリにいたころにわざわざチェコまで行ってその楽譜を探し出したのだそうです。
このコンサートの模様はBBCのラジオでも放送され、各方面で絶賛されたそうです。その同じメンバーで、2016年にセッション録音を行ったものが、このSACDです。ただ、これが世界初録音というわけではなく、1988年にブルーノ・マイヤーが録音したものが、Koch-Schwannレーベルから1989年にリリースされていますけどね。
ミスリヴェチェクは、モーツァルトよりも20歳ほど年上でした。ですから、その様式をモーツァルトも取り入れていたのでは、と言われています。実際、以前聴いた彼の受難曲からは、モーツァルトそっくりのテイストを感じることが出来ましたからね。
今回のフルート協奏曲は、第1楽章などはモーツァルトというよりはその一世代前の前古典派の音楽のように聴こえます。なんとなく、モーツァルトのお父さんのレオポルドが作ったとされるカッサシオン(おもちゃの交響曲)に似たようなフレーズも現れますし。しかし、2楽章あたりは、紛れもなくモーツァルトと同質の和声とメロディ・ラインが感じられるのではないでしょうか。今では楽譜もBÄRENREITERから出版されていますから、これからはどんどんこの曲をコンサートやレコーディングで取り上げる人が出てくるような気がします。その時には、このアルバムのようなモーツァルトの作品とのカップリングがよく行われるようになることでしょう。
こうして、新しいレパートリーの嚆矢となったヴェガの録音ですが、彼女の演奏に関してはあくまで珍しい曲をきっちり音にしただけ、という印象以上のものを感じることはできませんでした。というか、そもそも「前座」として演奏されているモーツァルトの協奏曲が、なにか聴いていて物足りないのですよね。両端の早い楽章は確かにテクニックに破綻はありませんが、なにかおとなしすぎてお上品な演奏にしか聴こえません。そして、真ん中の楽章が、なんともイマジネーションに欠けているな、という気がするのですね。
モーツァルトのト長調の協奏曲のその第2楽章ではオーケストラにもフルートが入るのですが、そこでは、そのオーケストラのフルートの方が、ソリストより明らかに音楽性が感じられるのですね。ここでは、かつてカラヤンがベルリン・フィルのメンバーをソリストにしてモーツァルトの管楽器の協奏曲を録音した時の、アンドレアス・ブラウ(ソロ)、とジェームズ・ゴールウェイ(オーケストラ)の場合とまったく同じことが起こっていたのです。

SACD Artwork © Pentatone Music B.V.

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by jurassic_oyaji | 2018-07-14 20:40 | フルート | Comments(0)
VASKS/Flute Concerto, Symphony No.3
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Dita Krenberga(Fl)
Atvars Lakstīgala/
Liepāja Symphony Orchestra
WERGO/WER 7349 2


バルト三国の一つラトヴィアの作曲家、ペーテリス・ヴァスクスが、いかに自国民に愛されているかというのは、2010年に初録音された「フルート協奏曲」が、2016年に再度録音されたことでも分かります。「現代音楽」でのそのような厚遇は非常に稀なことですからね。さらに、初演と初録音のフルーティストは献呈者のミヒャエル・ファウストでしたが、もちろん今回は「自国民」のディタ・クレンベルガが演奏、バックも作曲家の生地に近いリエパーヤのオーケストラという、自国愛に満ちた布陣です。
その「フルート協奏曲」の再録音は、初録音盤と比べると印象がかなり変わっていました。それは、当然のことですが、フルーティストの違いが大きな要因です。
初録音盤のファウストは、もちろんテクニックは完璧で、とても難しいパッセージでも楽々とこなしていましたが、表現がどこか淡々としていたな、という気がしていました。しかし、今回のクレンベルガはとても「熱い」演奏に終始しているようでした。これは彼女の資質なのでしょうが、とにかくビブラートが豊富なために、全ての音に「気合」が入っているのですね。これは、この協奏曲の両端のゆったりとした楽章では、ほとんど涙を誘うほどの情熱となって伝わってきます。
さらに、かなり攻撃的な真ん中の楽章では、とても難しい細かなパッセージに果敢に立ち向かっていますし、超絶技巧満載のカデンツァでも圧倒的な存在感を見せつけています。低音にはありったけのパワーが込められていますし、ジャズ・フルートのように声を出しながら同時にフルートを吹くという技法で書かれたところでも、正確なソルフェージュを見せてくれています。
ただ、何事も度を越してしまうとうざったく感じられるもので、ここでのフルートはそんなパワーに圧倒されつつも、そのあまりのヒステリックさには正直付いていけないところがありました。
しかし、もしかしたら、そんなうざったさはある意味この作曲家の本質なのではないか、という思いにもかられてしまうのが、カップリングの「交響曲第3番」です。
この交響曲はフィンランドのタンペレ・フィルからの委嘱で作られ、2005年11月25日にジョン・ストゥールゴールズの指揮で初演されています。そして、翌年3月には同じメンバーによってONDINEレーベルに録音されました。やはり2006年の3月には、ノルムンズ・シュネ指揮のリガ・フェスティバル管弦楽団によってラトヴィア初演が行われました。それから10年間はこの交響曲は演奏されることはありませんでしたが、2016年の5月にこのアルバムのための録音がリエパーヤのコンサートホールで行われ、10月には同じ場所でコンサートも行われています。
そもそもは、15分程度の序曲のようなものという委嘱だったものが、「内なる声」に従って作曲を進めるうちに、曲想はどんどん膨らんでいってこんな40分もかかる作品が出来上がってしまったのだそうです。
曲は切れ目なくつながっていますが、その雰囲気によっていくつかのパートには分かれています(このCDではとりあえず6つの部分に分けています)。しかし、それぞれのパートの中でも、突然曲調が変わったりしていますから、それはほとんど意味をなしません。
全体的には、とても賑やかな部分が大半を占めているのという印象を受けます。それは、打楽器を多用した派手なオーケストレーションで迫ってきますが、時折滑稽とも思えるようなパッセージ(「ちゃっちゃかちゃっちゃっちゃ」という、軽薄なリズム)が現れるのには、和みます。
それとは対照的に、まるで心が浄化されるような透明性の溢れる部分が出現するのが、一つのサプライズでじょうか。曲全体のエンディングで、アルトフルートのソロが延々と続くところでは、それまでの、しつこいほどに盛り上がりを繰り返すだけの押しつけがましい音楽を、つい忘れてしまいそうになります。

