おやぢの部屋2
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BACH/Six Trio Sonatas
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Tempesta di Mare Chamber Players
CHANDOS/CHAN 0803




バッハの「6つのトリオ・ソナタ(BWV525-530)」は、1720年代の後半に、長男のヴィルヘルム・フリーデマンのための練習曲として作られたものです。これだけではなく、バッハは惜しみもなく息子の教育のために「教材」を提供し、彼を一流の音楽家に育てあげるのですが、フリーデマンはやがてこのプレッシャーに耐えきれず、破綻してしまいます。まあ、よくあることです。
この、名前の通りオルガンやペダル・チェンバロのような3声の楽器のために作られた「トリオ・ソナタ」は、もちろん両手で2声のメロディ、そして足鍵盤でバス声部を演奏するものですが、この形態はバロック時代の代表的な合奏のスタイルでした。つまり、通奏低音の上に2つのメロディ楽器が加わってアンサンブルを行う、という形ですね。ですから、この「6つのトリオ・ソナタ」は、元はそのような合奏曲だったものを、オルガン用に作り直したものなのでしょう。ただ、そのオリジナルの形は部分的にしか残っていないので、現在ではそれを様々な楽譜に割り振って演奏することが広く行われています。あるいは、メロディのうちの一つはチェンバロの右手で弾いて、もう一つの声部をソロ楽器が演奏するという「ソロ・ピース」としても、多くの楽譜が用意されています。
今回のCDでも、そんなアンサンブルに「復元」したものが演奏されています。2002年に、フルートのグウィン・ロバーツとリュートのリチャード・ストーンがフィラデルフィアで創設した「海の嵐」という、ヴィヴァルディの作品のタイトルを名前にした団体は、この6曲を演奏するにあたって、ヴァイオリン、フルート、リュート、ヴィオラ・ダ・ガンバ、チェロ、チェンバロという、メンバー全員が万遍なく演奏に参加できるようにしています。その結果、この曲集はそれぞれにヴァラエティに富んだ個性を持つことになりました。そんな編曲を試みたのは、リュートのストーンです。
この6曲は、全て急-緩-急という、イタリア風の協奏曲の3楽章形式をとっています。これは、いわばエンタテインメントにもつながる形式なのではないでしょうか。そう言えば、どの曲も、心なしかバッハにしては親しみやすいテーマが現れて和みます。なんたって、BWV525のテーマは「ドミソ・ドファラ」という分かりやすさですから。
そのBWV525ではアルト・リコーダーとヴァイオリンが上の2つのパートを担当するという、スタンダードな編曲プランがとられていて、異なる発音体によるメロディ楽器の対話が存分に楽しめます。ここでは真ん中のゆっくりとした楽章での、シンプルなメロディ・ラインをお互いの楽器がどれだけ飾り立てるかという「バトル」が聴きものでしょう。
そんな「まっとう」な編曲の後に、このバンドならではの面白い楽器の組み合わせが続きます。BWV526では、2本のヴァイオリンと、チェロとリュートによる低音という、ちょっと平べったい編成で演奏されています。「対比」よりは「融合」を目指すというコンセプトなのでしょうか。ただ、この低音があまりにもユル過ぎるのが気になります。それは、カリーナ・シュミッツのチェロの、ちょっと歌い過ぎてリズムが甘くなってしまうという「クセ」のせいなのかもしれません。彼女は、次のBWV527で担当しているガンバ(しかも、ここではトラヴェルソとともにメロディ楽器)で頑張る方が性に合っているのではないでしょうか。
最もぶっ飛んだ編曲プランは、最後のBWV530で披露されます。クレジットではD管のソプラニーノ・リコーダーと2本のヴァイオリンがメロディ楽器となっているので、どのようにパートを割り振るのかと思っていたら、ソリスティックでとても目立つ部分だけをソプラニーノ・リコーダーに吹かせて、まるで協奏曲のように華やかな曲に仕上げていましたよ。これはすごいアイディア、なかなか楽しめます。

