おやぢの部屋2
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カテゴリ:フルート( 221 )
FELD, WEINBERG, THEODORAKIS/Flute Works
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Kathrin Christians(Fl)
Ruben Gazarian/
Württembergisches Kammerorchester Heilbronn
HÄNSSLER/HC19099


カトリン・クリスティアンスという、全く聞いたことのないフルーティストのアルバムです。甘いお菓子ですね(それは「カリント」)。演奏しているのがフェルトとワインベルクの協奏曲というので聴いてみることにしました。まあ、このジャケットもインパクトがありましたけどね。何しろ、海の中の桟橋で、裸足になってフルートを吹いているのですから。もうしぶきが当たるぐらいのほとんど海の中、楽器に悪影響はないのか心配になってしまいます。まっ、合成かもしれませんがね。
彼女の現在のポストはハイデルベルク交響楽団の首席奏者ということなので、そのサイトに行ってみたのですが、なぜかメンバー紹介のページがどこにもありませんでした。アマチュアならいざ知らず、プロのオーケストラで全員のメンバーが公開されていないサイトもあるんですね。なんでも彼女は23歳でこのポストに就いたのだそうです。
ここで共演しているのは、そのオーケストラではなく、ハイルブロンにあるヴュルテンベルク室内オーケストラという団体です。ここは、かつてゴールウェイと一緒にバッハ親子やクヴァンツなどのアルバムを作っていたところですね。
余談ですが、ゴールウェイの場合、デビュー・アルバムこそケネス・ウィルキンソンという大物エンジニアが担当していたものの、その後マイク・ロスという人がメインで録音を行うようになると、なんともポリシーが見えてこない残念な録音ばかりになっていました。そんな中で、このヴュルテンベルク室内オーケストラとの録音では、リリンクのカンタータ全集などを手掛けていたテイエ・ファン・ギーストがエンジニアだったので、いつものゴールウェイとは一味違う納得のいく音が聴けたような印象があります。
それは1989年から1993年にかけてのこと、今では指揮者も変わっていますから、音も全然違っているようでした。というより、最初に聴こえてきたインドルジッヒ・フェルトの「協奏曲」が、弦楽合奏にピアノとハープと打楽器が加わるというユニークな編成だったので、そんな風に感じてしまったのかもしれません。フェルトと言えば、そのゴールウェイも録音していた「フルート・ソナタ」が有名ですが、こちらの「協奏曲」の方は初めて聴きました。
この協奏曲は1954年に作られているので、1957年に作られたソナタとは作曲時期はそんなに違っていないのですが、その作風はかなり異なっているような印象を受けます。なによりも、この変な編成で特にピアノや打楽器がもたらすリズムが、彼が影響を受けたというバルトークとそっくりなんですね。これはソナタには見られないものです。さらに、第2楽章になるとティンパニの連打に乗って弦楽器がねっとりとした音楽を奏でるという、ほとんどブラームスの交響曲第1番の冒頭のような重々しさがあります。3楽章になってやっと、ソナタと同質の軽さが見られるようになるでしょうか。それは殆どハチャトゥリアンやプロコフィエフを連想させるテイストです。
そんな中でソリストのクリスティアンスは、ちょっと不思議な音を聴かせてくれています。なんか焦点のぼけた芯のない音なんですね。高音には変な倍音が混ざっていてクリアさがないというか。逆に低音は殆どサインカーブのようなピュアな音なので、迫力がまるでありません。指はとても回るので爽快感はありますが、なにかイマイチ物足りません。
ミェチスワフ・ヴァインベルクの「フルート協奏曲第2番」は、今まで何度も聴いてきましたが、ここではそれを弦楽オーケストラのために書き換えたバージョンが演奏されています。なんでも、その形での世界初録音なのだとか。この曲には、ソロのフルートがオーケストラの中の管楽器と絡む場面が数多く登場しますが、ここではそれらが全て弦楽器に置き換わっているので、かなりの違和感があります。それが、このソリストのモノクロームな音色には合っているのでしょうが。

CD Artwork © Profil Medien GmbH

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by jurassic_oyaji | 2018-04-21 21:00 | フルート | Comments(0)
WIND CONCERTOS
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James Zimmermann(Cl)
Leslie Norton(Hr)
Érik Gratton(Fl)
Giancarlo Guerrero/
Nashville Symphony
NAXOS/8.559818