CD Artwork © Schott Music & Media GmbH

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by jurassic_oyaji | 2018-07-05 20:49 | フルート | Comments(0)
BEETHOVEN/Works for Flute・2
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瀬尾和紀(Fl)
上野真(Pf)
児玉光生(Fg)
NAXOS/8.573570


先日の「1」に続いて、瀬尾和紀さんによるベートーヴェンのフルート作品のアルバムの「2」が登場しました。今回は、前回と同じメンバーはファゴットの児玉さん、そして、ピアノの上野さんが新たに参加しています。
前回は瀬尾さんの最近のポートレイトをご紹介しましたが、たまたま来月仙台市内で瀬尾さんと、ギタリストの大萩康司さんのコンサートが開かれることになっていて、そのチラシを手にしたら、大萩さんの方も年相応の貫録が付いていたことが分かりました。
これがデビューしたころの大萩さんのCDのジャケット。
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これが、最近のポートレイトです。
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瀬尾さん以上に印象が変わってしまっていますね。
ということは、お二人とも長年にわたって順調にキャリアを築き上げてきている、ということになるのでしょうね。これからも、末永いご活躍を期待したいものです。
今回の「2」では、最初の曲は、なんと前回と同じ「セレナード」でした。ただ、前回はフルート、ヴァイオリン、ヴィオラという編成だったものが、今回はフルートとヴィオラに変わっていますし、作品番号も「Op.25」だったものが「Op.41」になっています。
この時代は作曲家自身が自分の作品に番号を付けるということはなく、この番号は、言ってみれば商品の品番のように、出版社が付けていました。ですから、この「セレナード」の場合も、ベートーヴェンが以前の作品に手を入れて新しい作品として出版したのではなく(それだったら、作品番号も「Op.25a」みたいにするはず)、出版社が勝手に旧作に手を入れて、より需要の高い編成に直し(フルートではなく、ヴァイオリンで弾いても構わないようになっています)さも新しい作品であるかのように、新たな作品番号を与えて出版したのです。現に、ベートーヴェンは出版社に対して、「これは私の作品として出版してはいけない」と抗議していますからね。
まあ、そんな経緯は関係なく、今ではとても貴重なベートーヴェンによるフルートとピアノのためのレパートリーとして、リサイタルでは重宝されています。オリジナルの編成ではなかなか手軽に演奏できませんからね。
一応、この「編曲」は、オリジナルのフルートのパートはそのままに、残りのパートをピアノに弾かせるようにしているようになってはいます。ただ、フルートのパートは全く同じではなく、編曲者の裁量で少し変わっている部分がないわけではありません。例えば、第2楽章では、オリジナルが冒頭からフルートが優雅なメヌエットのテーマを演奏しています。
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しかし、この編曲ではその前半はピアノだけで演奏されています。そして途中からフルートが本来のパートを吹き始めるのですが、
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その音が、こんな風にオクターブの跳躍で始まっています。せっかくのフルートの美しいメロディをピアノに横取りされたうえに、こんな乱暴な入り方を強いられるのですから、これはとてもダサいセンスですね。
それと、第4楽章のスケルツァンドでも、トリオに入るところで、同じようにピアノがフルートのとてもおいしい旋律を持って行ってしまっています。
続いて演奏されているのが、「フルート・ソナタ」ですが、これは今では完全に偽作とされていますから、単にベートーヴェンの同時代の作曲家の何ということはない作品という以上の感慨はありません。
ただ、最後の「三重奏曲」は、きちんとベートーヴェンの自筆稿が残っているので、真作であることは間違いありません。これも編成は特殊で、正式なタイトルは「クラヴィチェンバロ、フルート、ファゴットのためのトリオ・コンチェルタント」というのだそうです。これは、自らがファゴットを演奏し、息子はフルート、娘はピアノを演奏するヴェスターホルト伯爵一家のために作られたのだそうです。これは、その3人に成り代わったこの録音での3人の名人芸をいかんなく堪能できるとても楽しい作品です。ここには確実に一過性には終わらない魅力があります。

CD Artwork © Naxos Rights US, Inc.