CD Artwork © Chandos Records Ltd
# by jurassic_oyaji | 2014-06-18 00:08 | フルート | Comments(0)
新しいタライを買いました。
 週末には、ニューフィルの「宿題」がありました。それは、来年春の演奏会の希望曲のリストを作ること。まあ、これは毎回やっていることなのですが、各パートでやりたい曲を挙げてもらったものを、パートリーダーが私に送ってくれて、それを全部まとめて私がリストを作るという仕事ですね。ただ、今回はちょっと特殊な演奏会になりそうだったので、あえてそんな細かいことをやらなくても、指揮者を交えて意見を出し合えばそれで大筋は決まるのでは、と思っていました。ですから、今回は、そんなリスト作りも必要ないだろうと思ってました。でも、なんだかそういうことにはならずに、相変わらず同じような手順を踏む形になってしまったので、結局は全く同じ仕事を、全く同じ状況のもとにやらなけらばならなくなったのですよ。「同じ状況」というのは、きちんと締め切りが決まっているのに、それまでに送ってくる人はごくまれで、大抵は期限を過ぎてから催促してやっと送ってくるというパターンです。というか、これは私が甘やかして「まだ大丈夫ですよ」みたいなことをつい言ってしまうから、図に乗ってしまうだけのこと、私が毅然として閉め切り以降のリクエストは認めないという態度を貫けばいいだけの話なんですけどね。
 そんなわけで、先週中に楽勝だと思っていたものを、持ち帰ってやらなければいけないことになってしまいました。まあ、でも実際には、土日の午前中の、洗濯機を回している時間なんかを使えば、大体のところは終わってしまう程度の仕事なんですけどね。
 その洗濯の時に、洗い終わった洗濯物を入れて運ぶプラスティックのタライが、だいぶ前からかなりヤバい状態でした。もう一部が裂けていて、変な持ち方をするとそこから全体が破れてきそうな危うさなんですよ。まあ、中に水を入れたりはしないので、特に支障はないのですが、なんかあまりに貧乏ったらしくていやなので、ついに新しいものを買うことを決心しました。いや、別に家や車を買うわけじゃないので、そんなに大騒ぎをするほどのことではないのですがね。
 それで、仕事も終わったのでホームセンターにタライを買いに行くことにしました。一応大きさもちゃんと測っておきます。いつも使っているものなので、別に測る必要もないのかもしれませんが念のため、だったのが、いざ現場に行ってみるとこれが大正解。色んなサイズのが置いてあるので、どれが同じ大きさのものなのか、全然自信がなくなってくるんですよね。確かにそのサイズなのに、なんだか小さいような気がしてきたりしますから。
 そのタライの中には、かなり大きな、殆ど子ども用の「プール」ぐらいの大きさのものもありました。確かに、大昔は木製のタライで子どもが水浴びなどをしていた時代がありましたね。そこで、その中に貼ってあったのがこれ。
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 まあ、この商品はどんな用途にも使えますよ、と言いたいのでしょう。でも、出来ればペットを入れたタライで野菜を洗ってもらいたくはないですね。
 タライひとつ、なかなか買えないような人が、ヘッドフォンなんかはすぐに買ってしまいます。それがとても気に入ったので、自宅に持って帰って使ってみようと思ったら、ほんの少しケーブルの長さが足りません。それで、延長ケーブルを買おうと、電気屋に行ったら、延長ケーブルは3.5Φのものしかありません。欲しかったのは6.3Φだったので、あきらめかけたら、店員さんが、「変換プラグを使うという手がありますよ」と言ってくれました。確かに、それもありです。
 ところが、延長ケーブルのせいか、変換プラグのせいかは分かりませんが、それをつなぐと明らかに音が変わるんですね。音の輪郭がほんの少しぼやけてしまうんですよ。CD900STというのは、そういう世界の製品だったんですね。ますます、すごさが感じられます。
# by jurassic_oyaji | 2014-06-16 21:24 | 禁断 | Comments(0)
BERNSTEIN/West Side Story
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Alexandra Silber(Maria)
Cheyenne Jackson(Tony)
Micheal Tilson Thomas/
San Francisco Symphony
SFS/821936-0059-2(hybrid SACD)