アメリカの3人の作曲家がごく最近完成させた3つの管楽器のための協奏曲を、世界で初めて録音したアルバムです。演奏しているのはナッシュヴィル交響楽団、ソリストたちは、全てこのオーケストラの首席奏者たちです。
ただ、2015年に作られたホルン協奏曲はもしかしたらこれが「世界初演」かもしれませんが、それ以外の2010年のクラリネット協奏曲と、2013年のフルート協奏曲は「世界初録音」ではあっても「世界初演」ではありません。というのも、この2曲はそれぞれスウェーデンのクラリネット奏者、ホーカン・ローゼングレンと、フィラデルフィア管弦楽団の首席フルート奏者のジェフリー・ケイナーからの委嘱によって作られていて、初演は彼らによって行われているからです。
ホルン協奏曲を作ったのは、1950年生まれのブラッド・ワーナールという人です。この方は元々ホルン奏者でした。クラシックの団体だけでなく、ジャズのビッグ・バンドなどにも参加していて、後にはLAでスタジオ・ミュージシャンとして映画やCMの音楽で大活躍されていました。ブックレットには彼が若いころ参加していたバンドの中に「ザ・ボス・ブラス」の名前があったので、どこかで聴いたことがあるな、と調べてみたら、こんなところにちゃんと名前がありました。「シンガーズ・アンリミテッド」の1978年のアルバムです。
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ワーナールは作曲の才能もあり、スタジオでは「ゴースト・ライター」として自作を提供していたこともあるそうです。もしかしたら、このホルン協奏曲は彼自身が演奏するために作られたのかもしれませんね。
古典的な3楽章形式をとっていますが、基本的な作風は「ミニマル」でしょう。第1楽章はタイトルが「Tintinnabulations」とまるでペルトのよう、ご丁寧に実際の「ベル」の連打が象徴的に使われています。そこにオスティナートのリズム・パターンがさまざまに変化して、単純化からは逃れています。「Elegies; Lamentations」と題された第2楽章ではとても静かなたたずまいの中から、広大な風景が広がります。そして、第3楽章の「Tarantella」は、文字通り6/8拍子のリズムの中で、シュトラウスの「ティル」の冒頭のホルン・ソロが登場するようなお遊びも見られます。なにか、才能の無駄遣いのように感じられるのは、気のせいでしょうか。
1958年生まれのフランク・ティケリが作ったクラリネット協奏曲も、やはり楽章は3つですがタイトルが凝ってます。それぞれ、「ジョージへのラプソディ」、「エーロンへの歌」、「レニーへのリフ」となっていて、そのようなファースト・ネームをもつ3人のアメリカの作曲家、ガーシュウィン、コープランド、バーンスタインへのオマージュを表明しているのです。第1楽章は、本当にガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」の冒頭のクラリネット・ソロが引用されていたりします。そのあとは、とても技巧的なフレーズがてんこ盛りでソリストのテクニックが試されるような部分、ここでのソリスト、ジマーマンは、とても上手なのにそれが全然楽しく聴こえてこないのが残念です。第2楽章はやはりコープランドの何かの作品のようなのどかな情景が広がります。隠微な情景ではありません(それは「ソープランド」)。第3楽章はもちろんジャズ。けだるいブルース調の部分は様々な打楽器を使ったオーケストレーションに独特の味がありますが、スウィングが始まると平凡な曲になってしまいます。
フルート協奏曲を作った1955年生まれのベフザド・ランジバランはイランで生まれ育った人です。この曲の中には、彼の母国のイディオムが豊富に詰め込まれています。特に、フルートのカデンツァはまさにオリエンタル・ムードが満載です。ただ、曲全体はほとんどがイベールのフルート協奏曲からの引用のように思われてしまうのは、ちょっと安直。フルートのエリック・グラットンは、そのどちらの要素にもフレキシブルに対応して、多彩な音色と卓越したテクニックを披露してくれます。

CD Artwork © Naxos Rights US, Inc.

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by jurassic_oyaji | 2018-04-10 23:50 | フルート | Comments(0)
LIVING MUSIC/New Chamber Music for Flute
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Alice K. Dade(Fl)
Scott Yoo, Erik Arvinder(Vn), Maurycy Banaszek(Va)
Jonah Kim(Vc), Susan Cahill(Cb)
Noam Elkies, John Novacdk(Pf)
NAXOS/8.559831