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by jurassic_oyaji | 2018-06-23 22:58 | フルート | Comments(0)
BACH, TELEMANN/Suite for Flute & Orchestra
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Julius Baker(Fl)
Anthony Newman/
Madeira Festival Orchestra
VOX/MCD 10008


「VOX」というのは、1945年、まだSPレコードの時代にアメリカで創設されたレーベルです。LPの時代になると、主に廉価盤を中心に活発にリリースを行っていました。サブレーベルである「TURNABOUT」とともに、オールド・ファンには懐かしい名前なのではないでしょうか。
しかし、このレーベルはいつの間にか別の会社に身売りをしてしまい、今ではもはや新しい録音は全く行っていません。それが最近、なぜか「新譜」として数アイテムが発売されました。その中にこんなジュリアス・ベーカーが1981年に録音したアルバムが入っていたので、購入してみました。オリジナルは聴いたことはありませんでしたから。
そこで現物を見てみると、「VOX」の他に「MMG」というロゴも入っています。たぶん、過去のVOXのカタログの権利を持っているレーベルなのでしょうね。そして、このCDのコピーライトを見てみると「© Vox Classics/Naxos Music Group」とありました。どうやら、いつの間にかそんなVOX関連のレーベルが、まとめてあのNAXOSの傘下に入っていたようですね。
一応、バックインレイには「An Original Digital Recording」というコメントがありますから、この頃始まったばかりのデジタル録音だったことは分かります。ただ、このCDを聴くと、デジタル録音らしからぬグラウンド・ノイズがかなり入っています。
音源がこれと全く同じCDで、1986年に「VOX ALLEGRETTO」というレーベルからリリースされたもの(ACD 8194)がNMLで見つかったので聴いてみたのですが、そこでも同じようなノイズが派手に聴こえてきました。ということは、おそらく、オリジナルのエンジニアがプロとは言えないようないい加減な耳の持ち主だったのでしょう。
しかし、そんな劣悪な音でも、その中から聴こえてくるベーカーのフルートの凄さはきっちりと伝わってきます。音の粒はあくまで滑らか、そして彼の最大の魅力である強靭なソノリテは、低音から高音までとてつもない存在感を誇っています。
ベーカーがこれを録音したのは65歳の時、まだニューヨーク・フィルの首席奏者は務めていて、引退するのはこの2年後になります。その後も、たとえばバーンスタインが1984年に自作の「ウェストサイド・ストーリー」を録音した時には、スタジオ・ミュージシャンとして参加して、その健在ぶりをアピールしていましたね。
これは、ポルトガルのマデイラ島で行われた音楽祭で録音されたものです。ノイズはあるものの客席の音は全く聴こえませんから、おそらくライブ録音ではなく、セッション録音なのでしょう。
まずはバッハの組曲第2番。これはフルートとオーケストラのための作品として有名ですね。さすがに、この頃になるとバッハなどのバロック音楽に対する演奏家の姿勢もそれまでの重々しいものからもっとしなやかなものに変わっていますから、ベーカーの演奏もバッハの最初の序曲などはかなり早いテンポになっています。もちろん、フランス風序曲として、楽譜では付点音符で書かれていても、もっと長めに演奏することも徹底されています。さらに、自由な装飾を付けるのも推奨されるようになった時代ですから、時折聴いたこともないようなフレーズが聴こえてくることもあります。一番すごいのは3曲目の「サラバンド」で、繰り返しの時にフルートが完全にオリジナルの旋律を吹きはじめることでしょうか。現在では、いくらなんでもここまでやる人はいないでしょうから、これはとても貴重な「記録」です。シンバルまでは入っていません(それは「サルバンド」)。
続いてテレマンの組曲イ短調です。オリジナルはリコーダーとオーケストラという編成ですが、フルートで演奏されることもあり、ベーカー以前にもランパルやゴールウェイが録音していました。ここでは、この作曲家特有の技巧的なメリスマを、いとも涼しげに吹いているのが聴きもの。その流れにオーケストラが付いていけなくなるようなところもあって、とてもスリリングです。それにしても、ベーカーのブレスの長いこと。

CD Artwork © Vox Classics/Naxos Music Group

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by jurassic_oyaji | 2018-06-19 23:57 | フルート | Comments(0)
FANTASIE | SONATE/Music for flute & Piano
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Miriam Terragni(Fl)
Catherine Sarasin(Pf)
COVIELLO/COV91730