レナード・バーンスタインとは縁のあったマイケル・ティルソン・トーマスが、サンフランシスコ交響楽団を率いてコンサート形式でそのバーンスタインの「ウェストサイド・ストーリー」を上演しました。そのライブ録音が、SACDでリリースされたのですが、それが2枚組、しかも「コンプリート・ブロードウェイ・スコア版/世界初録音」などという日本の代理店のコピーが踊ってたりすれば、もう買わないわけにはいきません。でも、今頃「世界初録音」なんてありえませんが。
案の定、この、厚さが2センチもある貴重な写真が満載の豪華なパッケージには、どこを探してもそんなことは書いてありませんでした。こんなコピー、いったい、どこからでっち上げたのでしょう。
その「コンプリート・ブロードウェイ・スコア」なるものをMMTが抱えている写真もここには載っていますが、それは見慣れたBoosey & Hawks版、確か1994年に出版されたものです。それは、そもそもバーンスタイン自身が1984年に初めてこの「自作」を録音した時に用意した楽譜を元に校訂されたもののはず、ですから、そのバーンスタインの録音こそが、「世界初録音」になるのではないでしょうかね。確かに、バーンスタインはスコアにある曲のうちの場面転換の音楽などをカットしていますから「コンプリート」ではないのかもしれませんが、今回のMMT盤でも、そこはやはりカットされているのですよ。
さらに、このスコアは「ブロードウェイ・スコア」と言うだけあって(いや、スコアそのものにはそんな表記はどこにもありません)、実際にミュージカルのピットでの演奏を想定しての楽器編成になっています。楽譜にある編成は、こんな感じ。
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このオケにはヴィオラがないんですね。弦楽器はヴァイオリンが7人、チェロが4人、コントラバスが1人だけ、さらに木管楽器はマルチリードで、「リードIII」などは一人で8種類の楽器を持ち替えなければいけません。でも、クラシックのオーケストラでこんなことが出来る人なんかいませんから、こんな編成表を忠実に守ることなんて出来るわけがありません。5人で済むはずのところがここでは11人に増えています。弦楽器も、それぞれ倍以上に増員しています。ですから、この演奏は「コンプリート」でも「ブロードウェイ」でも、ましてや決して「世界初録音」でもないのですね。いくらCDが売れないと言っても、こんな「不当表示」の山盛りは、自分の首を絞めるだけだという大事なことに、代理店は気づかないのでしょうか。
写真を見ると、サンフランシスコ響の本拠地のデイヴィス・シンフォニー・ホールのステージは、後方が一段高くなっていて、そこでソリストたちが演技をしながら歌っています。もちろん「ミュージカル」ですから、みんなハンズフリーのワイヤレス・マイクを付けています。SACDにはスコア通りに、ナンバーの中で語られるセリフしか入っていませんが、もしかしたら普通のセリフの部分の演技もあったのかもしれませんね。
キャストの中では、トニー役のシャイアン・ジャクソンが、伸びのある声でなかなか魅力的。「グリー」で、ボーカル・アドレナリンのコーチ役だったということですが、全く記憶にありません。マリア役のアレクサンドラ・シルバーは、ミュージカルのキャリアはまだ駆け出しのようで、まだまだこれから、という気がします。「アメリカ」のアンサンブルでコンスエロのパートを歌っていたLouise Marie Cornillezという人が、ミュージカルにはもったいないようないい声だったので経歴を見てみたら、オペラで活躍している人でした。
客席には映画版でアニタ役を演じたリタ・モレノなども座っていたようですから、さぞや盛り上がったことでしょう。ただ、「プロローグ」からして、なんともかったるいリズム感で、とてもミュージカルを聴いている気はしませんでした。さっきの「アメリカ」などは、リズム的には最悪。