アメリカで現在活躍している5人の作曲家による、フルートの入った室内楽曲を集めたアルバムです。タイトルに「Living Music」とあるように、確かに、これらの作品は、日常の生活の中に何の抵抗もなく溶け込んでいけるような味わいを持っています。
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それはまず、演奏している奈々緒そっくりのフルーティスト、アリス・K・デイドのフルートが、とてもすんなりと耳に入ってくるということが、大きな要因として挙げられます。彼女が使っているパウエルの楽器を無理なく鳴らした伸びやかな音色はとても魅力的です。
1曲目は、1960年生まれのエーロン・ジェイ・カーニスが作った「Air」という、フルートと弦楽四重奏のための作品です。メインとなるテーマはまさに「現代」ならではの甘ったるい癒し系です。そのまま行ってしまえばただのペルトのエピゴーネンになってしまいますが、途中でガラッと攻撃的な音楽に変わるのが新機軸。さらに、フルートのカデンツァを挟んで元の甘い音楽が帰ってくると思いきや、そうではなくとても寂しく終わるのは、一度変わったものは決して元には戻れないことへのメタファーなのでしょうか。
2曲目の「Skipping Stones」という曲を作ったマイケル・ファイン(1950年生まれ)は、これまでプロデューサーとして音楽業界で活躍していた人ですが、なんと63歳になってから妻が癌の宣告を受けことを機に突然作曲を始めたのだそうです。そこで、2つ目の作品となったのが、子供のころに遊んだ「石切り」をテーマにした音楽です。視聴率の悪いドラマが急に終わること(それは「打ち切り」)ではなく、川に平らな石を投げて水面にスキップさせる遊びですね。前の曲にコントラバスが加わったもの、ちょっと不思議なハーモニー感を持った、味わい深い曲です。恐る恐るこの演奏メンバーに楽譜を送ったら、とても気に入られて、こうして録音もされました。
次はノーム・エルキーズ(1966年生まれ)が最初はトラヴェルソとチェンバロのために作った「E Sonata」を、モダン・フルートとピアノに直したものです。ここでは、エルキーズ自身がピアノを弾いています。最初の編成でもわかる通り、3つある楽章の最初のものは、もろバロック風のテイストを持っています。ただ、あまりにも「現代風バロック」を気取った結果、なんともグロテスクなハーモニーになっているのが残念です。次の楽章は、フルートはピッチや音色、あるいは奏法を変えて単音を伸ばしているだけ、というユニークな曲、その間に、ピアノは時にはバロック風、時には無調風と遊んでいます。そして、最後は軽快なスウィング・ジャズで締めくくるという、分かりやすさです。ここでのハーモニーは第1楽章とよく似ています。
4曲目は1965年生まれのジェニファー・マーガレット・バーカーが作った「Na Tri Peathraichean」というフルートとピアノのための曲。スコットランドのグレンコーにある「3人姉妹」という連山のことですが、ここでは3つの曲が、それぞれの山のタイトルになっています。「Gearr Aonach」では、フルートは山に対して何度も呼びかける、ちょっと重苦しい音楽です。「Aonach Dubh」では、岩肌を転がる石の描写でしょうか、とても激しい運動感が聴こえてきます。そして「Beinn Fhada」では、あちこちを眺めまわっているという感じでしょうか、最後には最初の呼びかけが繰り返されます。
最後の「Pavane and Symmetries」は、ダン・コールマン(1972年生まれ)が、最初はフルートと弦楽オーケストラのために作ったものを、ピアノ伴奏に直したものです。優雅な「パヴァーヌ」と、ダイナミックな踊りとの対比が聴きものです。なぜか、このトラックだけ音が引っ込んで聴こえてきます。ちょっとしたマイクアレンジの加減でしょうか。
いずれも、とても穏やかな作風ですし、奏法もたまにフラッター・タンギングが出てくるぐらいで極めてオーソドックスなものに終始しています。まさに、典型的な「今」の音楽ばかりです。

CD Artwork © Naxos Rights US, Inc.

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by jurassic_oyaji | 2018-03-08 20:51 | フルート | Comments(0)
DOPPLER/The Complete Flute Music Vol. 1/10
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Claudi Arimany, János Bálint, Anrea Griminelli, 工藤重典(Fl)
Joan Espina(Vn),
Alan Branch, Márta Gulyás, Michel Wagemans(Pf)
Leonardo Martínez/
Orquesta Sinfónica Ciudad de Elche
CAPRICCIO/C5295


フランツとカールという5歳違いのドップラー兄弟は、それぞれに作曲家で、兄の方はオペラなども作っていましたが、ともにフルーティストとしても活躍していました。特に、この二人が共作した2本のフルートのための作品は、輝かしいフルートの魅力がいっぱいで、ヨーロッパ中で大人気を博したということです。
もちろん、現代でも彼らの作品は多くのフルーティストによって取り上げられていて、ソロのための「ハンガリー田園幻想曲」や、2本のフルートのための「アンダンテとロンド」や「リゴレット・ファンタジー」は彼らの重要なレパートリーとなっています。
とは言っても、その他の作品はかなりマニアックな人でないとまず演奏しないようなものばかりですから、ドップラー兄弟のフルートの作品の全容はなかなか知ることはできませんでした。
そんなところに、このジャンルのすべての作品を録音しようという人が現れました。それは、1955年生まれのスペインのフルーティスト、クラウディ・アリマニーです。いつも高いスーツを着ています(それは「アルマーニ」)。なんでも、あのランパルの弟子として、彼が使っていた楽器を譲り受けた方のようですね。免許皆伝、みたいなものでしょうか。
彼は、初版の楽譜や自筆稿を徹底的に研究して、まずはドップラーたちの作品のリストを作りました。それによると、フルートがらみの作品は80曲以上も存在することが分かりました。そして、それらをすべて、自ら演奏したものを録音して、10枚のCDとしてリリースすることにしたのです。一応、ジャケットには「2007年から2016年の間に録音」とありますから、丸10年かけて録音したのでしょうね。
もちろん、メインは二重奏ですから、その相手役のフルーティストも世界中から集めました。その中には、ウィーン・フィルの首席奏者の二人、ヴァルター・アウアーとカール=ハインツ・シュルツの名前もありますよ。さらに、マクサンス・ラリューなどという「レジェンド」まで参加しています。それよりも、すでに2000年に他界したはずのジャン=ピエール・ランパルまでいるのが、不思議です。もっとも、現在では10枚のうちの6枚までがリリースされていますが、その中にはランパルの名前はありませんから、7枚目以降に昔の録音をボーナス・トラックとして入れているのかもしれませんね。
今回は、ほぼ1年前にリリースされていた1枚目を聴いてみます。8曲収録されている中で、7曲までが世界初録音というのですから、それだけでこのシリーズの価値が分かろうというものです。
最初に演奏されているのは、その例外の1曲、割と有名な2本のフルートとピアノのための「ハンガリーのモティーフによるファンタジー」です。ここでの第2フルートが、日本人の工藤さんです。録音は、それぞれのパートを思いっきり離した音場になっていますから、アリマニーと工藤さんの音がきっちり分かれて聴こえてきます。それは、まさにランパルの弟子同士ならではの、とても息の合ったものでした。本当に細かいところまで、表現のセンスが同じなんですよね。それぞれがソロを取るところでは、アリマニーの方が幾分輝きに欠けるような気はしますが、二人で吹いている分にはその輝きは煌めくばかり。
そんなアリマニーがソロを吹いている曲が4曲ばかりありますが、そこでは彼の弱点が露呈されてしまいます。ご自慢の師から賜ったヘインズなのでしょうが、なにか鳴らし切れていないというか、音に伸びやかさが全く感じられないのですよ。
最後には、これも結構有名な「リゴレット・ファンタジー」のオリジナルの形、今のピアノ伴奏版の25年前に作られていたという、オーケストラ版です。こちらの相方はアンドレア・グリミネッリ。彼もランパルの門下生ですから、きっちりと先輩の欠点を補って、輝かしい演奏を聴かせてくれています。