ミリアム・テラーニという、初めて名前を聞いたスイスのフルーティストのアルバムです。ジャケットの写真を見た限りではかなり若い方のようですね。さらに、ブックレットの中の写真を見てみると、これは・・・ほとんど「ギャル」じゃないですか。
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でも、油断をしてはいけません。彼女の公式サイトに行ってみると、こんな写真もありましたよ。
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これだと、しっかり「おばさん」になってますね。いったい、どちらが現物に近い写真なのでしょうか。もちろん、どこを探しても彼女の生まれた年を見つけることはできませんでした。
ここで、彼女とピアニストのキャサリン・サラシン(というのが代理店の読み方。でも、たぶん別な読み方でしょう。これだと「サラ金」みたい)が取り上げている曲目を見て、軽い驚きがありました。それは、とてもこんなケバい「ギャル」には似合わない、恐ろしく渋い曲ばかりだったのです。ここには7人の作曲家の名前がありますが、知っているのはワーグナーとブーランジェだけでした。ワーグナーは有名ですが、ここで演奏されているのは全く知らない曲でしたし。
ということで、このCDでは、もはや音楽史に名前も残っていないようなロマン派周辺の作曲家の珍しい作品が演奏されていたのでした。もちろん、ほとんどのものが世界初録音です。
まずは、1850年生まれのマックス・マイヤー=オルバースレーベンという人が作った「ファンタジー・ソナタ」です。この方はフランツ・リストの弟子だったそうですね。この曲は、今でも楽譜が容易に入手でき、コンサートでも演奏されることもあるのでこれが初録音ではありません。ドイツ語で「Lebhaft(いきいきと)」、「Ständchen(セレナード)」、「Bacchanale(バッカナーレ)」という表記のある3つの楽章で出来ていて、演奏時間は20分以上かかります。
これは、なかなか聴きごたえのある充実した作品で、確かにこの時代には極端に少なくなっているフルートのレパートリーとしては、とても貴重なものになるでしょう。楽章ごとのキャラクターがはっきりしていますし、超絶技巧が要求されるメカニカルな部分と、しっとり歌い上げる抒情的な部分が程よく調和しています。
ところが、です。このフルーティストの演奏からは、おそらくこの作品、いや、この時代のすべての作品に必要なはずの「ロマンティック」な「ファンタジー」が全く感じられないのですよ。確かに、彼女のテクニックは完璧、どんなに難しいパッセージでも軽々とすべての音をきちんと出すことが出来ています。ですから、たとえば第1楽章のような元気な部分では胸のすくような「技」が披露されていて、そういう意味での快感を味わうことは可能です。しかし、そのような場面でも、たとえばフレーズの最後の音があまりに無神経にバッサリ切られたりすると、いったいこの人はこれまでどんな姿勢で音楽に立ち向かっていたのかな、という疑問が湧いてきてしまいます。
ですから、しっかりとした「歌心」が必要な第2楽章は悲惨です。ここに来て長めの音が出てくるときには、あのシャロン・ベザリーのような、音を真ん中でふくらますというとてもみっともない吹き方が彼女の癖であることが分かります。さらに、ピッチが微妙に悪くて、それが旋律線の方向性を失わせることになっているのですね。最後に高音のピアニシモで伸ばす箇所では、常に低めの音になっていますし。
ですから、もうこの1曲を聴いただけで十分な失望感は味わってしまい、それ以降は聴いても無駄だな、とは思ったのですが、せっかくの「世界初録音」ですのでそれら、アウグスト・ヴィルヘルミ、レオン・モロー、ルイ・マソン、ヴィクトル・アルフォンス・ドゥヴェルノワといった作曲家の曲も聴いてみましょうか。なんせ、ムラマツの楽譜検索でも、ドゥヴェルノワ(曲集の中)以外には楽譜すら見つかりませんからね。
この中では、モローの「Dans la forêt enchantée(魔法の森で)」という曲が、様々な情景の描写が盛り込まれた素敵な魅力を持っていました。

CD Artwork © Coviello Classics

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by jurassic_oyaji | 2018-06-14 20:42 | フルート | Comments(0)
WESTERHOFF/Viola and Flute Concertos
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Barbara Buntrock(Va)
Gaby Pas-Van Riet(Fl)
Andreas Hotz/
Symphonieorchester Osnabrück
CPO/777 844-2