SACD Artwork © San Francisco Symphony
# by jurassic_oyaji | 2014-06-15 20:28 | オペラ | Comments(0)
今年のツバメは成長が早い?
 今年は、なんだか暑くなったり寒くなったり、変なお天気が続きますね。一日で気温差が10度以上あったりするんですから、たまったものではありません。こんなお天気ですから、自然界も少しおかしくなっているのかもしれません。ま、本当におかしくなっているのは、この国の進む道を自分で変えられると勘違いしている、極端に滑舌の悪いあの人なんでしょうけどね。
 実は、私の自宅のそばに毎年巣を作っているツバメが、今年も順調に成長を続けているので、時たま写真を撮ったりしているのですが、なんか今年は去年よりもその成長の時期が早いような気がするものですから、実際にその写真を比較してみることにしました。
 まず、これが去年の6月27日の写真。まだ産毛が生えているぐらいの頃でしょうか、いかにも「雛」といった感じです。
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 それと同じぐらいに育ったツバメの、今年の写真です。
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 これを撮ったのは、6月8日です。去年より20日も早いですね。
 同じように、去年の7月5日の写真では、もう「鳥」という感じになっていましたが、
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 これも、今年は今日の時点(6月14日)で、ほぼ同じぐらいに育っていませんか?
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 まあ、これは単に、卵を産んだ時期の問題なのでしょうね。世の中のツバメが全て同じに日に卵を産むわけではありませんから、このぐらいの違いは普通に出てくるものなのかもしれません。でも、現に、タケノコだって、いつもなら5月の連休が終わってから本格的に出てくるものが、今年はまさに連休の真っ最中と、かなり早い時期に最盛期、そのおかげで「掘りたいかい?」もあれだけ盛り上がることが出来たのですから、他のところでも確実に早めにことが進んでいるというのが、今年の自然界なのですよ。梅雨入りしたのもかなり早かったようですし。
 まあ、長くやっていれば、そういう時もあるのでしょう。今年はそういう、何かいつもより早めに季節がめぐってくる年だった、と、後世の人は語り継ぐことになるだけなのかもしれません。
 そういう年ですから、今年は世の中では何か突拍子もないようなことが起きるのかもしれませんね。今現在、明日の朝に始まるサッカーの試合の結果で大騒ぎしていますが、私はみんなが期待している結果にはならないような気がしてなりません。はたして、どんな結果になることでしょう。
 そう言えば、かつては「象牙海岸」と呼ばれていた国の名前が、いつの間にか「コート・ジボワール」に変わっていましたね。意味は全く同じなのに。まあ、あまりに生々しい言い方はやめましょう、みたいな「気配り」のせいなのでしょうか。まあ、これはこれで、そんなこともあるのだなあ、と思えるものですが、逆に、全く同じ文章に、解釈次第で全く正反対の意味をもたせようとしているのが、さっきの悪滑舌男のしようとしていること。「日本語の乱れ」も、ここまで来るとあきれるほかはありません。
# by jurassic_oyaji | 2014-06-14 22:13 | 禁断 | Comments(0)
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Thomas Hengelbrock/
NDR Sinfonieorchester
SONY/88843050542




マーラーの、後に「交響曲第1番」と呼ばれることになる作品は、1889年にブダペストで初演された後、1893年に大幅に改訂されてハンブルクで再演されました。これが「ハンブルク稿」と呼ばれるものです。その録音は、以前こちらでデ・フリエントによる演奏によって聴いていました。その時のタイトルが「交響曲の形式による音詩『巨人』」というものであることが、今回のヘンゲルブロックのCDのジャケットに使われているこの稿による演奏会のポスターによって分かります。
初演の時に使われた1889年稿はもう失われてしまっているのだそうですが、1893年稿はその自筆稿のコピーが出回っていて、なんとIMSLPでも公開されています(低解像度のファックスで送信されたような、ひどい画像ですが)。デ・フリエントが使っていたのも、この自筆稿のコピーです。ジャケットに楽譜が写っていますが、これはそのコピーの154ページと155ページ(第5楽章「9」付近)ですからね。
そんなわけで、この稿はまだ印刷楽譜は出版されてはいなかったのですが、このたび国際マーラー協会で編纂されている全集版の一環として出版されることになったのだそうです。ただ、UNVERSALのサイトで見る限り、実際に楽譜の現物が発売になったという状態ではないようですね。これは、以前「交響曲第2番」のキャプラン版でもあったケースで、「出版された」と発表されてから数年たってやっと商品が世の中に出るという、不思議な現象です。あの時にもキャプラン版の「出版」にあたっては、かなり早い時期に「世界初演コンサート」というものが行われていましたが、今回もついこの間、5月9日にハンブルクのライスハレというところで、「世界初演コンサート」が開催されています。このCDは、それに先立って、同じメンバーによって2013年の5月と、2014年の1月に録音されたものです。つまり、このコンサートの時にはすでにCDは出来上がっていたことになりますから、会場では即売が行われたのか、あるいは、入場者には全員にこのCDが配られたのかもしれませんね(チケット代は、CD込みだったりして)。
そのように鳴り物入りで発表された新全集としての1893年稿ですが、どうやらその内容は自筆稿とはかなり異なったものになっているようです。楽譜そのものはまだ入手できないのですが、とりあえずUNIVERSALのリストによれば、木管は4-4-4-3、金管は7-4-3-1と、自筆稿の3-3-3-3/4-4-3-1よりも増えています。これは現行版(4-4-4-3/7-5-4-1)とほぼ同じ編成です(ただ、ここでは「in 4 movements」などという記載がありますから、このデータを全面的に信用するのはちょっとはばかられます)。さらに、自筆稿による演奏を行っているデ・フリエント盤とは、聴いてはっきり分かる違いもあります。そのあたりを、現行版との違いなどとともにまとめてみましょうか。
◇第1楽章
スコアの1ページ目から、現行版との違いがゴロゴロしています。弦楽器のフラジオレットに乗って出てくる「ラ-ミ」というモティーフの楽器が違っていますし、現行版ではクラリネットとバスクラリネットで奏される軍隊ラッパの模倣は、1893年稿ではホルンで演奏されていました。この部分は自筆稿も全集版も違いはありません。
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↑現行版
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1893年稿(自筆稿)