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by jurassic_oyaji | 2018-02-08 20:53 | フルート | Comments(0)
GENZMER/Wie ein Traum am Rande der Unendlichkeit
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Emmanuel Pahud(Fl)
Margarita Höhenrieder(Pf)
SOLO MUSICA/SM 159


こちらの、「トラウトニウム」という電子楽器のための作品を作った人として注目していた作曲家、ハラルド・ゲンツマーには、フルートのための作品もあることが分かって、急遽取り寄せたのがこのアルバムです。演奏者はエマニュエル・パユ。メジャー・レーベルへのおびただしい録音がある彼が、こんなマイナーな作品をマイナーなレーベルに録音していたのには、なにかホッとする気持ちです。彼のEMI(今ではWARNER)への録音には、ほとんど心を動かされることはありませんでしたからね。
ゲンツマーという人は、1909年に生まれていますが、つい最近2007年までご存命だったのですね。ヒンデミットに師事したという経歴は、先ほどのトラウトニウムのアルバムでも紹介されていましたが、彼は師と同じく多くの作品を残していて、それは交響曲から室内楽曲までの広範なジャンルをカバーするものでした。彼自身はピアノとクラリネットを演奏していましたが、作品の上で好んで用いたのはフルート、ピアノ、ハープ、そしてチェロだったのだそうです。
フルートとピアノのための「ソナタ」は3曲、フルート・ソロのための「ソナタ」もやはり3曲作られています。このアルバムの前半に収録されている、その3番目のフルート・ソナタと、やはり3番目のソロ・フルート・ソナタは、ともに彼の晩年2003年に作られました。
そして、翌年2004年に作られたのが、アルバム・タイトルとなっている「無限の縁での夢のような」というサブタイトルの、フルートとピアノのために「別れの幻想曲」です。この曲は、ここでパユとともに演奏しているピアニスト、マルガリータ・ヘーエンリーダーのために作られたものです。彼女はゲンツマーとは30年来の友人なのだそうです(へー)。
初演は彼女とパユによって2009年にローマで行われています。もちろん、このアルバムのために2011年にバイエルン州のポリング修道院で行った録音が世界初録音となります。
ヒンデミットにも、ピアノとフルートのためのソナタと、フルート・ソロのための「8つの小品」という作品がありましたが、ここで初めて聴いたゲンツマーの同じ編成の2つの作品は、そのヒンデミットの、フルーティストにとっては馴染みのある曲と非常によく似たテイストを持っていました。一見古典的なようで、その実かなり屈折した和声とハーモニーで、聴くものにある種の緊張感を与えるかと思えば、緩徐楽章ではとことんロマンティックに迫る、といった感じでしょうか。おそらく、20世紀の前半だったらもてはやされたはずのものですが、21世紀にこのスタイルは、ちょっと辛いような気はします。
それに続いて、ヘーエンリーダーのソロでピアノのための「6つの小品」が演奏されています。これは、まるでバルトークの「ミクロコスモス」を思わせるような、かわいらしい曲が集められた曲集でした。時折民族的なメロディも見え隠れして、とても楽しめます。それぞれはほんの1分足らずの曲なのですが、最後の「死の音楽」というタイトルの曲だけは4分ほどの「長い」もので、これはその名の通りとても重たい楽想にあふれています。
そして、アルバムの最後に置かれているのが、メインの「別れの幻想曲」です。作られたのは先ほどの「ソナタ」たちとたった1年しか違わないのに、その作風は劇的に変わっていました。タイトルからしてなにやら哲学的なものがありますが、もっとストレートに受け止められる確かなメッセージが感じられます。
曲は5つの部分から出来ていますが、4番目の「終わりのない安らぎとともに-夢のかけら」というタイトルが付けられている部分は、フルートの瞑想的な歌と、それと対話するピアノとが、深い「安らぎ」を与えてくれます。
ここでのパユは、他の曲でこれをやられると鼻に付いてしまう彼の得意技である超ピアニシモで、切ないほどの情感を伝えています。