クリスティアン・ヴェスターホフという、おそらく誰も聴いたことのない名前の作曲家のアルバムです。この方は1763年に北ドイツのオスナブリュックという街の音楽家の家に生まれました。今回のCDで演奏しているのが、そのオスナブリュックのオーケストラ、さらに、これを制作したレーベルもオスナブリュック(Classic Produktion Osnabrück)という、「オスナブリュックづくし」のアルバムということになります。大体女性ですが(「オスのブリッコ」はあまりいない?)。
ということで、ヴェスターホフは、最初は父親から音楽の手ほどきを受け、1786年頃にはブルクシュタインフルトの宮廷楽団にトゥッティのヴァイオリン奏者とソロ・コントラバス奏者として加わります。しかし、1790年にはそこを辞め、ソリスト、作曲家として活躍、1790年代後半にはビュッケブルクの宮廷楽団に、コンサートマスター、ヴァイオリン奏者、ヴィオラ奏者として雇われ、1806年にその地で亡くなります。
彼が作ったヴィオラ協奏曲は全部で4曲残されていますが、それらはいずれも出版はされていません。おそらく、それは彼自身がソリストを務めて演奏されたものなのでしょうが、その楽譜にはヴィオラ奏者ならではの「企業秘密」みたいなものが書き込まれてあったので、あえて公表はせずに自分だけにものにしていたのかもしれません。あるいは、その楽譜にはおおざっぱなプランしか書かれてはおらず、本当の超絶技巧のようなものは彼の頭の中にしかなかったのかもしれませんね。このアルバムに収録されている「第1番」と「第3番」のヴィオラ協奏曲では、カデンツァが一切演奏されていないことからも、そのような事情が覗えます。
とは言っても、ここで聴かれる彼のヴィオラ協奏曲には、技巧的なフレーズが充分に盛り込まれていました。「第3番」の最後の楽章などは民謡調のとてもシンプル(「幼稚」と言ってもいいかも)なテーマが堂々とした変奏曲に仕上がっています。
これらは、どちらも弦楽合奏に2本のフルートと2本のホルンが加わったというあっさりとしたオーケストラがバックに用いられています。おそらく弦楽器の人数もそれほど多くはないのでしょう。ここでのソリストは一時ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の首席ヴィオラ奏者を務めたこともあるバルバラ・ブントロック、彼女の音は適度の存在感を持って聴こえてきます。
音楽としては、もろに同時代のモーツァルトの様式を反映したものですが、長調の曲の中にさりげなく短調のフレーズを忍ばせるなど、なかなかのセンスも見られます。
そして、もう1曲、フルートのための協奏曲も入っていました(というか、これがお目当てでした)。こちらはしっかり出版もされて、「作品6」という作品番号も与えられていますから、間違いなく他人が演奏することを想定して作られたものなのでしょう。ただ、これはヴィオラ協奏曲と比べるとずいぶん力が入っているのだなと感じてしまいますね。オーケストラの編成にティンパニとトランペットが入っていて、これが第1楽章と第3楽章でとても華々しく活躍しているんですよね。例えばモーツァルトの協奏曲では、たまにピアノ協奏曲でこの二つの楽器が入っているものはありますが、管楽器やヴァイオリンの協奏曲ではまずこんな派手な楽器は使われてはいませんから。
驚くべきことに、そんなありえない編成なのに、フルート・ソロにはそれに十分に応えられるほどの華やかさとスケールの大きさが備わっているのです。もちろん、そのように感じられるのはここでのソリスト、リエトの卓越したテクニックと輝かしい音色によるところが大きいはずです。
彼女は1983年からSWRシュトゥットガルト放送交響楽団の首席奏者を務めていましたが、どうやら現在では引退しているようですね。でも、彼女のここでの存在感は、共演しているこの田舎オケの現役のフルート奏者とは雲泥の差です。

CD Artwork © Classic Produktion Osnabrück

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by jurassic_oyaji | 2018-05-17 20:22 | フルート | Comments(0)
The Hour of Dreaming
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Lorna McGhee(Fl)
Piers Lane(Pf)
BEEP/BP41