◇第2楽章
「花の章」と呼ばれているこの楽章は、現行版では丸ごとカットされています。

◇第3楽章(現行版の第2楽章)
1893年稿の自筆稿にはあった、冒頭のティンパニは、全集版ではなくなっています。そして、この形が現行版にも継承されています。
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↑現行版
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1893年稿(自筆稿)


◇第4楽章(現行版の第3楽章)
自筆稿では、冒頭の「フレール・ジャック」のテーマはコントラバス・ソロ+チェロ・ソロという「ソリ」の形ですが、全集版ではチェロ・ソロがなくなっています。これも現行版の形なのですが、実は現行版ではコントラバスはトゥッティというのが「新全集版」のスタンスです。
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↑現行版
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1893年稿(自筆稿)


◇第5楽章(現行版の第4楽章)
1893年稿では、いずれも練習番号「56」の後に、ティンパニが入っていましたが、現行版ではそれがなくなっています。
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↑現行版
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1893年稿(自筆稿)


そして、最後のページでは、エンディングのティンパニとトライアングルとバス・ドラムのロールだけになるところが、自筆稿では3小節(×2)だったものが、全集版と現行版ではともに1小節(×2)に変わっています。
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↑現行版
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1893年稿(自筆稿)


同じ「1893年稿」と言いながら、自筆稿と全集版とではなんでこれほどの違いが出てしまっているのでしょう。それは、一次資料の選択の違いによります。なんでも、自筆稿以外に、マーラーは出版のためのコピーを作っていて、そこにマーラー自身がおびただしい改訂を行っているというのですね。全集版の校訂者(UNIVERSALのサイトには、名前は明記されていません)は、こちらの情報をメインに校訂を行った結果、最初の自筆稿とはまるで違うものが出来てしまったのでしょう。
まあ、作曲家の意思を反映させたいという気持ちは分かりますが、この校訂者のおかげで、将来この「1893年稿」に関しては少なからぬ混乱が生まれることは、目に見えています。おそらく、この全集版の「1893年稿」は翌年のヴァイマールでの演奏の際に使われた楽譜にかなり近いものなのでしょうから、正確には「1893/1894年稿」と表記すべきものなのではないでしょうか。したがって、「ハンブルク稿」という言い方も不正確です。というか、どうせマーラーはこの先さらに大幅な改訂を加えてしまうのですから、この中間形態である自筆稿を、なぜそのままの形で全集に入れてはくれなかったのでしょう。今回のような楽譜を出版するのは、まずそれをやってからの仕事なのではないでしょうか。ほんとに、余計なことをしてくれたものです。
聴いたのは輸入盤ですが、なんでも国内盤にはこの稿についての独自のライナーノーツが掲載されているのだそうです。おそらく、その内容をセールスポイントにしようとしているのでしょう、国内盤のキャッチコピーは「これまで誰も聴いたことのない衝撃のハンブルク稿」という扇情的なものになっています。これは「ハンブルク稿」とは別物なのですから、「誰も聴いたことのない」のは当たり前の話です。まさに「笑劇」ですね。

CD Artwork © Sony Music Entertainment Germany GmbH
# by jurassic_oyaji | 2014-06-13 20:08 | オーケストラ | Comments(0)