CD Artwork © Solo Musica

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by jurassic_oyaji | 2018-01-11 23:05 | フルート | Comments(0)
POSTCARDS
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Jean-Louis Beaumadier(Pic)
6 Piccolists, 4 Pianists,
Basson, Kaval, Vibraphone, Casseroles
SKARBO/DSK4149


LPしかなかった時代からピッコロのための作品を集めた珍しいアルバムをCALIOPEなどで数多く作っていたピッコロ奏者のジャン=ルイ・ボーマディエのキャリアは、フランス国立管弦楽団のピッコロ奏者としてスタートしました。1978年にはそのオーケストラとともに来日してメシアンの「主イエス・キリストの変容」の日本初演を行っています。その時のフルートの首席奏者はパトリック・ガロワでしたね。同じ年に、デビューアルバム「La Belle Époque du Piccolo」を録音していました。そのオーケストラには12年間在籍し、その後はソリストとして世界中で活躍するようになります。かつては小澤征爾の指揮するサイトウ・キネン・オーケストラにも参加していましたね。
最近はあまり名前を聞くこともなくなっていたと思っていたら、つい最近このSKARBOレーベルから「World Piccolo」というシリーズの「第3集」がリリースされるというニュースが伝わってきました。彼の正確な生年はどこを探しても見つからないのですが、おそらくもう70歳近辺なのではないでしょうか。まだまだ頑張っていたのですね。
せっかくなので、そのシリーズを全部入手しようと、マルチ・バイでまとめて3枚注文したら、なぜか2015年にリリースされていた(録音は2014年)この「第2集」だけが「対象外」ということではじかれてしまいました。たしかに、インフォを見てみるとすでに「販売終了」になっていましたね。仕方がないので、他のものを入れて注文を完了させたのですが、その直後にインフォでは「在庫有り」になったので、あわててこれだけを購入してしまいましたよ。その直後にやはり「販売終了」になりましたが、いまでは「メーカー取り寄せ」に変わっています。いったい、どうなっているのでしょうね。そう言えば、このインフォの案内文も「フランスを代表するフルート奏者ジャン=ルイ・ボーマディエ。近年はピッコロの名手としてレパートリー開拓に積極的」なんて、アホなことが書かれていましたね。彼は40年近く前から「積極的」だったというのに。それを書いた代理店はもちろんキングインターナショナルです。
このシリーズでは、タイトルの通り世界中の作曲家によるピッコロのための作品が紹介されています。ここで取り上げられている人はフランスのダマーズ以外は全く知らない人ばかりです。アルメニア、トルコ、コスタリカ、エジプトといった珍しい国の名前も見られます。おそらく、その人たちはボーマディエがコンサートで訪れた時に知り合った友人たちなのでしょう。
演奏しているのも、やはりボーマディエの「仲間」たち、彼以外に6人のフルート奏者(アンドラーシュ・アドリアンなどという大物もいます)がピッコロで参加しています。ナンシー・ノースというカナダトロント交響楽団のピッコロ奏者が作った「Quelque chose canadienne」という曲では、ピッコロだけの三重奏が聴けます。ピッコロがこんなことをやっていていいのか、と思えるような異様な響きですね。
もう一人、「カヴァル」というブルガリアやルーマニアあたりで使われている民族楽器の演奏家もいます。イザベル・クールワというそのフランスの「カヴァル奏者」は、元々はガストン・クリュネルやボーマディエに師事したまっとうなフルーティストでしたが、カヴァルの魅力に取りつかれて今ではこの楽器のスペシャリストとして大活躍をしているのだそうです。彼女が作ったこの「Baïpad」という曲ではバルカンのテーマが使われていて、後半には5拍子のダンスが登場します。刈上げの人が踊るのでしょうか(それは「バリカン」)。カヴァルというのは、斜めに構える縦笛で、ものすごい息音を伴います。ここでのピッコロとのバトルは、このアルバム中最大の聴きどころでしょう。
ボーマディエのピッコロはテクニックも確かですし、高音のピアニシモなどさすが第一人者というところも見せてくれますが、ちょっとビブラートが強すぎるかな、という思いは、どのアルバムでもついて回ります。

CD Artwork © Scarbo

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by jurassic_oyaji | 2017-12-23 16:55 | フルート | Comments(0)
MOZART/Flute Concertos
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Karl-Heinz Schütz(Fl)
Orchestra da Camera di Perugia
CAMERATA/CMCD-28353