前回のアルバムでベネットと共演していたローナ・マギーのソロ・アルバムです。レーベルは前回と同じベネットのプライベート・レーベルBEEPで、品番も1番違いです。どうやら、このレーベルは代理店がそれほど熱心ではないようで、2014年あたりにリリースされたものが、今頃やっとまとめて何枚かリリースされています。
ローナ・マギーはスコットランド生まれ。スコットランド王立音楽院でデイヴィッド・ニコルソンに師事したのち、ロンドンの王立音楽院でベネットの弟子となります。さらにアメリカのミシガン大学と、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学でも研鑽をつみ、現在ピッツバーグ交響楽団の首席奏者を務めています。
これまでも多くのレーベルから室内楽のアルバムは多数リリースしているようですが、ピアノ伴奏によるソロ・アルバムはこれが最初なのかもしれません。とは言っても、ここで彼女が選んだレパートリーは、ほとんどが元々はフルート以外の楽器のために作られた作品や歌曲などだというところに、彼女のユニークなところがあります。こういうところは、師ベネット譲り?
そもそも「The Hour of Dreaming」というタイトルからして、なんだかおしゃれです。これは、彼女がここで演奏しているレイナルド・アーンの歌曲「L'heure exquise」のタイトルの英訳、日本語の定訳はフランス語の意味をそのまま伝える「いみじき時」ですが、英語ではなぜか「Dreaming」という単語が使われています。
ですから、これだけ見ると、いかにもなそれこそ夢見るようなうっとりする曲が集められているように思ってしまいますが、そんな先入観は実際に彼女のメリハリのあるアグレッシブな演奏を聴くと吹っ飛んでしまいます。
彼女がこのアルバムで中心に据えていたのは、このアーンではなくドビュッシーのヴァイオリン・ソナタでした。このドビュッシー最晩年の傑作を、彼女は1929年に録音されたジャック・ティボーとアルフレッド・コルトーの演奏を聴いて、衝撃を受けたのだそうです。ティボーのヴァイオリンからは、まさにフルートで演奏しているかのようなサウンドが感じられ、実際にフルートのために編曲したくなったのだとか。
それはまさに「フルート・ソナタ」以外にはありえない、と思えるほどの完成度を見せていました。なによりも、時間とともに移りゆく音色の変化の素晴らしいこと。それは、その瞬間の和声の変化までもしっかり感じることのできるとてもカラフルなものでした。
ドビュッシーではもう一つ、オリジナルはピアノ曲でゴールウェイなどにも演奏されていて馴染みのある「La plus que Lent(レントより遅く)」があります。しかし、彼女の演奏は、そのゴールウェイとは全く異なるアプローチでした。ゴールウェイは何よりも流れを重視した包み込むような音楽を提供していたものが、マギーはこの曲のリズミカルな側面に着目していたのです。冒頭のアウフタクトから音にアクセントを付けて3拍子のリズムを強調、そんなまるで「ダンス」のような魅力をこの曲から引き出していましたよ。
そんなことを可能にしたのは、彼女の低音がとてもエネルギッシュなものだったからなのでしょう。その鋭角的なタンギングは、それこそピアノの左手のベースすらもきっちりと表現できるほどの力を持っていました。
そんなタンギングは、ヴァイオリンの超絶技巧を駆使した名曲でも冴え渡っていました。ヤッシャ・ハイフェッツなどの名人が「よっしゃ」と好んで演奏したヴィニアフスキの「スケルツォ」などでは、まさに「舌を巻く」ほどの切れの良いフレーズを満喫できます。
彼女はこの手の曲を本当に楽しんで演奏しているようで、これ以外にもメンデルスゾーン、カゼッラ、マルティヌーなどの作品でも、単なる曲芸技には終わらない、真に愉悦感を伴った名人芸を聴かせてくれています。
それでいて、レガートやロングトーンの美しいこと。こんな無理なく響いてくる高音には、脱帽です。

CD Artwork © Beep Records

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by jurassic_oyaji | 2018-05-12 20:32 | フルート | Comments(0)
Mel Bonis, Mendelssohn & Brahms
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William Bennett(Fl)
Lorna McGhee, Emm Halnan(Fl,Alto Fl,Picc)
John Lenehan(Pf)
BEEP/BP42


1936年2月に生まれたイギリスのフルーティスト、ウィリアム・ベネットが、2014年の1月と3月に録音したアルバムです。ちょうど録音をしている間に78歳になっていたことになりますね。78歳!驚きますね。そもそも、そんな歳になってまともな演奏などできるものなのでしょうか。
ベネットの「78歳」は、しかし、信じられないことに、何の衰えも感じられないものでした。このアルバムからは、今まで聴いてきた彼の演奏と全く同質の、芯のある音と確かなテクニック、そして豊かな音楽性が伝わってきたのです。
たしかに、彼の特徴であった鋭角的なビブラートは、多少コントロールが利かなくなっているようなところは見られます。ディミヌエンドで音を小さくしていくと、ビブラートの谷間で音が完全になくなってしまって、ロングトーンが細かい音符のように聴こえたりすることがあるのですね。あるいは、完璧だったピッチに、ほんのわずかの狂いが見られるようなところもないわけではありません。でも、それらは彼の作り出す音楽の中では無視できるほどの瑕疵でしかありません。なによりも、年齢からは考えられないような長いブレスから繰り出される息の長いフレージングには心底驚かされます。
ここで取り上げられている曲目も、とてもユニークでした。まずは、メンデルスゾーンが14歳の時に作ったヴァイオリン・ソナタを、フルートで吹いています。
メンデルスゾーンは、フルートのためのソナタこそ作ってはいませんが、そのオーケストラ作品の中でのフルートの使い方は、例えば「真夏の夜の夢」の中の「スケルツォ」などはとても技巧的でソリスティックですから、この楽器の持ち味を存分に発揮させる術は心得ていたはずです。このヘ短調のヴァイオリン・ソナタも、彼がロンドンに行った時に、有名なフルーティストのチャールズ・ニコルソンからフルート・ソナタにしてもらえないかと頼まれたという逸話が残っているほどです。
すでに、これをフルート・ソナタに直して出版された楽譜はありますが、ここではベネット自身が編曲したものが演奏されています。堂々たる序奏に続く愁いをたたえた第1楽章、端正で、まるでシューベルトのような深みのある歌心が満載の第2楽章、そして、やはりロマン派ならではの愁いが込められた軽快な第3楽章と、ベネットはまさにフルートならではの語り口で、その魅力を伝えてくれていました。
ここにタイトルにはないフォーレの「小品」というかわいらしい曲が挟まって、最近になってその作品が見直されている女性作曲家、メル・ボニのフルート・ソナタです。彼女はデブではありません(それは「メタ・ボ」)。この曲はすでに何枚かのアルバムをここでも紹介していますが、今回のベネット盤の登場で、数少ないロマン派のフルート・ソナタとしての地位をライネッケの「ウンディーヌ」とともに確実にすることでしょう。第2楽章と第4楽章の忙しいパッセージも、ベネットは軽々と吹いています。
そして、やはりタイトルにはないドヴォルジャークの歌曲「わが母の教えたまいし歌」をフルートで演奏した後、ブラームスのコーナーになります。ここからフルートはソロではなく、まずはソプラノとアルトのための二重唱「海」が2本のフルート(とピアノ)で演奏された後に、2本か3本のフルート(とピアノ)で演奏されるピアノ連弾のための「ワルツ集」が続きます。
これも、ベネットの編曲ですが、たまにフルートだけではなくピッコロやアルトフルートが入るのが、バラエティに富んで聴きごたえがあります。それを2人の女子のお弟子さんと一緒に楽しんでいるベネットがすごくかわいいですね。このワルツ、全然知らない曲だと思っていたら、最後の変イ長調の曲が超有名なあの「ブラームスのワルツ」じゃないですか。アルトフルートの柔らかい低音が、とっても粋ですね。
こんなことが出来る78歳になりたいな、としみじみ思ってしまいましたよ。

CD Artwork © Beep Records

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by jurassic_oyaji | 2018-05-10 21:14 | フルート | Comments(0)
DOTZAUER/Flute and Oboe Quartets
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Markus Brönnimann(Fl), Barbara Tillmann(Ob)
Ulrike Jacoby(Vn), Murial Schweizer(Va), Anta Jehli(Vc)
(Ensemble Pyramide)
TOCCATA/TOCC 0421


「ドッツァウアー」などというツッコミみたいなユニークな名前(それは「ドッチヤネン!」)は、普通に生活を送っている人々ではまず聞くことはないでしょうが、チェロを学ぶ人だったら誰でも知っているのでしょうね。フルートを学ぶ人にとっての「ケーラー」とか「フュルステナウ」みたいなものでしょうか。そう、このフリードリヒ・ドッツァウアーという人は、チェロのための練習曲を作ったことでのみ音楽史に名前を残しているドイツの作曲家なのです。
彼が生まれたのは1783年、あのベートーヴェンが生まれた13年後ですね。小さいころから多くの楽器を学びますが、最終的に彼が選んだのがチェロでした。1801年には、弱冠18歳でマイニンゲンの宮廷管弦楽団のチェリストになり、その4年後にはライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団に入団します。1808年には、このオーケストラによるベートーヴェンの「トリプル・コンチェルト」の初演に、チェリストとして登場していましたね。
1810年には、ドレスデンの宮廷管弦楽団(現在のシュターツカペレ・ドレスデン)に移籍、1852年に引退するまでこのオーケストラの団員を務めました。そのかたわら、ソリストとしてもヨーロッパ中で活躍、引退の8年後の1860年に亡くなります。
そして、彼は作曲家としてもチェロのための曲だけではなく、オペラや交響曲といった「普通の」作品も数多く残しています。そんな中には、今回初めて録音された「フルート四重奏曲(Fl,Vn,Va,Vc)」や「オーボエ四重奏曲(Ob, Vn,Va,Vc))」などもあったのでした。
もちろん、これらは全て出版されていたものなのですが、現在ではもはや絶版になっているようですね。ムラマツの楽譜検索サイトでもドッツァウアーのフルートのための作品は全くありません。
1815年に作られた「オーボエ四重奏曲ヘ長調Op.37」は、ドレスデンのオーケストラの同僚、カール・クンマー(ワーグナーに「今まで会った中で最高のオーボエ奏者」と言われたそうです)の影響によって作られました。アレグロ、アンダンティーノ、メヌエット、ロンドという、古典派の型通りの4つの楽章から出来ていますが、第1楽章では最初のテーマが出てきてすぐに転調するという、もはやロマン派の作風が現れています。技巧的にも高いものが求められていて、オーボエには難しそうはハイ・ノートが頻繁に使われているのもスリリングです。第2楽章では、短調のテーマがオーボエによって奏でられますが、長調に変わった中間部ではオーボエは休みで弦楽器だけ、そのあとまた長調になって最初のテーマがやはりオーボエで変奏されます。第3楽章は、ベートーヴェンの「七重奏曲」とよく似たテーマが聴こえますし、最後のロンドはウェーバーのようなロマンティックな楽想です。
そして、ドッツァウアーはフルート四重奏曲を3曲作っていました。そのうちの最初の「イ短調Op.38」(1816年)と最後の「ホ長調Op.57」(1822年)がここでは演奏されています。この2曲を比べると、この6年間の隔たりでフルート・パートの技巧が桁外れに難しくなっていることがはっきり分かります。それは、この間の1820年にドッツァウアーが冒頭に書いた「フュルステナウ」と親友になったからです(アントン・ベルンハルト・フュルステナウは当時のドレスデンでフルートのソリストとして大活躍していて、彼の練習曲は最高難度を要求されるものです)。
Op.38はとてものびやかな感じで美しいメロディを歌い上げるようなタイプの曲だったものが、Op.57になると、大胆な跳躍や半音音階の進行など、華々しい技巧が全面に取り入れられるようになっています。楽譜が入手できれば、ぜひとも吹いてみたい曲です。
ここでフルートを演奏しているのは、ルクセンブルク・フィルの首席奏者のマルクス・ブレンニマンという人です。技巧の冴えは目覚ましく何の問題もないのですが、それだけに終わってしまっているもどかしさを感じないわけにはいきません。