大好きなフルーティスト、ウィーン・フィルの首席奏者のカール=ハインツ・シュッツがモーツァルトの協奏曲を録音してくれました。すぐにでも購入したかったのですが、あいにくバカ高い国内盤だったのでポイントがたまるまで待っていたら、こんなに遅くなってしまいました。ノーマルCDが税込3000円以上なんて、絶対に異常です。
ここでシュッツと共演しているのは、2013年に創設されたという新しい団体「オルケストラ・ダ・カメラ・ディ・ペルージャ」です。ちょっと前なら「ペルージャ室内管弦楽団」と呼ばれてしまいそうな名前ですが、最近はこのようにそのまま「カタカナ」に直すのがトレンドなのでしょう。このレーベルには、このオーケストラのコンサートマスターであるパオロ・フランチェスキーニを中心にした「イ・ソリスティ・ディ・ペルージャ」という団体の録音もありますが、この二つはどういう関係なのでしょう。
いずれにしても、このペルージャのオーケストラも2015年にやはりこのレーベルが関係している「草津国際音楽アカデミー」に招かれて、シュッツと共演したのだそうです。その時に、今年の5月にペルージャでも一緒にコンサートを開く話が決まったのに便乗して、同じメンバーでのこの録音が実現する事になりました。
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このジャケットの写真が、5月28日にペルージャのサン・ピエトロ教会で開催されたコンサートの時のものです。ここでは、モーツァルトのアンダンテとト長調の協奏曲を協演、オーケストラだけでは交響曲第29番が演奏されました。この写真を見ていたら、何人か日本人っぽいメンバーの顔があったので確認してみたら、ファースト・ヴァイオリンの方は大西あずささん、ヴィオラの方は上山(うえやま)瑞穂さんというお名前だと分かりました。今では、こんな風に世界中のアンサンブルに日本人が参加するのが普通のことになっているのですね。
録音は、このコンサートの前後、5月26日から29日まで行われました。指揮者は置かず、シュッツの「吹き振り」です。そのために、シュッツは真ん中に立ってその前に弦楽器、後ろに管楽器と、オーケストラに囲まれての録音になりました。これが「2L」あたりだとそのままサラウンドで録音するのでしょうが、このレーベルはそういうことには興味を示すようなところではありませんから、普通に2チャンネルで録音されているようです。
もちろん、こういう位置関係なら、オーケストラのすべてのパートとのコンタクトが容易にとれますから、ここではまさにソリストとオーケストラが一体化した緊密なアンサンブルが実現できていました。シュッツのちょっとした表現を、まわりのメンバーが瞬時に感じ取って対応しているという姿は、とてもスリリングです。録音も、例えばセカンド・ヴァイオリンのような、ちょっと目立たないパートの音もきっちりと浮き上がって聴こえてきますから、みんなで音楽を作っているという感じがとてもよく伝わってきます。
楽譜はもちろん原典版を使っているのでしょうが、ベーレンライター版での最大の疑問点であったニ長調の協奏曲の第1楽章の37小節と38小節の間のソロ・フルートのタイは外して演奏しています。
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このタイは最新のヘンレ版(アドリアン校訂)では注釈つきで外してありますから、今ではこの方が標準になっているのでしょう。さらに、シュッツは様々なアイディアも盛り込んで演奏しているようです。たとえば、同じ協奏曲の第3楽章の271小節から274小節の間では、弦楽器がピツィカートで演奏しています。
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これはかなりショッキング。ト長調の協奏曲では、第2楽章で大胆な装飾を入れたりしていますし。
シュッツのフルートは、期待通りの素晴らしさでした。どんな小さな音も完全に磨き抜かれています。なんと言っても、力みの全く感じられない、流れるようなモーツァルトは、とても魅力的。エレガントの極みです。

CD Artwork © Camerata Tokyo, Inc.

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by jurassic_oyaji | 2017-12-02 20:36 | フルート | Comments(0)
Silver Voice
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Kathrine Bryan(Fl)
Bramwell Tovey/
Orchestra of Opera North
Chandos/CHSA 5211(hybrid SACD)


ロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団の首席フルート奏者であるキャスリン・ブライアンは、そのオーケストラと頻繁に録音を行っているスコットランドのレーベル「LINN」とこれまでに3枚のアルバムを作ってきましたが、今回はレーベルが「CHANDOS」に変わっていました。当然、エンジニアも今までのフィリップ・ホッブスからラルフ・カズンズになったのでフルートのサウンドもずいぶん変わりました。LINNでは息遣いまで生々しく聴こえていたものが、CHANDOSではもっとソフトで暖かいものになっているようです。ブックレットにカズンズがソリストのためのサブ・マイクのセッティングをしている写真がありますが、それを見るとフルーティストの前ではなく後ろにマイクが立っています。確かに、これだと刺激的な息音は避けて、フルートの響きだけをうまく録音できるのかもしれませんね。
それと、彼女のアルバムは今までずっとSACDでしたが、最近LINNはSACDからは撤退していますから、もしかしたら、SACDで出したかったので、CHANDOSに移籍したのかもしれませんね。
しかし、アルバムのコンセプトは、LINNでの最後のアルバムのタイトルが「Silver Bow」と、ヴァイオリンのレパートリーをフルートで吹いていたのですが、今回は「Silver Voice」で、「声」で歌われるオペラ・アリアをフルートで演奏するという、ほぼ同じものになっています。
ただ、全部がオペラ・アリアでは、いくらなんでもフルーティストのアルバムとしては物足りないということで、最初と最後ではオペラの中のメロディを集めてフルートのために編曲した「ポプリ」が演奏されています。その、最初のものはモーツァルトの「魔笛」。ロバート・ヤンセンスが編曲したものですが、いきなり序曲から始まるのは意味不明(ナンセンス)。その後には、お馴染みのナンバーが次々に現れます。このオペラの中で大活躍しているオリジナルのフルート・ソロもそのまま使われていますね。
そして、そのあとには普通のオペラ・アリアが9曲並びます。中には、ガーシュウィンの「サマータイム」のような渋い歌もありますね。ただ、やはりフルートで吹いて映えるのは、しっとり歌い上げる曲よりは軽やかで華々しい曲の方でしょうね。ですから、この中ではグノーの「ファウスト」からの「宝石の歌」や、「ロメオとジュリエット」の「私は夢に生きたい」あたりが彼女の場合は最も成功しているのではないでしょうか。
いや、しっとり系、たとえばプッチーニの「私のお父さん」とか「ある晴れた日に」でも、磨き抜かれた高音でとても美しく歌われてはいます。でも、何かが足りません。それは、前作のヴァイオリン編で引き合いに出したゴールウェイと比較すると分かってきます。ゴールウェイは、フレーズの最後まできっちり輝かしい音で歌いきっているのに、彼女は最後の最後ではとても遠慮がちに音を処理しているのですね。確かに、この方が「上品な」歌い方にはなるのでしょうが、フルートでは全然物足りません。それと、モーツァルトの「フィガロの結婚」の中の伯爵夫人のアリア「楽しい思い出はどこに」などでは、ピッチがかなり悪いのが目立ちます。
最後の曲は、フルーティストのレパートリーとして定着しているフランソワ・ボルヌが作ったビゼーの「カルメン」のポプリです。オリジナルはピアノ伴奏ですが、ここではイタリアのアレンジャー/指揮者のジャンカルロ・キアラメッロの手になるぶっ飛んだ編曲でのオーケストラ伴奏を聴くことが出来ます。これは、打楽器を多用して、まるでシチェドリンが作った「カルメン組曲」のような「現代的」なサウンドが発揮されていますし、オーケストラの対旋律も、意表を突くようなメロディが使われていたりします。
そんな中で、キャスリンはとても伸び伸びとフルートの妙技を披露してくれています。爽快感という点だけでは、ゴールウェイに勝っているでしょうか。

SACD Artwork © Chandos Records Ltd

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by jurassic_oyaji | 2017-11-21 23:04 | フルート | Comments(0)
FRANCK, FAURÉ, PROKOFIEV/Flute Sonatas
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Sharon Bezaly(Fl)
Vladimir Ashkenazy(Pf)
BIS/SACD-2259(hybrid SACD)


このレーベルお抱えのフルーティスト、シャロン・ベザリーの最新アルバムは、なんとウラディーミル・アシュケナージとの共演でした。最近はもっぱら指揮者としての活動の方がメインとなった感がありますが、まだピアノを弾いていたんですね。それにしても、もはや80歳を迎えているなんて。このアルバムのブックレットにはこの二人と、アシュケナージの奥さんとの3人が一緒の写真がありますが、奥さんの方はもうしわくちゃで年相応の外見なのに、アシュケナージの肌艶のきれいなこと。まるで母親と息子のように見えてしまいます。
彼はもちろん、ピアノのソロだけではなくヴァイオリンとの共演も数多く行ってきましたが、フルートと一緒に演奏したことなどはあったのかな、と調べてみたら、こんなエミリー・バイノンのバックでオーケストラを指揮しているアルバムがありました。バイノンに続いてベザリー、若くて(?)美しい(?)女性との共演は羨ましいですね。
ここでベザリーと演奏しているのは、フランクとフォーレとプロコフィエフの「フルート・ソナタ」です。これらの曲は全て「ヴァイオリン・ソナタ」として演奏されることもありますよね。正確には、フランクとフォーレ(第1番)はオリジナルがヴァイオリン・ソナタ、そしてプロコフィエフはオリジナルはフルート・ソナタですがヴァイオリンで演奏されることもある、というのが本当です。結局、この3曲はフルーティストにとってもヴァイオリニストにとっても、とっても大切なレパートリーとなっています。
ただ、その中でも微妙な温度差はあって、フォーレだけはフルーティストが手掛けるのはちょっと少ないような気がします。これはやはり、ヴァイオリンで演奏してこそのものなので、フルートで演奏するにはあまり向かないのではないでしょうかね
フランクとプロコフィエフは、もう完全にフルーティストにとってはなくてはならない曲になっています。多くのフルーティストたちの名演がゴロゴロしていますから、ベザリーにとってもハードルは高くなります。
プロコフィエフは2016年の3月に録音されています。その時が、この二人の初顔合わせだったのでしょうか、ここでのベザリーは最初から「ベザリー節」満載でこの巨匠と対峙していました。彼女にしてみればもう完全に手中にしているルーティンのレパートリーでしょうから、ピアニストがだれであろうとひたすら自分のペースで、その、ちょっと乱暴な表現を押し出していたのでしょう。怖いもの知らず、というやつでしょうか。なんか、アシュケナージ もオタオタして取り乱しているような気配が見られますし。
しかし、同じ年の11月にイギリスの同じホールでフォーレとともにセッションが持たれていたフランクの場合は、ちょっと様子が違います。まずはピアノの前奏で始まるこの曲で、アシュケナージは思い入れたっぷりにゆったりとしたテンポで弾き始めました。もうこうなると、主導権はアシュケナージが握っているのは明らかです。フルートがなんとも繊細にやわらかく入ってきた時には、とてもベザリーが吹いているとは思えないほどでした。それはもう、アシュケナージの深~い懐の中でか細く漂っているかのよう。ここでは、彼女は完全にアシュケナージに手なずけられていまでした。ベザリーからこんなしおらしい一面を引き出すことができるなんて、さすが巨匠です。
とは言っても、彼女の音の後ろをふくらますという変なクセは、相変わらずのようでした。フレーズの最後など、一旦収まったかと思うとそこからさらにもうひと踏ん張り、という感じで伸ばしますから、もう品がないったらありません。それと、ピッチがずいぶん怪しくなってきましたね。これも最後の音が下がりがちなので、それを修正しようとしてさらに頑張って音を出すということをやっているので、目も当てられません。循環呼吸の「鼻息」はうるさいですし。