CD Artwork © Toccata Classics

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by jurassic_oyaji | 2018-05-04 20:12 | フルート | Comments(0)
FELD, WEINBERG, THEODORAKIS/Flute Works
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Kathrin Christians(Fl)
Ruben Gazarian/
Württembergisches Kammerorchester Heilbronn
HÄNSSLER/HC19099


カトリン・クリスティアンスという、全く聞いたことのないフルーティストのアルバムです。甘いお菓子ですね(それは「カリント」)。演奏しているのがフェルトとワインベルクの協奏曲というので聴いてみることにしました。まあ、このジャケットもインパクトがありましたけどね。何しろ、海の中の桟橋で、裸足になってフルートを吹いているのですから。もうしぶきが当たるぐらいのほとんど海の中、楽器に悪影響はないのか心配になってしまいます。まっ、合成かもしれませんがね。
彼女の現在のポストはハイデルベルク交響楽団の首席奏者ということなので、そのサイトに行ってみたのですが、なぜかメンバー紹介のページがどこにもありませんでした。アマチュアならいざ知らず、プロのオーケストラで全員のメンバーが公開されていないサイトもあるんですね。なんでも彼女は23歳でこのポストに就いたのだそうです。
ここで共演しているのは、そのオーケストラではなく、ハイルブロンにあるヴュルテンベルク室内オーケストラという団体です。ここは、かつてゴールウェイと一緒にバッハ親子やクヴァンツなどのアルバムを作っていたところですね。
余談ですが、ゴールウェイの場合、デビュー・アルバムこそケネス・ウィルキンソンという大物エンジニアが担当していたものの、その後マイク・ロスという人がメインで録音を行うようになると、なんともポリシーが見えてこない残念な録音ばかりになっていました。そんな中で、このヴュルテンベルク室内オーケストラとの録音では、リリンクのカンタータ全集などを手掛けていたテイエ・ファン・ギーストがエンジニアだったので、いつものゴールウェイとは一味違う納得のいく音が聴けたような印象があります。
それは1989年から1993年にかけてのこと、今では指揮者も変わっていますから、音も全然違っているようでした。というより、最初に聴こえてきたインドルジッヒ・フェルトの「協奏曲」が、弦楽合奏にピアノとハープと打楽器が加わるというユニークな編成だったので、そんな風に感じてしまったのかもしれません。フェルトと言えば、そのゴールウェイも録音していた「フルート・ソナタ」が有名ですが、こちらの「協奏曲」の方は初めて聴きました。
この協奏曲は1954年に作られているので、1957年に作られたソナタとは作曲時期はそんなに違っていないのですが、その作風はかなり異なっているような印象を受けます。なによりも、この変な編成で特にピアノや打楽器がもたらすリズムが、彼が影響を受けたというバルトークとそっくりなんですね。これはソナタには見られないものです。さらに、第2楽章になるとティンパニの連打に乗って弦楽器がねっとりとした音楽を奏でるという、ほとんどブラームスの交響曲第1番の冒頭のような重々しさがあります。3楽章になってやっと、ソナタと同質の軽さが見られるようになるでしょうか。それは殆どハチャトゥリアンやプロコフィエフを連想させるテイストです。
そんな中でソリストのクリスティアンスは、ちょっと不思議な音を聴かせてくれています。なんか焦点のぼけた芯のない音なんですね。高音には変な倍音が混ざっていてクリアさがないというか。逆に低音は殆どサインカーブのようなピュアな音なので、迫力がまるでありません。指はとても回るので爽快感はありますが、なにかイマイチ物足りません。
ミェチスワフ・ヴァインベルクの「フルート協奏曲第2番」は、今まで何度も聴いてきましたが、ここではそれを弦楽オーケストラのために書き換えたバージョンが演奏されています。なんでも、その形での世界初録音なのだとか。この曲には、ソロのフルートがオーケストラの中の管楽器と絡む場面が数多く登場しますが、ここではそれらが全て弦楽器に置き換わっているので、かなりの違和感があります。それが、このソリストのモノクロームな音色には合っているのでしょうが。

CD Artwork © Profil Medien GmbH

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by jurassic_oyaji | 2018-04-21 21:00 | フルート | Comments(0)