SACD Artwork © BIS Records AB

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by jurassic_oyaji | 2017-11-15 00:07 | フルート | Comments(0)
MOZART/Flute Quartets
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Ulf-Dieter Schaaff(Fl), Philipp Beckert(Vn)
Andreas Willwhol(Va), Georg Boge(Vc)
PENTATONE/PTC 5186 567(hybrid SACD)


クラシックの音楽家が演奏する時に使う「楽譜」には、正確には作曲家の意図がそのまま書き込まれているわけではありません。印刷された楽譜には多くの人の手が関わっていますから、その途中で誤植などの間違った情報が紛れ込む可能性は避けられません。あるいは、演奏家などが良かれと思って、演奏効果を上げるために意図して作曲家の指示ではない自らの解釈を楽譜に書き加えるようなことも、頻繁に行われています。
そこで、作曲家の考えを最大限尊重するために、自筆稿だけではなく初期の出版譜やその他のあらゆる資料を動員し、正しいと思われる情報だけを反映させた楽譜を作ろうという動きが出てきます。その結果出来上がった楽譜が「原典版」と呼ばれるものです。
そんな原典版が、なんと言っても一番重きを置くのは作曲者自身が書いた楽譜、自筆稿です。しかし、人間が手で書いたものですから、そこには間違いがないとも限りません。ですから、原典版の作成の過程では自筆稿以外の資料も参考にしながら校訂作業を進めることになります。そこで、それぞれの資料の重要性の判断は、校訂者に委ねられることになり、結果として「原典版」と謳っていても内容の異なる楽譜がいくつか存在することになります。
モーツァルトの場合、その全ての作品の原典版は「新モーツァルト全集」として、ベーレンライター社から出版されました。フルート四重奏曲も、ヤロスラフ・ポハンカの校訂によって1962年に出版されています。それ以来、この曲を演奏する時にはこのベーレンライター版を使う、というのは、もはやフルーティストにとっては「義務」と化したのです。それは、ごく最近までの新しい録音では、この原典版で初めて加えられた第2楽章の18小節と19小節の間にあるタイをほとんどすべてのフルーティストが演奏していることからも分かります。
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ところが、1998年にヘンリク・ヴィーゼによって校訂されたヘンレ社による原典版では、そんなタイは見事になくなっていました。
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自筆稿を見ると、このタイはページにまたがっていて、18小節の最後にはタイはないことが分かります。
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このあたりが、「解釈」の違いとなって現れていたのでしょう。実際にここを演奏してみると、このタイはモーツァルトにしてはなんか不自然な気がしてなりませんでした。どうやら、これはタイを付けたいとは思わなかったヘンレ版の方が正解のような気がします。
今回の、ベルリン放送交響楽団の首席フルート奏者、ウルフ=ディーター・シャーフを中心としたメンバーが2016年5月に行った最新の録音では、このヘンレ版が使われているようでした。いままで、ピリオド楽器での録音したものではこちらがありましたが、モダン楽器ではおそらくこれが最初にこの楽譜で録音されたものなのではないでしょうか。とは言っても、このSACDには明確なクレジットがあるわけではなく、あくまで推測の域を出ないのですが、先ほどのニ長調の第2楽章以外にも、ハ長調の第1楽章の157小節(上がベーレンライター版、下がヘンレ版)とか、

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イ長調の第2楽章トリオの11小節(やはり上がベーレンライター版、下がヘンレ版)
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では、明らかにヘンレ版にしかない音で演奏されていますから、まず間違いないでしょう。もちろん、ハ長調の第2楽章の第4変奏でも、9小節から12小節のヴァイオリンとヴィオラのパートが入れ替わって、フルートと平行に低いF♯の音が聴こえてきます。
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シャーフは、アンドレアス・ブラウ、ペーター=ルーカス・グラーフ、アンドラーシュ・アドリアンなどに師事したフルーティストで、ベルリン・フィルでエキストラとしてトップを吹いていたこともありましたから、映像などで残っているものも有ります。こちらでは、ブラウのアンサンブルにも参加していましたね。日本の「ザ・フルート」という雑誌に寄稿もしています。彼のフルートはとても端正、ソリスティックに主張するのではなく、他の3人と一体となって、モーツァルトをチャーミングに作り上げています。

SACD Artwork © Pentatone Music B.V.

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by jurassic_oyaji | 2017-09-21 22:37 | フルート | Comments(0)